バングラデシュ・インド関係は良い方向へ~イムティアズ・アハメド教授に聞く~
2014年06月01日付 Prothom Alo紙

(5月18日付)
インドで実施された総選挙では、ナレンドラ・モディ氏の率いるBJP・インド人民党が絶対多数を得て勝利した。プロトム・アロ紙では、BJP内閣発足を前に、インドとのバングラデシュの関係の今後について、イムティアズ・アハメド・ダカ大学国際関係学部教授に聞いた。
(聞き手:ファルク・ワシフ)

プロトム・アロ紙(以下プ):最近行われたインドの総選挙で、ナレンドラ・モデイ氏の率いるBJPが大勝したことは、バングラデシュ人にとって不安材料となるのか?特にモディ氏は、バングラデシュおよびバングラデシュ人について敵対的なコメントをしているが?

イムティアズ・アハメド教授(以下イ):選挙運動をモディ氏は2つの流れにそって、すなわち2つの論点を中心として展開した。ひとつは経済発展ということであり、モディ氏の言葉を借りれば「グジャラート・モデル」だ。氏はこのモデルを構築し、州首相をつとめていたグジャラート州ばかりでなく、広くインド全体で注目を集めるべくつとめ、実際選挙ではその成果も得た。
もう一つの流れは宗派対立関連、つまり宗教的乖離をあおる発言だ。選挙運動でモディ氏がバングラデシュについて宗派対立的発言を行ったという事実は決して軽いものではない。しかしながら、その時から今までに状況は変わっている。選挙運動期間中、宗教や宗派対立の問題を取り上げて票集めを画策するのはバングラデシュでも行われていることだ。インドでも同じことが行われているのは疑いのないことだ。しかし選挙が行われてみると、BJPは絶対多数をとってしまった。BJPがこれほどの議席を確保するとは、おそらくモディ氏自身も考えていなかったのではないか。今回のBJPの勝利は、過去30年間の記録を破る、思いもよらぬほどの大勝だ。ある政党が単独過半数を得て組閣に臨むという状況は、この30年間、インドで一度も見られなかったものだ。BJPはモディ氏を押し立てて戦い勝利したので、モディ氏の手にすべての権力が集中することになった。BJPが他の政党や団体に気兼ねする必要はない。有権者もモディ氏を単独の権力者とすることで、国内の安定と、安定した中央政府の存在への支持を示したわけだ。このような状況においては、モディ氏が対立的な施政をおこなうことは望ましくない。モディ氏が宗教的対立でなく、経済的発展を前面に押し出すことを期待する。対立とその結果生じる不安定な状況が生まれたら、経済発展は阻害される。これほど多くの支持を得て対立の政治を選択することはモディ氏にとっても不適切なことになろう。こうした理由から、インド新政権にとって大事なのは、経済発展を最優先することだと考える。そうなればインドとバングラデシュの関係は大幅に良好なものになり、バングラデシュが得るものは大きいだろう。

プ:バングラデシュの現政権は、インドでこれまで政権をになってきた会議派とは親密な関係にあったわけだが、そのことがBJP新政権との関係において障害とはならないか?

イ:バングラデシュの現政権と国民会議派の間には、家族動詞の付き合いや個人レベルでの関係が存在するので、そのことがBJPとの関係において一種の心理的距離を生む可能性があることは心に留めておく必要がある。バングラデシュで今年1月5日に行われた総選挙について、国民会議派は何の動きも見せなかった。つまりアワミ連盟はのぞむ反応そのものを、国民会議派から得ていたわけだ。しかしナレンドラ・モディ氏にはアワミ連盟の誰かと、またはある一族とのそういったしばりは全くない。モディ氏にとっては、自国の経済発展実現のために、バングラデシュの早急な安定が最優先事項となるだろう。インド北東部を発展させようとすれば、インドにとって、バングラデシュとの友好的協力関係維持が必要となる。そしてその目的のために、両国間の未解決の諸問題の解消がありうると思う。バングラデシュで1月の選挙の結果生じた問題解決への環境を整備する必要がある。それにはインドの前向きな態度が不可欠だ。まずアワミ連盟とBJPの間で対話が行われるのではないか。そもそもバングラデシュ国内の問題は国内で解決しなければならないのではあるが。

プ:バングラデシュとの関係は、BJPの外交面での成功と大きく関わってくる。そこでBJPのムスリムに対する宗派的な方針は障害とならないだろうか?

イ:モディ氏あるいはBJPとアワミ連盟政権の間には心理的距離があれば、宗派対立の問題が両国関係に影響を及ぼすことも考えられるが、インドとしてもバングラデシュのことで目をつぶってはいられない事情がある。経済成長のためにはバングラデシュとの良好な関係が必要だ。ナレンドラ・モディを媒介としてバングラデシュ-インド関係が進むチャンスがあると見ている。モディ氏には、対立の政治はもはや不要のものだ。インドには多くの少数派がいる。そのため、それと知りながらあえて宗派対立という毒を口にする理由はない。BJPは単独で政権を作れるのだから、宗派対立を標榜する勢力を満足させるとか、その流れを正面に押し出す必要はない。国民にしても経済発展の流れを望むだろう。経済成長達成に失敗したときには、政策として宗派対立をあおるようなことがあるかも知れないが。

プ:選挙運動を展開していた時、モディ氏はバングラデシュからの不法越境者をバングラデシュに送り返すと言明した。これはあくまで選挙対策のための発言だったのか、それともモディ氏の政治的信条が反映された発言ととらえるべきなのだろうか?

イ:私としては今のところ選挙対策だったと考えている。選挙運動の時には確かにそういった発言もあったが、選挙で圧勝したためそのことを繰り返す必要はなくなってしまった。それにその発言のためにモディ氏は西ベンガル州ではうまくいかなかった。逆に西ベンガル州首相のモモタ・ボンドパッダエがその発言から利を得たといえる。ただ選挙期間中、モディ氏がバングラデシュをソフト・ターゲットとしたことは事実だ。彼の支持団体の中には宗派的なグループもあることは懸念材料ではある。そういった勢力が今後どう出るかが問題だ。選挙運動で訴えた成長を実現できるのなら宗派対立を持ちだす必要はない。だが、モディ氏の任期中は経済成長の流れは滞ることはないと期待している。なぜかというと、インドの実業界がモディ氏を強く支持しているためだ。実業界としては成長の流れが宗派対立のために阻害されることは決して望んでいない。

プ:退任するマンモーハン・シン首相はバングラデシュについて、モディ氏に引き継ぎをして行くと聞く。BJPとしてはそういった前任者の意見をどれほど取り入れようとするだろうか?

イ:マンモーハン・シン氏は対バングラデシュと対中国関係についてモディ氏に考えを伝えたと言われているが、それがもし本当のことであれば国民会議派がまたひとつ過ちをおかしたということになるだろう。モディ氏はマンモーハン氏を高く評価はしていない。そのような引き継ぎ事項にモディ氏が耳を傾けると考える人たちは、モディ氏を、BJPをよく知らないのだ。モディ氏がグジャラート州でこれまでどんな仕事をしてきたかも知らないのではないか。対バングラデシュ関係でモディ氏が会議派の方針を踏襲すると考える何の理由もない。

プ:バングラデシュの各政党はモディ氏の勝利を祝福するコメントを出した。ことに最大野党のBNP・バングラデシュ民族主義党はいち早く祝福のコメントを送った。これをポジティブなことと考えるか?

イ:ポジティブであることに間違いはない。バングラデシュのすべての政党がインドとの関係改善を、ことに2国間の問題解決を望んでいる。

プ:モディ氏の勝利は南アジア地域全体にどんな影響を及ぼすか?

イ:西側世界にはモディ氏に関してあまり良くないイメージがある。特にグジャラートで起きた宗派間暴動時の対応で、モディ氏のイメージは大きく傷つけられた。またヒットラーの礼賛をしたことでも、モディ氏は欧米の嫌われ者となってしまった。だが今モディ氏の目の前にはチャンスが転がっている。インド亜大陸つまりパキスタン、スリランカ、バングラデシュそれにネパールとの関係を改善することでイメージを好転させる機会が彼を待っている。まさにBJPが以前政権にあった時、当時の首相だったアタル・ビハリ・バージペーイー氏がしたようにだ。インドとパキスタンの間では現在バス4便が運航しているが、モディ氏の政府のもと、これが10便に増えても私は意外だとは思わない。またモディ氏が外遊で最初の訪問地として中国を選んだとしても私は驚きはしない。そうすることでモディ氏は外の世界に向かって、中国のような経済大国との両国な関係を望んでいることをアピールできるだろう。

プ:BJPの勝利でインドでは宗派間の緊張が高まる懸念はあるか?

イ:経済成長の流れが続けば宗派問題はそれほど影響を及ぼすことはできない。だがその路線に陰りが見えた時、国民が貧困から抜け出せないままでいる時、宗派問題が持ち上がるおそれはあると思う。

プ:ありがとうございました。

Tweet
シェア


 同じジャンルの記事を見る


(翻訳者:渡辺一弘)
(記事ID:287)