海外で迫害にあって破れた3千人の女性労働者たちの夢
2017年12月26日付 Prothom Alo紙
海外に働きに出た女性たちの一部が、さまざまな迫害にあって帰国を余儀なくされている。国の在外居住者福利厚生・在外雇用省、および同省が管轄する複数の機関からの情報によると、海外に働きに出た女性たちの2パーセントにあたる3千人が、過去2年間で何らかの迫害にあっているという。今年に入っても迫害は続いている。
政府関係者は、迫害を受けた女性またはその結果帰国した女性の数は少数にとどまるとしているが、在外労働者問題にたずさわっている人たちや人権運動家たちは、仕事を求めて海外に渡った女性たちのうち一人でも被害にあうようなことがあれば、それは政府の責任だとしている。
マンパワー・雇用・研修局(BMET)のデータによれば、過去2年間でおよそ25万人のバングラデシュ人女性が海外に渡航している。2017年10月までに、10万136人の女性が労働を目的として18の国に向けて出国している。最も多いのはサウジアラビアで、ここだけで6万6千人を超しており、渡航先は他にもアラブ首長国連邦、ヨルダン、レバノンなどの各国にわたっている。
渡航後どの国で何人の女性が迫害の犠牲となったかのデータをBMETは把握していない。在外居住者福利厚生・在外雇用省、内務省、BMET、それにNGOなどさまざまな機関に、女性労働者や家族たちから訴えが寄せられている。
BMETのデータによれば、過去2年で約3千人の女性が外国でつらい目にあったと訴えてきている。首都ダカのカクライルにあるBMETの本部建物の中に2017年5月、民間団体であるWARBE(ワルビー:バングラデシュ人移住者の権利のための福祉協会)が、(海外での労働に関する)苦情受付センターを開設した。このセンターができる以前にWARBEが受けた分も含め、17年1月から10月までに同センターに寄せられた苦情は61件にのぼる。うち30件は女性労働者たちからのものだ。海外で迫害にあった女性たちのうち、これまで15人について帰国措置が取られたが、うち13人はサウジアラビアで働いていた。
政府の給与所得者福祉委員会によれば、2016年には、サウジアラビアのメッカとジェッダ、さらにオマーンの救護施設(複数)に庇護を求めた1362人の女性が本国に帰国した。17年の10月までにこうした救護施設に難を逃れた女性は2427人にのぼる。うち2160人が帰国している。
バングラデシュ海外移住女性労働者協会のスマイヤ・イスラム理事は、同協会には毎月8人から10人の女性労働者からの相談が寄せられると語る。また、バングラデシュ女性法律家協会のサルマ・アリ前理事長は、中東に行った女性労働者のうち99パーセントが身体的、心理的、または性的な迫害を受けており、そのことを明らかにする人もしない人もいると考えている。
プロトム・アロ紙は、モエモンシンホ(マイメンシン)のナンダイルに住むある女性から、電話で話を聞くことができた。サウジアラビアで働いている間、殴打などさまざまな迫害の犠牲となったという。「それはもういろいろひどい目にあいましたよ。帰国して数か月がたちますが、まだ主人にはそのことを言えないでいます。サウジにいたころは毎晩のように、働いていた家の主人や息子からひどい仕打ちを受けました。主人が土地を売って私を連れ戻してくれたのですが、今はそのことでいろいろ文句を言われます」
ホビゴンジョに住むある父親は、海外に行って3か月たった娘を帰国させるため、仲介業者を訴えた。プロトム・アロ紙が電話で話を聞いたところ、この父親は「未婚の娘が、命ながらえて帰ってきたことだけが救いだ」と語った。年の初めに帰国して以来、娘に治療を受けさせるのにすでに2~3万タカの費用が掛かったという。娘は外国にいるとき、周りの人間からひどい言葉を浴びせられ、またもう一人の女性が結婚させられたことで不安になった。娘が自殺しかねない様子を見せたことで父親を特に不安になった。しかし娘が帰国してからは、社会の現実を考慮して業者と和解する道を選んだという。
インドネシアやフィリピンといった国は、女性労働者が性的なものを含む迫害を受けたことから、中東への女性労働者の派遣を中止する措置をとった。その一方、サウジアラビアは2015年2月、バングラデシュと家政婦派遣に関する条約を締結した。それ以来、女性たちの安全が問題となっている。最近ダカにある独立戦争博物館で、女性への暴力行為に反対するワン・ビリオン・ライジング運動が開催した「海外女性労働者の現状」と題した公聴会では、海外で働いた経験のある女性たちが自分の体験を語った。
在外居住者福利厚生・在外雇用省は、女性たちから苦情・相談を受けたことで、女性労働者たちの現状調査のために、2017年4月22日から29日までアジハルル・ホク次官補を団長とする代表団をサウジアラビアに派遣した。ホク次官補は帰国後、女性たちが受けている迫害行為について、マスコミは実際より大げさに取り上げていると語った。「派遣される女性たちは外国に行くことについてどれほど心理的・身体的に準備ができているかを人材派遣業者は考えていない」と同次官補は所見を述べた。ホク次官補はさらに、「サウジアラビアの女性救護施設で会った女性は脳腫瘍を患っているにもかかわらず、国外に働きに出てきていた。国内で妊娠してやって来た女性もいたが、サウジアラビアに来てからレイプ被害にあったと主張する人が多い。性的迫害がないとは言わないが、女性たちが訴える性的被害の80パーセントは虚偽だ」と語った。
BMETのヌルル・イスラム研修担当部長はプロトム・アロ紙の取材に次のように述べた。「家政婦として海外で働きたい女性たちを対象に、国内36か所にある研修施設で、1か月にわたって研修を行っている。研修ではアラビア語も勉強するが、海外に出る前に熱心に学習する様子は見られない。出発の前日、女性たちは(ベンガル人の主食である)米飯を腹くちくなるまで食べ、現地に行ってからパンを出されると、雇い主は食事をさせてくれないと文句を言う。これまで迫害に関する苦情は聞いたが、渡航した女性の数からいえばほんの一握りだ。しかし政府としては、女性たちから苦情を受けたらなるべく早く帰国させるよう努めている」
政府の姿勢と対策は?
在外居住者福利厚生・在外雇用省のアジルル・ホク次官補が団長を務めた高官レベルの代表団は、訪問を終えて帰国した後、政府に報告書を提出した。報告書では海外派遣前、少なくとも一か月にわたって女性たちに実態に即した研修を受けさせること、契約の条件について十分に理解させること、BMETが発行するICカードにバングラデシュ及びサウジ側の人材あっせん会社の住所と連絡用の電話番号を入力しておくこと、家政婦として派遣される人たちに関するデータをあらかじめ現地の大使館、領事館に伝達すること、何らかの問題が生じて女性を帰国させることが必要となった場合には、バングラデシュ側の人材派遣業者にその任を負わせることが取り組むべき事項としてうたわれている。
これまで人材派遣会社が、1か月の研修を行うという条項をごまかし、研修なしで多くの女性を派遣したことが分かった。BMETは研修をしっかり実施すること、および派遣条件をごまかすことができないようにするいくつかの対策を実施している。
関係者によると、現地のバングラデシュ大使館のスタッフたちがいつでもサウジアラビアの個人宅を訪れ、家の中に入ってそこで働く女性労働者たちの様子を見ることができるわけではない。女性たちが危機的な状況に陥ってそのことを何らかの方法で伝えてきた場合に限り、大使館として対処することが可能になる。だが実際は家政婦として働く女性たちは、国の家族や現地大使館に連絡する方法を持たないため、いざとなれば逃げだして大使館に保護を求めるしかない。
しかし在外居住者福利厚生・在外雇用省のノミタ・ハルダル次官はプロトム・アロ紙の取材に対し、「サウジアラビアと締結した条約では、迫害が行われた場合にはそれに対し法的措置をとることがうたわれている。しかし女性たちは何かあった場合も大使館に頼ろうとはしないのが実情だ。そうした女性たちは逃亡して保護施設などに駆け込む。雇用者側は逆に、女性たちを訴える手段に出る。そのため女性たちを帰国させるのが困難になってしまう。またバングラデシュや、女性たちが向かう国の人材あっせん業者の中には不実な連中もいて、そうした業者の手にかかった女性たちは、人身売買の犠牲となって空港に着いたとたんに売られて行ってしまう」と語り、人材あっせん業者たちに十分な責任感をもたせるよう努力していると語った」
ダカ大学の研究施設の一つ、「難民と移住行動に関する研究ユニット(RAMRU)」の創立者、タスミム・シッディキ室長は、女性を派遣する前に、派遣の条件、外国でどんな環境の中で暮らさなければならないか、3か月以内に帰国する場合は自費となることなどをきちんと周知すべきなのにもかかわらず、政府はそれを十分に行っていないと指摘する。女性労働者たちは何の知識もなく、海外へ出かけていっているのだ。
タスミム・シッディキ室長は、「政府は海外で働く女性たちに対し、何か危機に瀕した場合は大使館に知らせるようにと言っているが、それは言うほど簡単なことではない。一方、大使館とすれば、自由にどこかの家に入って女性労働者たちの状況を探るのは不可能だ。方策としては、現地に定住しているバングラデシュの人が、ボランティアとして月に1回女性労働者たちと連絡を取り合うようなことが考えられよう。インドはすでに各国でそのようなことを実際に行っている。また、海外で働く女性たちを十分に守るためには、保護施設の増設、大使館のスタッフ増員など、政府としてこの分野により多くの経費を充てることを考えるべきだと思う」と述べた。
政府は昨年(2016年)の在外居住者福利厚生と在外雇用に関する政策として、女性たちが海外で身体及び心に危害が及びそうな状況を見極め、経験したことのない危機に対処できるようになるための安全確保研修の他、特別な研修の実施をうたっている。だが、そうした研修はいまだ始まっていない。
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(翻訳者:篠原和)
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