(社説)民族と宗教(Daily, Vol-4/No-63)

2016年06月23日付 The Voice 紙
 同じ場所で生まれ、共に居住してきたところから群集を形成した後、歴史や文化、慣習、言葉を共有するようになった種族集団を民族と呼ぶ。
 たとえば、タイ人や中国人、日本人、ビルマ人など、それぞれの国ごとに括られる種族集団もあれば、一国の中に共存するカチンやカヤー、カレン、チン、ビルマ、モン、ヤカイン、シャンなどの各エスニック集団もまた民族と称される。
 宗教はといえば先祖からの伝来により、もしくは自ら宗教を探求し、研究や実践をすることにより、信仰していることを意味する。今日世界の人々に最も多く信仰されているキリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、仏教のような思想、教義、行動規範などを信仰実践しているのだ。
 別の言い方をすれば、民族は生きている人間の身体面に基づき区別する指標であり、宗教はそれぞれの民族の精神的信仰心を代表している。
 民族は同じでも、信仰が同じであるとは限らず、民族と信仰する宗教を一対にすることはできない。たとえば、中国人といっても仏教徒、キリスト教徒、イスラム教徒など精神的信仰は異なるものである。
 ミャンマー国内でも民族は100以上もあり、信仰する宗教も主要4大宗教を含め、他にも種々存在する。ミャンマー人はみな仏教徒であると断定することはできず、同様にチン民族がみなキリスト教徒というのでもない。
 したがって、国際連合のみならず国際社会までもがロヒンギャ―と名付けをし、他方ミャンマーではベンガル人として知られているバングラデシュ側からミャンマーのヤカイン州へ移住した一民族集団の問題は、仏教とイスラム教が直接関係する問題ではない。
 それゆえ、その民族集団の問題を国連総会のような場で、どのように呼ぶべきか、議論が起き、「ヤカイン州に住む仏教徒」と「ヤカイン州に住むイスラム教徒」という言葉を用いるとミャンマー国が申し入れしたことに対し、ヤカイン州のヤカイン民族は拒否しているのである。
 実際ヤカイン州で生じている問題はその地方で歴史的に代々定住してきた人々ではない移住者が徐々に勢力を拡大していったことによる社会問題に端を発し、民族・宗教問題へと様相を変えていったのだ。
 その状況で、もともと使用していた「ベンガル」と「ヤカイン」という民族を基にした呼び名を、「イスラム教」「仏教」という宗教を中心とした呼び名に変えるよう申し入れをしたことは、ヤカインという歴史的に非常に長く、確固とした勢力のあった一つの民族名を霞ませ、宗教のみ礼讃するかのような趣旨になりかねない。
 その上、とてもデリケートで過度に傷つきやすい宗教名称であるため、元々悪意のある国内外の民族問題・宗教問題に関わる過激派が、国内全土にいるその宗教の信者だけでなく、諸外国の過激派をも巻き込み、民族・宗教問題をない交ぜにして煽り、テロや争いを作り出す危険性がある。
 それゆえ、ヤカインの地域に関する呼称の問題については、いかなる外国の反対も重視し考慮する必要はなく、ヤカイン地域と十分に協議した上で、両者にとってできる限り齟齬の無い呼び名にすべきであるということを提言するものである。編集者(2016年6月22日)


同じジャンルの記事を見る


翻訳者:河野美由貴
記事ID:2678