(メディア・エッセィ)バダウの花の記録

2021年04月07日付 その他 - ミャンマーハープメディア 紙

今日バダウ(*1)の花が咲くだろうと、昨日から予想していた。通りかかる道路一帯にあるバダウの木がそれぞれにつぼみを付け、4,5日前から空に雨雲がかかっている。少しでも雨粒がかかれば、パダウの花が一斉に咲くであろうことはあらかじめわかっているが、いつもの年のような嬉しさやら、花を愛でる気持ちは失せている。

花を愛する、国民の指導者の顔、笑顔で国民と接してくれていた様子が目に浮かぶ。

軍が政権を握って2ヶ月と4日が経つ。国民はよく眠れず、心配や恐れで、自宅の窓からですら、顔を出せない状況。夜間外出禁止令の下、自宅内に引きこもっているが、軍用車両が通り過ぎていき、中には通りのなかに入ってきて止まることもある。

「一人も出てこないように!外を見たりしないよう!撃つからな!」と、軍が外から呼ぶ声を、どう解釈したものか考えるのも難しい状況下で、家の壁に当たるバンバンという音が、バチンコ玉なのか、ゴム弾なのか、実弾なのかについては、聞き分けられるほど聴覚が研ぎすまされてきた。

独裁者への抗議中に撃たれた人、家にいるときに侵入され連れていかれて、翌日には変わり果てた姿で戻ってきた人、家にいながら乱射された弾に当たって亡くなった人、通りを歩いている最中に軍用車両にたまたま出くわし銃殺された人、仕事から戻る送迎車が襲撃されて亡くなった人など、不当な形で銃撃され死亡した人間は500人を越え、逮捕された人は何千人にもなる、そんな時期である。

国民すべてが、悲しみで胸も張り裂けているような時期に、バダウは開花した。

ミャンマーとバダウは切り離せないように、新年(水掛け祭り)とバダウも切り離せない存在だ。水掛け祭りの時期にバダウを咲かせるためか、水かけ祭りの前に雨が降ることが多い。「水掛けの雨」とか、「水掛けの手を清める雨」だとも呼ぶ。花に水を吹きかけるかのように、柔らかな雨が降ることがよくある。水掛け祭りの恵みの雨が降ると、その翌日には、バダウの花が、一斉に咲き誇る。

しかし、世界的気候変動の影響で、バダウが咲かない年もあった。時期遅れで咲く年もあった。パダウなしで、花を見ることもないままに、水掛け祭りを開催し、新年を過ごしたこともあった。

今年の春はことに美しく、こんな不実な人々が国家と国民を抑圧しているのでなければ、春の美しさに皆幸せに満ちて微笑んでいたことだろう。
いつものように花を咲かせる小雨ではなく、嵐のような雨のなかで慌てて咲いた花ではあるが、それでも美しかった。

花がたわわに咲くバダウの枝を髪にさす人はいるだろうか。
残酷なまでの美を乗せた黄金の花が咲き誇る。

今日咲いたバダウは、まさに、バダウらしい色そのものだ。枝を折って、木の下で販売しているバダウ売りを見ながら思い出した。日本では、桜が満開のとき、外で桜の美しさを思う存分満喫し、その美に価値を置いて、枝を折らずに美しいままに留め置くという。そのように他国では花を摘まず、その美しさを見るにとどめると書いてあった。

あっちのバダウの樹2本は、木のてっぺんに咲いているだけなので、樹を登り枝を折ろうとする人もいないだろうし、登る勇気のある人もいないだろうが、黄色のバダウをきれいに髪にさす年配の女性の頭のようにも見え、なんとも美しい。このバダウの通りは、来週ぐらいまで、(もし雨が弱まれば水かけ祭りの日まで)、美しいままで残ることだろう。
「お客さん、バダウの花がきれいです。なんとも美しい色ですよ」
「お客さん、花もぎっしりです。なんともきれいで、ほら、このように香りも良いですよ」
市場の入り口で競って掛ける声により、雨にずぶ濡れのまま、バダウを売る人たちに目をとめることになった。夫と思われる人は、命がけでバダウの木のてっぺんに上り、摘んでいたらしい。民族衣装(パソー)の、尻に挟んでいた端をほどき、バダウの枝を地面に落としている。別の人間は、サイドカー(*2)に積んでいる。妻は枝を集めて結んでいる。小さな娘は雨の中でがたがた震えながら、お客がくれたしわくちゃの5百チャット札を、水を吸ったエンドウ豆みたいに皺のよった手で受け取る。

その日暮らしの人々、一部の地域ではバウと呼ぶ、なんでもやれることをやって一日一日を過ごす人々にとって、花というものを摘まず美を愛でるということは理解できない。食べるものがないということはわかっている。食べるためには、高い建物だって昇る。菩提樹だって伐採する。菩提樹の根だって掘り起こす。建物の上に生えている樹も切る。コロナ禍ではあっても登る。
クーデターが起こって銃撃があっても登っている最中だ。手を動かしてようやく口にものが入るような人生なのだ。

バダウの木が咲いた。
前日から樹を見て覚えて、どの樹に上るか選んでおく。今日こそバダウが咲いた。おなか一杯食べられるだろう。妻も娘もついておいで。この国は日本でもない。韓国でもない。シンガポールでもない。

60年も後退させた、権力狂いの独裁者の下では、日本やシンガポールのように、花を摘む人間を批判することが果たして正しいのだろうか。

「じゃあ、バダウの花を500チャット分ちょうだい」
そうやって、彼らを励ますことにした。

ティッヌェ

注1 バダウ(ビルマカリン)は、マメ科の植物、学名Pterocarpus macrocarpus。本コラムにもあるように、4月の最も暑い、新年(水掛け祭り)の前後に1度だけ咲くことで有名である。また、雨が降ったあとに花が咲くため、雨が来ないと、開花は遅れる。

注2 自転車の横に車台を取り付けた乗り物。

Myanmar Harp Media 2021/4/5 16:59


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翻訳者:ビルマ語メディア翻訳班(TK)
記事ID:5846