「ポジティブな“トーン”でのインドネシア歴史の再編纂」に関する賛否
2025年06月09日付 Kompas 紙

ファドリ・ゾン教育文化大臣
Kompas.com配信
最初に、ファドリ・ゾン文化大臣は、政府によって作成された歴史の用語の定義が、重大な人権侵害の事例を2件しか記載していないという報道に反応した。
ファドリ大臣は、政府によって行われている歴史の再記述は、過去の過ちをあら探しするためのものではないと述べた。
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「我々のトーンは、よりポジティブなものだ。というのも、もしあら探しをしたいのなら、それは簡単なことだからだ。どの時代、どの時期にも必ず何らかの過ちはあるものだ」と、去る6月1日、西ジャワ州デポック、チブブールで取材に応じた際に語った。
ファドリ大臣は、インドネシア歴史の再編纂の目的の一つは、国民と国家の利益を団結させることであると主張し、「我々はこの歴史をインドネシア中心のものにしたい。植民地的なバイアスを減らすか、あるいは取り除くこと。そして何よりも、国民と国家の利益を団結させるために」と述べた。
ファドリ大臣はまた、歴史の再編纂は、過去の出来事が現在の世代にとって適切なものにすることを意図していると述べた。特に、過去の功績や達成に関連して、先人の成功から学びつつ、後の世代にやる気を与えるためである。
「つまり、我々が望んでいる我々の歴史のトーンは、ポジティブなトーンだ。スカルノ大統領(通称ブン・カルノ)の時代からジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)の時代、そしてその先まで」と同大臣は語った。
ありのままに
ナタリウス・ピガイ人権大臣は、ファドリ大臣の、ポジティブなトーンでの歴史の再記述という考えを支持している。
ピガイ大臣は、歴史編纂において前向きな表現を用いたのは、国家の歴史の歩みをありのままに伝えることが目的であったと説明した。
「つまり、すべての出来事を肯定的に描こうという意図ではない。歴史の出来事には浮き沈みがあり、良い点もあれば悪い点もあるものだ。それでも出来事の事実をありのままに記述することこそが、“ポジティブなトーン”というものだ」と去る6月3日、ジャカルタ・クニンガンにある法・人権省のオフィスにて語った。
ピガイ大臣は、これまでのインドネシアの歴史は、受け入れる者と否定する者の間で依然として議論の的になっていると述べた。そのため、同氏はファドリ大臣の提案を支持しており、「つまり書き直すというのは正しい。まさにその通りだ」と語った。
ピガイ大臣はさらに、法・人権省としても、特に出来事の真実性に関して、この歴史の再編纂作業を見守っていく方針であると付け加えた。
「だからこそ、私たちの場合は出来事の正確さを保証することに、より注意を払っている。事実に基づいて、ありのままに出来事を表明すること、それが正義というものであろう。文化大臣が意図しているのはあるがままに表現することであると、私は信じている」と同大臣は語った。
客観的でなければならない
福祉正義党(PKS)のアル・ムザミル・ユスフ党首は、肯定的なニュアンスをもった歴史の再編纂を支持している。
ムザミル党首によれば、客観的で公平かつ事実に基づいている限り、歴史の認識を改めるのは自然なことだという。
そのことは、去る6月7日に南ジャカルタの福祉正義党 DPTP事務所で行われた犠牲動物の解体活動に参加した後、ムザミル党首によって報道陣に伝えられた。
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「我々は、歴史が、時の流れに沿い、客観性と公平性を保って記述されること、重要なすべての側面、地域、人物を網羅すること、そして、れっきとした事実であることを期待している」とムザミル党首は述べた。
また、ファドリ大臣にはインドネシア大学文学部卒という背景があり、そして文化大臣という立場もあるため、歴史の編集記述は、成熟した判断によって成される、とも述べた。
「ファドリ大臣はインドネシア大学で文学を専攻し、私は政治学を専攻した。そのため、彼が歴史の編集を考えているなら、ましてや彼は我々の文化大臣でもあるので、十分に考慮されたのち、あらゆる専門家が参加し、各方面が貢献していけるだろう」
ムザミル党首は、出来事はもちろん、地域、人物それぞれの面において、歴史の記述にバランスを保つ重要性を強調した。
「我々は各国の歴史の記述は、しばしば、更新され、完成されていくものと捉えている。
客観的で、全方面からの記述である限り、それに問題はなく、私はファドリ大臣もそこに注意を払っているだろう」と彼は述べた。
検閲があってはならない
一方、国民議会(DPR)第10委員会におけるインドネシア闘争民主党(PDI-P)派閥のメンバーであるボニー・トリヤナ氏は、政府に対して、肯定的なトーンだけでなく、あらゆる側面から歴史の再編纂を行うように求めた。
ボニー氏によれば、過去の過ちも引き続き加えることで、将来の教訓にできるようにしなければならないという。
「こういうことだ、私たちは歴史をあらゆる側面から学ぶのだ。過去を再び繰り返さないための教訓とするためには、それが何であれ加えなければならない」と、同氏は去る6月3日、Kompas.comの取材に対して述べた。
ボニー氏は、歴史の再編纂において政府が良い面も悪い面も加えることがいかに良いかということを語った。そうすれば、ねつ造された歴史書になることはないという。
「もしも過去を明るい面においてばかり、良い面においてばかり美化するだけでは、改ざんされた歴史書になってしまう可能性がある。もし悪いことのみを語っていては、それもよくない。だから本当に良いのは、二つの側面を両立させ、さらには全ての視点を記述し、そうして私たちが学べるようにすることだ」と同氏は述べた。
「私たちが学べるようにというのは、私たちは今日一日のためだけにインドネシア民族として生きているのではないからだ。2年先も、10年先も、いつまでもインドネシア民族なのである。だからこそ何かを学び取るべきなのだ」と、ボニー氏は言葉を続けた。
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また、深刻な人権侵害の事例が2件しか盛り込まれていないという問題に関して、新たな歴史書には全ての事例が掲載されると述べた編集者がいるという点にボニー氏は触れた。
過去における深刻な人権侵害の事例に関して、政府によってなされる検閲があってはならないと同氏は語った。
「やはり選択的な検閲をしてはならない。そして、だからこそ民族としてのわれわれの集団的記憶が、選り好みをするようなものでないことが望まれるのだ。もし選り好みをしていれば、われわれは何も学ぶことができないだろう」と同氏はコメントした。
ボニー氏は、プラボウォ大統領もインドネシアの状況を改善しようと考えているはずだと確信している。
そのため、政府は過去の過ちから学ぶことで、この歴史の再編纂を役立つものにしなければならないという。
歴史学者の説明
国家史の再編纂に携わっている歴史学者、シンギ・トリ・スリストヨノ氏は、肯定的な語り方、あるいは肯定的な「トーン」による歴史編纂によって、実際の栄枯と合致したインドネシア史の流れが生み出されていくと語った。
肯定的なトーンには、編纂された歴史が憎悪に溢れた語り口だという印象や、断罪的だという印象を与えないようにする目的があると、同氏は述べた。
「ファドリ大臣が言うところの肯定的なトーン、つまり断罪的でなく、ネガティブな感情や嫌悪感の付きまとわない語り口を用いるべきだ。なぜなら歴史編纂は、われわれが一つの民族として歩んできたダイナミズムやロマンの一部だからである」と、同氏は去る6月8日、Kompas.comの取材に対して語った。
シンギ氏はディポネゴロ大学の歴史教授であり、ファドリ大臣が主導した文化省のプロジェクトのインドネシア史の再執筆者であり編集者でもある。
良くも悪くも続いてきた一つの民族の道のりを物語ることで歴史の記述は行われると、同氏は語った。
そのことは若い世代に教訓を与えるために歴史の記述に盛り込まれなければならないと同氏は述べる。
「良いと見なされること、悪いと見なされること、栄光と見なされることや衰退していると見なされること、それら全てが一つにまとめられ、それは一つの民族としての教訓のダイナミズムとロマンの一部である。それらは読者または将来の世代のための教訓にされる。」と見解を示した。
政府が作成した歴史の作業要綱に重大な基本的人権の違反例が2件しか記載されていないことに関して、政府は過去に起こった基本的人権に違反した事件を無視することなく、政権が苦労して獲得した成果を強調したがっていると、同氏は述べた。
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「悪いことは隠蔽されるわけではない。神の思し召しにより必ずや、それらは一つの民族として共に生きてきた教訓のダイナミズムとロマンティックの枠組みの中で記され、共に学べる教訓になる」と同氏は語った。
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( 翻訳者:磯村佳凜 )
( 記事ID:7153 )