対レバノン戦争とイスラエル(アル・ナハール紙)
2006年07月26日付 Al-Nahar 紙

■ サハル・ブアースィーリー「対レバノン戦争のプレイヤー(2)イスラエル」

2006年07月26日付アル=ナハール紙(レバノン)論説面

 対レバノン戦争の目的について、シモン・ペレス副首相くらい明確に特定したイスラエル政府高官はいない。ペレス副首相は戦争の14日目に「我々かヒズブッラーか、である。事はイスラエルにとって、生か死かの問題なのだ」と言った。

 イスラエルが「ヒズブッラー」というとき、それはレバノンという枠組みの内に位置づけられる党派を指しているのではない。その名称と内実をもって、自ら所有するミサイルからイランの核兵器に到るまで、中東地域におけるイスラエルへの戦略的脅威とイスラエルがみなすもののすべてを集約する党派を指しているのである。ヒズブッラーによるイスラエル軍兵士2名の拉致に対するどう考えても過剰な報復をもって開始され、現在に到るまでつづく対レバノン戦争は、ヒズブッラーに対するこの定義づけなくして理解することはできない。

 ヒズブッラーはイスラエル北部国境の安全を脅かす単なる厄介者などではなく、イランおよびシリアと強く結びついた勢力であり、イスラエルの非正規軍との戦闘における脆弱性を明らかにした。イスラエルは2000年にレバノンから撤退したが、いつかまた対決のときがくることを知っていた。ヒズブッラーが訓練や武装による備えを止めることはなかったし、イスラエルがレバノンとの間で未解決の問題を解決してヒズブッラー側の正当性を失わせようとしたわけでもなかった。特にイスラエルの刑務所に収監された捕虜の問題については、イスラエルは何もしようとしなかった。シャバア農場地帯の問題については、事はより複雑である。イスラエル軍は毎日のようにブルーラインやレバノン領空を侵犯しつづけた。

 いっぽうでイスラエルはパレスチナ人への対処に専念し、包囲と殺戮と破壊を重ね、ヨルダン川西岸地区に隔離壁を建設し、ガザ地区から一方的に撤退した。それで自分を守れると思ったのである。ところがどういう結果になったかというと、ハマースが政権の座につき、中東地域における対立はより複雑さを増していった。イランはイスラエルにとってヒズブッラーの支援国であるだけでなく、ハマースの支援国にもなった。特にハーリド・マシュアル政治局長との強固な関係を通して繋がりが強化され、その仲立ちとなったのがイランの同盟国であり、マシュアルを客人として迎え、ヒズブッラーへの補給ルートを形成するシリアである。

 それだけではない。イラク占領後、イランは中東地域における重要なプレイヤーとして台頭した。イラク国内において影響力を増し、核エネルギー保有の権利をめぐる国際社会との対決に入った。西洋とイスラエルは、それは核兵器保有の決定に他ならないと見ている。シリアのレバノンからの撤退のありかたは事態をより複雑にした。イスラエルは、敵対勢力のラインが一本に繋がって自らに対して開かれ、地域情勢の展開が自らの利益に資する方向に進んではいないと考えるようになった。ヒズブッラーやイラン核兵器の戦略的脅威によってその敵対勢力は軍事的に体現された。そして何よりもイラン大統領が、イスラエルを地図から抹消するようたえず呼びかけた。

 イスラエル軍兵士2名が拉致されたとき、イスラエルがレバノンを出発点に自らの国益に沿ったかたちで中東地域の勢力関係を再構成する貴重な機会が訪れたと考えたことは明らかである。イスラエルは、最悪の場合でも自らに対する脅威とみなされるものを軽減できるし、最良の場合には敵を除去できると計算した。イスラエルは勝利を収めることができると考え、戦争の費用はどれだけかかっても戦争を始めなかった場合の出費に比べれば少なくて済むと考えた。イスラエルはヒズブッラーとハマースをイランから隔離し、両者を殲滅したいと考えている。何故なら先ずイスラエルは、イランが西洋諸国との妥協に達したとしてもヒズブッラーとハマースは戦いを止めないだろうと考えているからである。またイランに対する攻撃を決定した際に備えて、国境地帯におけるあらゆる危険を遠ざけておきたいのである。

 勢力関係の再構成という点をめぐって、イスラエルの観点と「新しい中東」を提唱するアメリカの観点は一致している。いや国際社会の観点さえ一致している。それゆえにこの戦争はおそらく、レバノン人が支払わされる多大の代償にもかかわらず、そしてイスラエルがこのままつづけるならば(イスラエルはつづけること以外考えていないが)相応の代償を支払わざるを得ないにもかかわらず、レバノンを(現時点では)舞台とする地域戦争の出発点となるであろう。その期間を引き延ばし困難さを増しているのは、アメリカがどのような代償が必要になろうとも中東全域の現実を作り変えるとの立場に固執しているゆえである。その立場は今のところ、断固たるもののようである。



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( 翻訳者:森晋太郎 )
( 記事ID:3177 )