ティラワーの土地から日本への抗議書(10-22-7-1)

2014年06月16日付 The Voice 紙
 ティラワー経済特別区プロジェクトにより、立ち退きの対象になった地元住民らが、移転について不服を訴え、この6月2日に日本のJICA事務所に異議申立書を届けた。
 これは日本国際協力機構(JICA)始まって以来の、公式な異議申立となる、と日本大使館公使の丸山市郎氏は述べた。
 日本政府の国際プロジェクト実施機関であるJICAが発表している環境社会配慮ガイドラインを、そのJICA自らが守っていないこと、移転地で暮らす住民は多くの困難に直面していることが上述の異議申立書に記されている。
 自然環境と社会的損失並びに住民の生活に損害が生じないよう、世界銀行(World Bank)、アジア開発銀行(ADB)が出している基準に合わせ、JICAのガイドラインを制定しているが、実際には、ティラワープロジェクトのために移転を迫られた住民らは、生活の困難に直面している。
 彼らが居住するミャインターヤー新拡張地区では、電気の便はよいが、生活飲料水は濁り、家の裏には排水する空き地がなく、それまで従事していた職場から遠くなり、契約を打ち切られ失業、教育年度途中での転居で、学校に通う子供たちの勉強にも支障が生じるなど、生活の困難に直面していると移転した住民らは語った。
 ティラワー経済特別区プロジェクト第一フェーズにおいて、400ヘクタール区域内に居住していた68世帯は、25フィート×50フィート区画の土地と250万チャット相当の家を含む補償13種類を、ヤンゴン管区域政府から支給されたが、人の住む地区に実際に必要となる道路、生活飲料水は、形だけ整備されたにすぎなかった。
 移転地で家を建てるためにそれまでの仕事をやめざるを得ず、得られた補償金は家を建てる経費に消えてしまい、収入がないので食事にもこと欠き、家庭内の問題さえ起きるに至っていると、縫製工場で働くドー・ミャミャサンがもらした。
 「夫は、ミャンマー国際港ティラワー(MITT)で貨物の積み下ろしをしていた。家を建てることになって、見[張]る人間がいないので、仕事に行けず、職場が遠くなって給料と交通費では割に合わない。仕事もなく家にいる」と彼女は述べた。
 転居した住民には、車の運転、食品作りなど生計手段に結びつく研修が用意されているが、そうした研修で勉強する気にはなれないと住民は語る。
 「研修では、ゼリーの作り方等々を教える、研修が終わる前には機械類の援助もあると言っていたのが、いざ終わってみると、誰一人姿を見せない。手持ちの資金もないく、何をすることもできない」と食品研修を終えた住民の一人は語った。
 日本の参議院議員の石橋氏は、今年5月1日に上述の住民が住む地区を視察し、飲み水が濁っていて、雨季には洪水冠水が起きるといった問題があると述べた。
 生活飲料水用に井戸とポンプが設置されているが、そこから出る水は紅茶色をしていて、井戸の水も藻や微細な不純物で濁っている。
 また一軒一軒の家が、それぞれ背中合わせになる区画になっていて、排水する場所が設けられていないため、家の敷地内に水がたまっていると、転居したウー・エーカインウンは述べた。
 「一度ここに来たらわかるさ。家の裏には水のはける場所がないので、水がたまり、排水とし尿とで汚い。家の前の道も陥没している」と話す。
 ティラワーのプロジェクトで住民が移転してまだ1年にも満たないが、直面している困難はすでに数えきれない。
 転居した住民が直面している困難についてJICAに申し入れたが、無視されたと彼らは述べた。
 「レターを何度も送った。JICAの担当者に会って話し合いを持つよう要求した。一度も応答がなかった」とティラワー社会開発グループのウー・ミャフラインは述べるが、地元住民を無視したというのではない、現在直面している問題はミャンマー政府が[当事者と]会って解決すべきものであるとJICA側は回答している。
 ティラワー住民の移転問題は、JICAが責任を負っているのではなく、ミャンマー政府が責任を持つべきものであるとJICAミャンマー事務所の田中雅彦氏が述べた。
「この問題(転居)は、ミャンマー政府が主になって行ったものである。こうした経験がミャンマー政府にはこれまでなかったので、一部で支障が生じている」と同氏は言う。
 ティラワー経済特区プロジェクトにはミャンマー政府と民間企業が、10パーセントと41パーセント、JICA(日本政府)と日本企業連合が10パーセントと39パーセント、それぞれ参画している*。
 プロジェクトが理由で、選択の余地のない形で移転した住民が社会的損害を被ることがないよう、以前の生活水準に劣らない状況を創出すること、とJICAのガイドラインには示されているが、現実とは全く乖離している。
 上記住民は、従来の生業であった農業と畜産を手放した損失により、あるべき収入が減り、港湾において貨物の仕事に携わっていた者も、失業しているため、以前の生活水準に劣らない状況を生み出すと保証をしたヤンゴン管区域の転居計画[とは何だったのか]が問われている。
 移転した住民の仕事の保証、以前の収入水準の回復に向け、3年間経過を見るとティラワー経済特区委員会の担当者の一人は述べたが、実が伴わない結果となっている。
 プロジェクトにより移転した住民について、ミャンマー政府はとりまとめには成功したが、移転後の住民の生活に対する見守りを怠った。
 ミャンマー・日本二国間政府と民間企業が合同で実施するティラワー経済特区プロジェクトが理由で、移転した住民たちは困難に直面しているが、そのプロジェクトに投資する人々が特区内へ間もなく入ってくる。
 ティラワー経済特区の最初の投資者として、アメリカ企業のBallコーポレーションと日本の車部品生産会社が、この6月6日に調印し、工場建設を始めるものである。
 プロジェクトの残り2000ヘクタール内に暮らす住民調書の作成も今年5月末から始められており、それら住民に対し、政府としてどう対応し、問題解決を図るのか注視しなければならない。
 プロジェクトが始まった2012年4月から2年余りの間に、プロジェクトをスピィーディーに実行に移すことができ、プロジェクト地域内の環境損失と移転の問題を円滑に解決することができれば、国際基準に合致した経済特区となることができると日本大使館公使の丸山市郎氏は述べた。
 ティラワー住民3人が自ら日本へ赴き、6月2日異議申立書をJICAの審査役らに手渡した。
 その異議申立書に基づき、日本政府とJICAの担当者を含まない第三者組織が、調査決定を下すことになるとJICAは述べている。
 「約束したことは守り実行する。不十分なところがあれば解決できるよう努力する。ミャンマー政府に経験がなかったということもあるだろう。すべてうまくいくと確信している」と同公使は補足した。

*ODA二国間援助の実施機関である国際協力機構(JICA)は2013年6月7日ミャンマー政府との間で総額510億5200万を限度とする3件の円借款貸付契約に調印。3件とは1)少数民族地域を含むミャンマー全土でのインフラ整備、2)ヤンゴンを中心とする電力の安定供給のための支援、3)経済特別区ティラワのインフラ整備であった。加えて2012年10月から海外投融資(政府ではない民間企業に融資、出資)を再開したJICAは、3)に関し、2014年4月23日、日本企業連合であるエム・エム・エス・ティラワ事業開発株式会社(MMST)、ティラワSEZ管理委員会(Thilawa SEZ Management Committee)、およびミャンマ-ティラワSEZホールディング株式会社(Myanmar Thilawa SEZ Holdings Public Limited)からなるMJティラワ・デベロップメント社(Myanmar Japan Thilawa Development Ltd.、MJTD)との間で、「ミャンマー国ティラワ経済特別区(Class A区域)開発事業」を対象とした合弁事業契約書に調印。それにより株主構成は、日本側 (MMST、JICA)49パーセント、ミャンマー側(TSEZMC、MTSH)51パーセントとなった。


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翻訳者:原田正美
記事ID:847