今回のデング熱大発生の原因は?
2023年02月08日付 Prothom Alo紙
パルト・ションコル・シャハ記者(ダッカ)
公開:2022年11月17日
デング熱の国内での感染は20年以上続いています。しかし、今年は過去に例がない数の死者が出ており、また流行はこれまでにはないほど長期間にわたって続いています。
デング熱の感染はすでに国内の(64の県のうち)62県まで広がっています。公衆衛生学者や研究者によると、今年デング熱の感染が拡大した原因は、少なくとも5つあるとのことです。そのうちの3つは自然的なもので、残りの2つは社会的あるいは制度的な理由です。
自然的な3つの要因は人為とはかかわりのないものです。しかし残りふたつの原因に関しては、社会的あるいは制度的な取り組みが適切であれば、デング熱の予防は可能であったはずだと専門家たちは述べています。
専門家のコメント
「今年のデング熱は規模が違います。今こそ、デング熱について考え直すべきです。いまやデング熱は季節性の病気ではなく、またダッカばかりに発生が集中しているわけでもないのです。その予防のために、従来の方法を改め、新しいやり方の流れを作り出すべきです」
政府の病理・疾病管理研究所(IEDCR)顧問のムシュタク・ホセイン医師はこう語りました。バングラデシュでは2000年にデング熱が流行し、93人が亡くなりました。その後、2019年に最大のデング熱の大流行が起こり、179人が死亡しました。コロナ感染が始まった2020年にはデング熱で7人が亡くなり、その翌年には105人が亡くなっています。今年(2022年)にはこれまで(11月16日)にデング熱による死者数は216人にのぼっています。
「過去22年間の経験から分かっているのは、雨季の到来が早ければデング熱の流行は少し早く始まり、早く終息するということです。また、雨季の始まりが遅れるとデング熱の蔓延は増加します。しかしおおざっぱに言えば、雨季つまり6月以降に流行が広がり、9月ごろに縮小することを経験してきました。しかし、今年は11月中旬を過ぎても死者は減っていません。この1週間、検出数はやや減少しましたが、例年より多くなっています。
これまで、最もデング熱が流行した2019年には101,354人がデング熱に感染しました。その年の8月には感染者数は52,636人となって最高を記録しました。その後、9月から減少に転じ、10月、11月に大きく減りました。
しかし、今回は状況が違います。今年10月のデング熱の感染者数は21,932人でした。これは今年の月毎で最も多い数です。また、同じ10月には86人が亡くなっています。これも月単位として今年最多となっています」。
3つの自然的要因
今年のデング熱の蔓延で話題になっている3つの自然的な要因のうち1つ目は、モンスーンの季節に雨が降らなかったことです。6月と7月には雨がありませんでした。そのふた月は、国内北部ではむしろ干ばつ状態になりました。9月と10月には雨が良く降りましたが、降ったりやんだりが続きました。
公衆衛生学者のムシュタク・ホセイン氏は、「断続的な雨のせいでデング熱の状況は微妙なものになりました。状況の改善は望めたのかも知れなかったのですが、10月下旬になってベンガル湾の低気圧とサイクロン“シトラン”による大雨が、デング熱の蔓延をさらに長期化してしまいました」と述べています。
専門家によると、雨が降ったりやんだりすると(デング熱を媒介する)エディス・モスキート(ネッタイシマカ)がより多く拡散するとのことです。今回その現象が起こりました。ASM アロムギル・元IEDCR主席科学担当担当官は、プロトム・アロ紙の取材に対し、断続的な雨では蚊が水に洗い流されてしまうことがないと語っています。
「蚊が生き残ってしまうのです。そしてネッタイシマカが患者を刺すと、ウイルスは蚊に取り込まれ、その体内に残ります。その蚊が卵を産んでも、すべての卵が孵化して蚊になるわけではありません。そこには雨や気温が適当であるかが関係しています。そしてどれだけ卵が孵化しようと、生まれた蚊はこのウイルスを保有することになります。ですからそうした蚊に刺された人はデング熱に感染することになるのです」。
4種類のデングウイルス
医師たちはデングウイルスにはDen-1、Den-2、Den-3、Den-4の4つの株があると言います。一度ある株に感染すると人の体内にはその株に対する免疫ができ、同じ株に再び感染することはありません。Den-1に感染した人は、二度とDen-1に感染することはないのです。
しかし、残りの3つの株には感染する危険があります。最初ある株に感染し、次に他の株に感染すると症状が重くなります。例えば、Den-1に感染した人が回復した後にDen-2やDen-3、Den-4に感染した場合、病状が重症化するのです。
ムシュタク・ホセイン医師は、雨や蚊の個体数のほかに新型のDen-4の登場も自然的要因のひとつと考えています。「今回はDen-4感染者が多くなっています。これが検出数の増加の理由の1つです」と同医師はプロトム・アロ紙に語りました。
協調的な取り組みの欠如
公衆衛生の専門家たちは、蚊の駆除のために効果的で協調的な対策が不足していることも、今回のデング熱蔓延の原因だと考えています。デング熱の感染は首都ダッカでより多く見られます。ダッカ南および北のふたつの市庁は、殺虫剤の散布や、蚊が繁殖する場所をなくすための作業をさまざまなところで行うなどの対策を、時折実施しています。
しかしウイルス学者でボンゴボンドゥ・シェーク・ムジブ医科大学前副学長のノズルル・イスラム氏は、こうした取り組みを行っているにもかかわらず、「合格は出来なかった」と述べています。「蚊の駆除は協調して行うものです。それには一般の人たちの参加が必要です。しかし、ふたつの市庁は市民を巻き込むことができませんでした」とノズルル・イスラム氏は言います。
ノズルル・イスラム教授はさらに、この失敗に加えて2つの市庁から提供されている殺虫剤の効果についても疑問を呈しています。使用されている殺虫剤を調べてみる必要があると考えているのです。
アロムギル医師も、蚊の撲滅に市民が参加することは非常に重要だと考えています。責任を負っているはずの当局は責任を取らないし、社会的な機関も自ら動こうとはしていないと思えると言います。
ASM アロムギル医師は、2000年にデング熱が発生したときの経験をひいて、当時は各地区でさまざまな組織が参加していたと言います。こうした取り組みはどこへ行ってしまったのでしょうか。
また、アロムギル医師は「デング熱を予防するために人を現場に派遣することはできません。デング熱が何であるか、何が原因であるかは分かっています。しかし、現場に人を送ることには同意できません」とも述べました。
地方自治体と一般市民の連携不足のために、デング熱の予防は日に日に手に負えなくなってきています。それゆえ、関係者は両者の協調が欠かせないと考えているのです。
さらなる原因
ムシュタク・ホセイン氏は、首都における地区ごとの公衆衛生サービスの欠如が、デング熱の蔓延と多くの死者を出している原因であると言います。同氏はインドの西ベンガル州コルカタ、タイ、ニカラグアの例を挙げ、こうしたところでは都市部で各家庭を訪問してデング熱患者を探し出し、必要な医療サービスを提供した例があると述べました。
ダッカの2つの市庁による医療サービスは非常に脆弱です。デング熱患者の治療にあたっている複数の医師は、多くの患者が病院に来るのが遅かったために死亡したと語っています。もしダッカの医療サービス体制が地域密着型であれば、こうした患者はもっと早く観戦が確認され、早期の治療が受けられたはずです。そうすることで多くの死を防ぐことが出来たはずだとムシュタク・ホセイン氏は考えています。
医師や公衆衛生学者らは、デング熱は首都だけでなく国全体の問題であると言います。これはもはや特定の時期だけの問題ではありません。ですから、これからは年間を通じて国全体で取り組まなければならないのです。
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(翻訳者:和田ちひろ)
(記事ID:1092)