色のそろわぬ色鉛筆(10-3-9-1)

2014年01月27日付 The Voice 紙
 「パゴダの由来を聞きますか。心付けをくれるだけでいいですよ」まだ10歳ほどのマ・ピョー(仮名)は、ミャンマーの古代都市バガンにある古刹ローカナンダー・パゴダで、参拝に訪れる人を見つけては後を追い声をかける。
 観光地である古代都市バガンの都城跡は、涼季に入ってからさらに活気づき、12月、1月の期間、観光客が最も多い。
 地元の人々も、その時期を待ち望んでおり、観光の分野にサービス業で入り込みなんとか生計を立てようと、全力を注ぐ。そのなかに、小学校4年の子供案内人、マ・ピョーもいる。
 マ・ピョーは2013年から、ローカナンダー・パゴダで、パゴダの由来を説明する子供のひとりとして、仲間入りを始めた。すべてを理解できてはいないが、覚えて知っているかぎりを何度も説明するうちに、上手に説明できるようになり、国内外の多くの観光客がパゴダに訪れる1月には、一日4000~5000チャット儲けられることもよくあると彼女は語る。
 「学校が休みの日には、このパゴダに、私のように由来を説明する子たちが、20人ほど集まる」と、自身も、学校帰りや学校が休みの日に、ローカナンダー・パゴダで、いつも説明しているマ・ピョーは話す。
 兄弟姉妹5人のなかでは、4番目の娘であり、家計においても、一部を担っている。
 パゴダへの観光客が多い時期には、家族のために、家計の手助けができるが、観光客の少ない時期になると、1日につき1000チャットほどしか稼げないこと、パゴダの由来に耳を傾ける人は、ミャンマー人のパゴダ参拝者だけで、英語では、一種類の説明しかできないため、海外からの観光客には説明ができないことを、彼女は語った。
 パゴダの由来の説明をはじめてから、1年ほどになるマ・ピョーのように、3種類以上の説明を暗記して覚えている子どもは少ない。そのため、子供たちからパゴダの由来の説明を聞く人も大変少ない。
 年に似合わず、バガンの歴史や物語を説明できるマ・ピョーのような子供たちは、パゴダを訪れる人たちから、小金をもらうと、お返しに彼らにお祈りをする。ほとんどの子供たちは、観光客が興味をもっている古代都市バガンにあるスウェドーレーズーと呼ばれるパゴダ*、シュエズィーゴォン・パゴダ、ローカナンダー・パゴダ、ダマヤンヂー・パゴダ、マヌーハ寺院の由来だけを暗記して、十分には歴史を知らない。
 いずれにせよ、バガンに訪れると、シュエズィーゴォン・パゴダ、ローカナンダー・パゴダ、ダマヤンヂー・パゴダ、ブー・パヤー、マヌーハ寺院などで、マ・ピョーのような子供たちが、大変多く見られる。バガンの仏教遺跡で、説明している子供たちの中には、様々な事情で、継続して教育を受けることができない子供もたくさん含まれており、学校に通っている時間帯には、仕事をする子供が少ないことが、前述の子供たちの話から分かる。
 海外からの観光客の中でもタイの僧侶たちは、子供たちからポストカードを少しばかり余分にお金を出して買う場合もあれば、小遣いを与えることもあるので、観光客の訪問が多い時期には、子供たちがよく期待して待っていること、パゴダの由来を、自分より経験を積んでいる人から繰り返し聞いて習ったり、先生から教えてもらい暗記して覚えられることを、マ・ピョーより経歴が2年以上多い子供の1人が語った。
 彼女は、同じくパゴダの説明をしている子供たちの中では、かなり経験を積んでいて、他の子供たちが説明するときに、間違っている部分を、たびたび指摘し、彼女自身もパゴダの由来を上手に話す。
 マ・ピョーの生計手段は、家計のためにお金を稼ぐ、最も正直な方法の一つである。
 古代都市バガンに暮らす人々は、観光業が発展してきたために、先祖代々の生計手段のほとんどを手放していった。従来農産物を栽培、出荷していたものが、現在、バイクタクシー、土産物の販売、ゲストハウスの運営、ホテルの運営など自身の経済状況にあわせて、稼業を変えていった。
 「以前は、小規模な地場産業や仲介取引所などがあった。いま、この地域の産業は観光により力を注いできている。地元の特産品は、ポンイェイジー[訳者注:コウシュンフジマメを煮て発酵させた上ビルマ産の酢]と漆器だけしか残っていない」と40歳を超えたニャウンウー市民のウー・ポーゾーが語った。
 その変化のために、生計を担うマ・ピョーの暮らしが作りだされている。けれども、まだ十分に保証された手段ではないことをマ・ピョー自身もよく理解している。「妹は、私のようにはさせません。続けて学校に行けるように」と彼女が言ったとき、その瞳が一層輝いて見えた。

*スウェドーは「仏歯」レーズーは「四基」を意味し、バガン王朝のアノーヤター王がセイロンより請来したとされる仏歯に纏わる由来をもつパゴダを指す。シュエズィーゴォン、ローカナンダーにも仏歯が奉納されていると伝えられる。


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翻訳者:松浦宇史
記事ID:550