オルハン・パムクのノーベル賞受賞―世界はいかに伝えたか(Hurriyet紙)
2006年10月15日付 Hurriyet 紙

■ギリシャ各紙の報道
ギリシャの報道機関は、トルコのEU加盟交渉が難航しているのに対し、パムクは昨日「欧米のエリート層から数多くの賛辞をうけて認められ、ノーベル賞を受賞した最初のトルコ人作家になった」と述べた。

Kathimerini紙は「トルコとEUの関係が緊張している時に、受賞した」ことに注目した記事で、「フランス国民議会がアルメニア人虐殺否定罰則法案を投票にかけていた時に、オルハン・パムクにノーベル文学賞が授与された」と述べた。

「一つの国がもつ二つの面」という見出しを使ったTo Vima紙は、「トルコの二つの面は、思惑に反して、国際舞台でぶつかった」と述べた。To Vima紙「トルコがもつ一つの面は、フランス国民議会からその誉れに対し攻撃をうけた、時代遅れの、問題をかかえたムスタファ・ケマルの(遺産を受け継いだ)トルコであり、もう一つの面はといえば、社会的に公正で、現代的で、EU加盟に恋する、未来のトルコである。ノーベル賞は驚くべきことではない。誰もが待ち望んでいたものだ」と解説した。

「オルハン・パムクに授与された賞を、トルコはほんの少しだけ喜んだ」と述べたApoyevmatini紙は、受賞と同じ日にあたかもアルメニア虐殺否定罰則法案がフランス国民議会を通過したようにも報じた。

Ethnos紙は,「ノーベル賞、トルコに平手打ち」との見出しで、まるでアルメニア虐殺否定罰則法案をフランス国民議会が承認した日に、スウェーデン・アカデミーはオルハン・パムクに賞を与えた、と述べた。同紙は、ノーベル賞を受賞した最初のトルコ人作家であるオルハン・パムクが、トルコでもっとも有名な作家の一人であると強調した記事で、欧米の批評家がこのトルコ人作家を「アナトリアの星」と評している、と記した。

■表現の自由にノーベル賞
Ta Neaは、「表現の自由にノーベル賞」との見出しの記事で、ヨーロッパでの報道ゆえにトルコで直面していた告訴から救われたパムクがノーベル文学賞を得たことは、トルコに「表現の自由」というメッセージを送ったものだ、と主張した。同紙は、1988年以後ノーベル賞を受賞した初のムスリム作家がオルハン・パムクであると報じた記事で、受賞理由として多くの人が「オルハン・パムクが信仰深すぎず、常に表現の自由を擁護してきた」ことをあげていると述べた。

Eleferos Tipos紙は「トルコが決して祝うことのないノーベル賞」という見出しで、スウェーデン・ノーベル・アカデミーがあからさまに政治的な選択をみせ、トルコの保守勢力に「厳しい平手打ちをくらわした」と評した。

Elefterotipiya紙といえば、トルコで著述ゆえに「追い払われた」ノーベル賞受賞者パムクが、フランス国民議会のアルメニア虐殺否定罰則法案にまるで反対するかのような態度を取ったことに注目した。


■世界各紙の報道
BBC:本命の候補者が受賞
ノーベル賞を本命の候補者が受賞した。近年、トルコ国内外でしばしば議論の的となっていたオルハン・パムクが、ノーベル賞を受賞するのが明らかになった。賭けでは大本命はパムクであった。54歳のパムクは、アドニス、リシャルト・カプシチンスキー、ジョイス・キャロル・オーツ、コ・ウン、フィリップ・ロスなどの著名な作家を追い越した。パムクは俎上に載せられた。

The Guardian:民族主義者の怒り、膨れ上がる
オルハン・パムク氏は、保守層にとって祖国の裏切り者であり、リベラルにとってトルコの英雄である。賞はトルコの民族主義者の怒りを膨れ上がらせるものである。賞を侮辱として受け止めるべきではない。

Financial Times:トルコにとって輝かしい成功
ノーベル文学賞がパムク氏に授与されたことは、表現の自由にとってもすばらしいことであり、同時にトルコにとって輝かしい成功といえる。全世界において表現の自由に対する激しい攻撃が始まっているこの時代に、受賞が決まった。モスクワでは反政府的な新聞記者が殺害され、フランスがアルメニア虐殺の否定を罰しようとし、ヨーロッパではイスラムに関連する議論が、アメリカではイスラエルに関連する議論が制限されようとしている時代にである。

El Paris:パムクに平和賞も授与できた
パムクに平和賞を授与することもできたであろう。パムクには、単に文学の才能があるだけではない。それに加えて、パムクはトルコで自由のための戦いを挑んだのだ。民族主義者や軍の圧力に挑んだために、殺害の脅迫をうけ、裁判所に出廷し、時には母国を離れざるを得ない状況にもなった。パムク氏はノーベル平和賞をも受賞できた。

Frankfurter Allgemeine Zeitung:最良の決定
パムクに賞を授けたのは、ノーベル賞委員会が近年下した最良の決定である。1970年、ノーベル賞の受賞にふさわしかった有名なソビエトの反体制(作家)アレクサンドル・ソルジェーニツィン氏の頃、最も重要な議論は東西世界のイデオロギー対立であった。今、世界は宗教と文化の戦争を経験する時代に突入した。

New York Times:トルコ政府、告訴で恥をかく
New York Times紙は、オルハン・パムクが、今までにノーベル賞を受賞した数多くの作家よりもアメリカでかなりよく知られていると報じ、パムク氏への告訴でトルコ政府が恥をかいた、と述べた。同紙は、西洋と東洋、世俗的なトルコと古いオスマン時代の伝統、伝統とポスト・モダンの著述スタイルの間でのせめぎあいが、パムク氏のキャリアを形成した、との見解を述べた。

Washington Post:受賞に反対もある
Washington Post紙は、スウェーデン・アカデミーの発表がフランスでの投票と重なったことに注目した。受賞の決定に異論もあるのを明らかにし、アカデミーがトルコの人権事項に注目をあつめる目的で「政治的な話題」と歩調を合わせたとの主張に注目した。

The Independent:批判者に恥
イギリスのThe Independent紙は、「トルコにおける勇敢なる、表現の自由の擁護者」と評価されてきたオルハン・パムクが賞を受賞して、自身を非難してきた人々に恥をかかせた、と解説した。同紙は、社会的な変化にたいしヨーロッパ中で戦ってきた人々がパムク氏の受賞に満足していると述べた。

Los Angeles Times:勇敢なる表現の自由の擁護者
アメリカの主要紙のひとつであるLos Angeles Times紙も、少し前まで母国で投獄の脅迫に直面していたパムクが、今ではノーベル賞を受賞したことに注目して、「パムクは、自ら望んでいなかったかもしれないが、勇敢なる表現の自由の擁護者であると、支援者から受け止められてきた」と述べた。

The Times:公的な歴史認識への挑戦
The Times紙は、トルコの公的な歴史認識にオルハン・パムクが挑戦したと述べ、パムクを起訴したことが、トルコのEU加盟に悪影響を及ぼしたと主張した。同紙は、受賞がフランス国民議会での投票と重なったことも指摘した。

La Vanguardia:反逆行為で罰せられた
スペインのLa Vanguardia紙は、パムク氏がトルコ文学の名高い人物のひとりであり、「アルメニア大虐殺」に関する発言のために「反逆行為」で訴えられた、と述べた。作者のもつ強い社会的な関与によってパムク氏の著作は読者に影響を与えた、と同紙は解説している。

El Mundo:民族主義者の圧力にさらされた
もう一つのスペインの主要紙であるEl Mundo紙は、パムクがトルコの民族主義者の圧力にさらされ、自身の発言のために裁判にかけられたと報道し、パムクがノーベル賞を受賞した初のトルコ人作家であることに注目した。

■我々のオルハン・パムク
オルハン・パムクのノーベル賞受賞は、ドイツの新聞で大きく取り上げられており、Die Welt紙の文化面で取り上げられた記事は「我々のトルコ」という見出しだった。Tageszeitung紙は「301条が廃止され、パムク氏が刑務所に入らない最初の重要なトルコ人作家になることを望んでいる」と述べ、パムクの受賞でアズィズ・ネスィン、ヤシャル・ケマル、ナーズム・ヒクメトといったトルコの作家達にも国際的な注目が集まるのを期待する、と報じた。

Die Welt紙のティルマン・クラウゼによる解説では、パムクは現在トルコが必要としている人物であり、ノーベル賞の名誉がリベラルなトルコの改革者たちを支援した、とされた。解説は、トルコとトルコの政治にとって受賞は絶好の機会であるとし、「我々が望んでいるトルコを彼が代表している」と述べた。Die Welt紙は、パムクはヨーロッパへむかうのが阻止されなかった(場合の)トルコの立場にたっていると述べ、「これこそ、リベラルで、文明的で、改革的な西洋の価値観に目を向けたトルコの姿だ。パムクのように、アルメニア大虐殺をはっきり言葉にできるトルコである」と述べた。Die Welt紙は、パムク氏が受賞した賞が、トルコに責任を負わせ、トルコの評価を高めたと述べた。

Frankfurter Allegemeine Zeitung:アカデミー、最も賢明な決定
Frankfurter Allegemeine Zeitung紙の文化面では「ストックホルムのノーベル・アカデミーは、オルハン・パムクを選び、近年で最も賢明な決定を下した」と述べられた。パムクはトルコの文化界の中で世界的に最も知られる著名人とした記事では、「トルコ文学への関心が低いアメリカでおいてさえ、パムクによってトルコ文学に注目が集まった。オルハン・パムクは外交官ではない。単に小説を、『多くの人の中で、自身を想像する可能性(のあるもの)』と評する作家である。この言葉はオルハン・パムク氏の方向性を明らかにしている」と報じた。

■世界の文学の流れをくむ作家
スペインで数多く出版されたオルハン・パムクの本を翻訳したラファエル・カルピンテロは、「世界の文学の流れをくむ作家であり、トルコにとってまさに革命的存在となった」と述べた。

カルピンテロは、パムクがノーベル賞を受賞するにふさわしい人物であると語り、「私にとってパムク氏の本を読むことは、新規もの、新鮮なもの、異なるものを発見することである。だが、トルコ語の翻訳はかなり難しい。非常に長い文章があり、読んでいる最中に訳が分からなくなり、再び読まなければならない。この作家の戦略は、このように読者を煩わせ、前に戻って読ませることだ。これが、彼のスタイルである」と語った。

スペイン文学の批評家かつ作家でもあるメルセデス・モンマニー氏も、パムク氏の受賞を祝い、「クッツェーやケルテスに似た、多義的な作家であるパムクは、知的で、凝った、入念に選ばれた歴史的話題を求める読者にとっては刺激的である。多くの題材、登場人物、文学的戯れ、歴史的・政治的(事象)への論及に満ち溢れた作家である」と述べた。

また、フランスの新聞もパムクのノーベル賞受賞の記事をおおきく取り上げた。
Le Figaro紙は「2つの川にかかる橋」という見出しの記事で、生まれ育ったイスタンブルという都市が、パムクの小説にインスピレーションを与えている、と述べた。

Liberation紙は「パムク、ついに受賞」という見出しの記事で、有名なトルコ人作家が、以前にもこの賞を僅かな差で逃した、と報じた。

イタリアの新聞社:受賞に対し、異なる反応
イタリアの新聞は、作家オルハン・パムクのノーベル文学賞受賞の記事を大きく取り上げた。このニュースを一面記事に取り上げた新聞は、受賞の発表が、フランス国民議会がアルメニア虐殺否定罰則法案を承認した日とまるでかぶったことに注目している。

Correier della Sera紙は、トルコ人作家に賞が授与されたことを「ノーベル・アカデミー、トルコに挑戦し、パムク氏に賞を授与」という見出しで報じた。中面記事の見出しでは、パムク氏に授与された賞がトルコ国内でさまざまな反応を引き起こしている、と明らかにした。記事の見出しでは、パムク氏を「将軍やイスラム主義者への挑戦をためらわないイスタンブルっ子」と紹介し、301条で起訴されたのを想起させた。

La Repubblica紙はといえば、一面で「『反政府的な』トルコ人作家がノーベル賞を受賞」という見出しで報じている。中面記事では、ことのトルコでの反応を次のように総括している:「母国は分裂した。政府は『喜ぶべきことではあるが、我々は彼の意見に興味などない』と語った。」同紙は、文化面ではイタリア語に翻訳されたパムクの7冊の本を大きく取り上げた。この記事で、パムクは「史実に常に忠実な作家」と紹介されている。

Il Giornale紙の記事の見出しは、「自由なトルコにノーベル賞」というものであった。

共産主義者の報道機関であるIl Manfesto紙はといえば、「二つの世界に本性がまたがった、メランコリックで夢想的な作家」と報じた見出しで、「昨日の主役はトルコだった。フランス国民議会がアルメニア虐殺否定罰則者法案をまさに承認していた時に、この問題に言及したために『トルコを侮辱した』として起訴された作家がノーベル賞を受賞したのだ」という表現を用いた。



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( 翻訳者:松岡聡美 )
( 記事ID:3702 )