六本瓶坊主(1)

2014年01月06日付 The Voice 紙
 ラプッタの町はずれの出来事だった。体中が泥で汚れた二人の男を、周りの人が抑えていた。二人の男は罵詈雑言を浴びせ合い、今にも相手を殺しそうな勢いである。
人々が引き離したそばから、その二人は腕を振り払ってまた川に飛び込んだ。人々はまた二人に倣って川に入って、二人を抑え込まねばならなかった。やっと二人を引き上げ、川から上がると、全員の体中が泥だらけだった。皆が力を合わせて引き離していたのだが、二人の男はまだ暴れ続けた。その後、人々は二人を小屋に入らせた。二人は、みんなに押さえ込まれて体は動かなかったが、口の方は罵り言葉が止まらない。
「どうしたというんだい」と僕が尋ねると、男を川から引き上げるのを手伝った女性が答えた。「川の向こう岸に住んでいらっしゃるお坊さんとけんかしたのよ……お坊さんは台風の時にもらった援助物資を親類にばかり配ったものだから、彼は『おかしいじゃないか』と言ったの。そしたらお坊さんが顔を蹴ったのよ。彼は『蹴られた!』と言ってけんかになったのよ」
女性が私に話しているのを、横で聞いている人がいた。女性が去ると、その人は言った。「冗談だろ。お坊様は悪くない。台風の時、あの寺では援助が届かないうちからこの地区の住民になけなしの食料をふるまっていたんだ。あの野郎が、酒に酔って寺の入り口に座って騒いでいたからお坊様がみっともないとお思いになって顔を蹴ったんじゃないか。」
ここで女性側の言い分を聞けば女性の方が正しく思え、僧侶側の言い分を聞けば僧侶側の方が正しく思える。どちらが正しいにせよ、問題はすでに起こってしまっている。
「家を建てるなら、百世帯長に言えばいい。竹をこれだけ、トタンをこれだけ、板をこれだけよこせ、ってね」と、乗っていた船の船頭が言った。僕は、なぜそんな要求ができるのかと尋ねた。すると、「俺はあいつらのしたことを知ってるからさ。俺が要求したものを渡すならそれでいい。渡さなければあいつらがした事を暴露するまでさ」と言った。僕は、船頭の言う「あいつらのした事」という言葉が気になった。なぜかと言うと、一部の村の権力者が公金流用の不正を働いたという報告を耳にする事があるのだが、具体的なことを尋ねても、誰も現場を自分の目で見た事がないのだ。今聞いた船頭の証言ならば確実だ。これで公金流用の裏付けをとることができる。
 詳しく聞いてみると、船頭の住んでいる村は問題を数限りなく抱えており、物資が消える村として有名なところだった。その村では、僧侶と百世帯長が不正に利益を得たという報告や、村長が僧侶と仲が悪く自分勝手にさまざまな形で不正をするという報告がある。町にある救援センターに、僧侶と書記長が悪事をはたらいていると村長が報告に来れば、僧侶の方も所長が悪事をはたらいたと訴えに来る。このように、他人の悪評を立てることに専心する村なのである。
 三日前、村の建築資材とするよう政府から支給された竹材のうち、2000本を百世帯長が転売したという。売却の際、竹材を町に運ぶのにこの船頭の船を借りたのだそうだ。だから船頭は物資の横流しに付け込んで必要な資材をいただくというわけだ。
 村落での住宅再建を決定して以来ずっと、僕たちが定めた規格の通りにきちんと建設するように村人らには言ってあった。なぜかと言うと、いい加減な工事をすれば家の耐久性が不十分となる上に、地面で生活するのと変わらないような手抜き工事だと多大な費用を支出しながら、村に何の利益にもならない。寄付金を提供してくれた人にとっても寄付しがいがないだろう。だから、家はくれぐれもきちんと建てるように注意しておいたのだ。
 しかし、言ったそばから注意を守らない村もいくつかあった。だから、僕たちはほぼ毎日住宅再建を支援している村々を巡回した。そうして、カンバラタピンチャウン村という小さな村落にやってきた。


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翻訳者:井坂理奈
記事ID:618