論説:アラブ・イスラエル関係正常化に向けた動きとパレスチナ問題
2007年05月12日付 al-Quds al-Arabi 紙
■アラブとリブニ女史の魔法
2007年05月12日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面
【アブドゥルバーリー・アトワーン】
イスラエルのツィビ・リブニ外相は、3日前のエジプトならびにヨルダン両外相との会見につき、アラブ連盟との幅広く公式な関係正常化へ向けた端緒と評したが、それが的外れなわけではない。この会見は、(連盟の)アラブ和平実現促進フォロー委員会の外相達が、エジプトとヨルダンをアラブ側代表に任命したのを受けて行われた。この2カ国は、ヘブライ国家と外交関係を有し、その他の交流も認めているというのが任命の理由である。
アラブ連盟は、加盟国並びにその事務局が正常化に向けて動き始めたというのを否定する声明を出したが、それは全く納得できるものではなく不十分であり、彼らがアラブ国民の知性を過小評価している事を露呈している。彼らは、我々をごまかし、連盟という公式アラブ体制に従わせるべく工作を続けている。
アラブ和平実現促進の決議と上記2カ国の任命は、アラブ連盟傘下の会合で行われた事である。その場で成された決議は、200以上もの内外メディアが参加しライブ中継された記者会見で、アムル・ムーサー事務局長自らが読み上げたというのに、何ゆえこのような見え透いた幼稚な手口をもって、問題から目を背けようとするのか。
エジプト外相、アフマド・アブルゲイトとその同僚(ヨルダン外相)アブトゥッラー・アル=ハティーブの両氏は、リブニ女史と同席し、彼女の知性と、恐らく美しさに目が眩み、また、連盟に任じられてこの公式正常化に参加できて幸福の極みといった様相であった。アラブ及び外国のテレビが短時間だけ放映した会見の間、我々は、この2人の外相が、件のイスラエル女性と親しげに笑みを交わし、まるで彼女を古い友人か家族の一員であるかのように遇するのを目撃した。真面目さが完全に失われている。あるいは、我々にはそのように見えた。そのような会見は、過熱し衝突に満ちたものであってしかるべきだ。アラブの2外相は、土地を奪取し虐殺を犯してなお、兄弟の民としての権利を要求する国家の外相と交渉するにあたり、断固とした言葉遣いをすべきではないか。
ムーサー事務局長は、この和平促進を決議したアラブ外相会議後の記者会見で、オルメルト政府との関係正常化は、分離壁と入植地建設が停止され、パレスチナ国民に対する封鎖が解除されない限り行われないと述べた。しかし現在、人々を餓死させる経済封鎖は解かれることがなく、壁の建設が止むこともなく、そしてイスラエルは、占領エルサレムの分割と、その内外に新たに入植地を建設する計画を明言しているというのに、和平促進は行われようとしている。ムーサ氏はどのように応じるつもりか。2カ国の外相は、今回のリブニ氏との会見、並びに今後、占領エルサレムのイスラエル外務省において予定されている会見にどういった口実をつけるのか。
リブニ氏は、アラブ和平実現における主要な2点につき、きっぱりと反対してきた。それらは、パレスチナ難民の帰還の権利、及び難民が現在住むアラブ国家に帰化する事の禁止に関わっている。これについてはオルメルト首相も意見を同じくしており、その上で彼は、アラブ首脳、特にサウディアラビアに対し、和平協議のためヘブライ国家を訪問するよう要請した。アラブ2外相の会見、それに先立つムバラク・エジプト大統領と(リブニ外相)の会合は、これらのイスラエル側条件に応じつつある兆しのように思われる。イスラエル政府は、アラブ側の要請を何一つとして、最も容易と思われるパレスチナ国民に対する経済封鎖解除ですら受付けないというのに。
パレスチナの主要二派、ファタハとハマースは、アラブ諸国の要請に応じて、聖都メッカへ赴き和解の文書に署名した。アラブサミットの全決議を受け入れ、パレスチナ挙国一致内閣を組織、政治協力を行うという文言であった。にもかかわらず、事態は依然として変わらない。
経済封鎖は、合衆国とイスラエルと関わりを持つ全欧州諸国の視点によればハマース政府がテロリスト的であるとの事で課せられた。今、ハマースは、自身が受入れられるために、政府内の主要な役職を実質的に手放す羽目に陥っている。彼らは、米国が自ら主導した合法的な民主的な選挙の勝者だというのに。それでも不足だと言わんばかりにベルギーは、閣僚の1人、青年スポーツ相バースィム・ナイームを侮蔑的なやり方で追い払い、その領土のみならずEUシュンゲン協定内の通行を拒絶した。
彼らは言った。ハマース首脳は閣僚の座から離れるべきであると。特に、テロ行為に資金供与しないよう財務省から。そんなわけで、ハマースはそのポストを金の盆に載せて、コンドリーザ・ライス長官の私的な友人であるサラーム・ファイヤードにくれてやった。彼らはまた、外務省についても諦めるよう示唆した。優雅な欧米のカウンターパート達と会見するのがその職務の要であるからには、髭もそらず、フランス製コロンの代わりに乳香の匂いをさせているような人物はふさわしくないなどと言って。
次は、ハマースがそれこそ自分達の権利だとみなしていた内務省の番だった。従って組閣作業は数週間停止し、(アッバース)大統領側は、内閣解散、国民投票、早期選挙等々を呼びかける事により脅迫し始めた。大統領警護支援のための8千6百万ドルを監視するというアメリカの脅迫がこれに伴った。ハマースはこれらの窃盗行為に屈し、タイイブ・マサーリム内相を受入れたのだが、アッバースPA代表はこの省を実質上廃止し、その権限を国家安全顧問ムハンマド・ダハラーン大佐に委譲した。ハマース幹部の大多数にとって、憎悪リストのトップに来る人物である。内外のハマース指導部にとってもそうなのは言うまでもない。これ程ハマースの憎しみを集めている人物もいないだろう。
アラブ連盟は、オルメルト政府との関係正常化を徐々に始めようとしている。今日はエジプトとヨルダンの外相、明日は大統領と国王、そして明後日は、ヘブライ国家とは外交通商関係を持たない他の国々も含めた正常化代表団の拡大といったように。ここで意図されるのは、アラブ首長国連邦と、和平実現の原案を作ったサウディである。
弛みきって、イスラエル政府に和平を乞い願うようなアラブの公の立場は、崩壊しており、国民の意思が不在で、自己分裂気味である。従順なトップに率いられた脆弱なPA、手ぬるい首相、どの尺度から見ても恥ずべき治安の綻び、それらがなかったらこんな事にはならなかった。
アッバース大統領は、パレスチナ国民への封鎖が解かれなければPAを解散すると言い、ハニーヤ首相は自身が率いる内閣に3ヶ月間と期限を切った。両氏とも本気だとは思えない。もし彼らが真実本気で発言した事を実行するようならば、この政権とそれに従う100を越える治安、民兵組織が、ガザでパレスチナの一族に拉致されたジャーナリストを解放できないなどという事態に至らなかったはずだ。
もし、パレスチナ国民の状況がずっと良かった時代、指導者は取引せず、占領地から逃亡する事もなく、むしろイスラエルの包囲下で死ぬ事を受入れていた時代に、この笑止千万な政権(PA)の解散を求めたとしたら、アッバース氏と彼の取り巻きは、我々がパレスチナ国家計画とその目標に反対しているのかと疑っただろう。しかし今、荒れ果てた廃墟を後に、アッバース氏は同じ事を言って脅す。
アラブの(イスラエルとの)公の関係正常化は、既にそのプロセスを開始した。アラブ和平実現は、その原点に戻ったのだ。つまり、(イスラエルによる)完全な撤退は実現されないままの正常化という元々の性質に。勇気あるリーダーシップがアラブ側に不在である事、アラブの戦略的利益についての主張が成されない事が原因である。そうでないとすれば、アラブ首脳陣全てが抱いている恐怖を、米議会が発する米大統領命令への彼らの服従を、イスラエルのカウンターパートと会見する際のアラブ外相の喜びようを、どう説明できようか。イスラエル外相の方は、ホストである最大のアラブ国家をまるで信頼できないと言うかのように、最後まで護衛を同席させていたというのに。
この恥ずべき最近の展開、つまり、アラブ・イスラムの戦略的権利をないがしろにし、ヘブライ国家と関係を正常化する事により、自らの庇護をアメリカに求めるようなアラブ首脳陣の態度に対しては、このつけを払わされるパレスチナ人を第一に考えるべきである。
アッバース、ハニーヤ両氏は、基本を無視して細部に拘泥するような真似を止め、国際的記者会見を開いて、最も重要な決定に真実協力し合ったと共同で発表すべきである。その決定とは、PAとそれに属する組織の即時解散である。3ヶ月後ではない。これが、抵抗運動として最も素晴しく高潔なものとなろう。そして、世界が、パレスチナを飢えさせるという自らの決定の責任を負うべきである。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:10883 )