レバノン北部の衝突つづく ナスルッラー発言にセニョーラ首相が反論
2007年05月27日付 Al-Nahar 紙

■ 夜間にナフル・アル=バーリド難民キャンプで激しい衝突、1万8千人が避難
■ レバノン軍への援助物資が到着 軍は「交渉の余地はない」と断言
■ セニョーラ首相がナスルッラー書記長へ「指名手配者の引渡しに協力を」

2007年05月27日付アル=ナハール紙(レバノン)HP1面

 ナフル・アル=バーリド難民キャンプの危機的な事態をめぐっては、軍事面では昨夜状況が悪化したものの、いまだに政治的な側面が目立っている。アッカールの本紙特派員が伝えたところによると、衝突は11時を過ぎた頃、キャンプ周辺のレバノン国軍拠点と「ファタハ・アル=イスラーム」組織のメンバーとの間で起こった。軍は照明弾と戦車砲弾を発射した。

 政治的な側面としては、ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長が一昨日の夜、抵抗・解放記念日の演説で自らの立場を明らかにし、フアード・アル=セニョーラ首相をはじめとする各方面がこれに反応を示した。セニョーラ首相は、レバノンにおける数々の危機の歴史でも類を見ないアラブ諸国や国際社会の反応を生んでいる難民キャンプでの危機に対応するための政府計画の主要な項目について明らかにした。

 またセニョーラ首相は、国連の潘基文事務総長、パレスチナのマフムード・アッバース大統領、夜にはサウジアラビアのサウード・アル=ファイサル外相、イスラーム諸国会議機構のエクメレッディン・イフサンオール事務総長に連絡した。

 本紙の得た情報によれば、セニョーラ首相は来週はじめにアラブ諸国および各国の大使を呼び出し、事態に関する公式の立場を説明することになっている。

 現在行われている連絡の中では、政府関係者によると、「難民キャンプの危機に対する取組みに関して政府を完全に支持し、民間人とテロ組織を分離するために政府が用いている方法や措置を歓迎する」旨が表明された。またセニョーラ首相と在レバノンPLO代表部のアッバース・ザキー代表、ハマースのウサーマ・ハマダーン代表の間では直接連絡がとられているという。同関係者によると、このレベルで接触がなされているのは「レバノン当局への犯罪者引渡しと裁判のための政治的解決策が出尽くした」ということである。そして、PLOとハマースの立場は「ファタハ・アル=イスラームの出現を終わらせ、構成員をレバノン当局に引き渡す」とのレバノン政府の立場と一致していることが明らかになった。

■ セニョーラ首相がナスルッラー書記長に応答

 セニョーラ首相は、ナスルッラー書記長の演説で述べられたことに関して疑問を提起し、ロンドンの放送局(BBC)に対して、「軍への攻撃がレッドラインであるという発言とキャンプへの進入がレッドラインであるという発言をどうして同列に置くのか。我々はナスルッラー書記長とすべてのレバノン人が軍と国家の尊厳の側に立ってくれるように、そしてナスルッラー書記長がこれらの集団をレバノン国家に引き渡す作業を助けてくれるよう願っていた」と語り、「ファタハ・アル=イスラームとシリアに何らかのつながりがあるらしいことが自白によって判明しているが、我々はまだその性質と規模を確定する必要がある」との見解を示した。

 ナスルッラー書記長の「救援政府」樹立に関する提案については、「そのアイディアには長所もある。(…)しかし、挙国一致内閣は一定の政策について合意しなければならない。現在は、北部で起こっていることに関してハサン師(ナスルッラー書記長)は、自分の言っていることと同盟者たち、とくにミシェル・アウン将軍がファタハ・アル=イスラームの問題について決着をつけねばならないと言っていることをどのように正当化するのであろうか」と述べた。

■ ナスルッラー書記長

 ナスルッラー書記長は演説の中で、「軍はレッドラインであり、軍への手出しは許されない。(…)しかし同時に、難民キャンプもレッドラインである。どのような結果をもたらすか分からないキャンプ戦争を支持することは、我々には受け入れられない」と語った。

 そして、「北部で起こったことは政治、治安、司法の面から対処できる。さまざまなお題目の下にレバノンをアメリカの代わりにアル=カーイダと戦う戦場に変える必要はない」との見解を示した。また、「今日なすべき勇気ある決断は、救援政府を樹立することである」と指摘して、「当局は国を衝突に巻き込もうとしている」と非難し、「あなた方は常に『一体どこへ?』と我々に問いかけるが、今日は我々があなた方に問いかける番だ。あなた方は一体この国をどこに連れて行こうとしているのか?」と述べた。

■ 政府側の解釈

 政府筋は、「(ナスルッラー書記長の立場は)シリアやパレスチナ解放人民戦線総司令部派(PFLP-GC)およびファタハ・アル=イスラームの立場と一体化したものであり、懸念を与える」との見方を示し、「これは今日、新たな枢軸の結成が宣言されたということである」と付け加えた。また「国際的な性格を有する法廷の設置案を承認することによって諸々の事柄がより明らかになり、今後の対応の展望も決定されるだろう」と述べ、「レバノン軍に対して公開の下で行われている軍事援助の規模は、レバノン国内外へのメッセージを含むものだ」と付け加えた。

■ 軍

 空路によるレバノン軍への支援が続き、昨日、アラブ諸国やアメリカの弾薬を運ぶ複数の飛行機が到着するなか、レバノン軍司令部は、「支援の大部分は同胞たるアラブ諸国から、その他はアメリカ合衆国からのもので、前もって決められていた支援である」と発表した。

 一方で軍司令部は、「(ナフル・アル=バーリド難民キャンプ周辺に展開する部隊は)拠点の強化、武装集団に対する包囲の強化、発砲者に対する断固たる精密な反撃、軍に対する攻撃に参加したテロ分子の追跡を継続する。トリポリや難民キャンプの周辺で彼らのうち多数を拘束できた」と明らかにした。

 また、「殺人犯たちに妥協したり彼らと取引することはあり得ない。秩序と法律に従い、司法に自らの身柄を引き渡すこと以外に彼らの行動の余地はない」とあらためて強調した。

■ 避難

 現場では、パレスチナ筋の伝えたところによれば「難民キャンプから新たに避難した人々の数は昨日で500人に達し、その大半は女性や子どもと老人である。これで避難民の総数は約1万8千人となり、その大部分はバッダーウィー難民キャンプに落ち着いた」という。

■ ファタハ・アル=イスラーム

 ファタハ・アル=イスラームの指導者であるシャーキル・アル=アブスィー氏は、カタールの衛星放送チャンネル「アル=ジャズィーラ」が放映したビデオテープの録画メッセージの中で姿を現し、「アメリカ人およびユダヤ人と戦う」と約束した。

 初めて公に姿を現したアブスィー氏はレバノンの指導者たちに対して、「(…)アメリカの計画に従って行動している諸君。我々は諸君に言おう。スンナの民は必ずや、ユダヤ人やアメリカ人、ならびに彼らに忠誠を誓う者たちとの戦いにおける先鋒となるであろう」との言葉を投げかけ、「我々と軍を攻撃したのは同一の勢力である。(…)彼らはトリポリで醜悪なる犯罪を行い、結果として神の唯一性のために戦う17人の獅子たちが殺された」と語った。

■ サルキース観光相

 ジョー・サルキース観光相はビデオテープの内容に関して、アル=ジャズィーラTVの求めに応じて談話を発表した。サルキース観光相は「この言葉は目眩ましである」と疑いを表明し、「ファタハ・アル=イスラームはテロ集団である」と付け加えた。また、「(アブスィーの言葉は)正しくない。(…)我々はレバノン治安部隊から、軍を攻撃したテロ集団がファタハ・アル=イスラームであると決定付けた、正確な言葉を聞いた。(…)第三の勢力や第五列についての言及は全くなかった。(…)この攻撃はファタハ・アル=イスラームが行なったものである。そのように軍当局や軍情報部は明言している」と述べた。

 またサルキース観光相は、「(レバノン政府は)レバノン軍が適切と判断する方法で、テロ組織ファタハ・アル=イスラームが横行する状況を終わらせるよう指示を与えた」と語った。

■ アメリカの支援

 ワシントンでは、国務省のデーヴィッド・フォーリー報道官が「トリポリでの事件とレバノン政府からの緊急の要請に基づき、事前に定められていたレバノン軍への支援物資の引渡しを急ぐ」と述べた。

 アメリカ政府は議会に対して先週の木曜日、総計3千万ドルに達する物資、トラック、ヘリコプターや軍用車の部品などのを含む緊急軍事支援を送る意向を表明している。

 議会には、この援助に異議を申し立てるために15日間が与えられる。今回の援助は、議会が木曜日に決定した2007年予算の金額が到着するまで、レバノンへの軍事援助の引き渡し継続を補償するためのものである。

 米議会が先ごろ決定したイラク戦争資金に関する法律には、対レバノン支援に関する条項が含まれている。ジョージ・ブッシュ政権は2007年には500万ドル分の対レバノン軍事援助を割り当てていたが、コンドリーザ・ライス国務長官は、昨夏のイスラエルによる対レバノン戦争の後に一層の増額を求めていた。

 米国の対レバノン支援には2億8千万ドル分の軍事援助、すなわち昨年提供された分(4千万ドル分)の7倍に相当する額が当てられている。そのうち軍には2億2千万ドル、国内治安部隊には6千万ドルが割り当てられる。

 フォーリー報道官は、残りの援助は経済支援であり、アメリカ政府がパリⅢ会議で約束した額に相当すると付け加えた。そのうち2500万ドルは対外債務の軽減に当てられ、5000万ドルは「立法、司法、地方自治の各機関および学校教育制度を強化するプログラムのために」用いられる。

 米国務省のトム・ケイシー報道官は、「レバノン政府が現在行なっていることは、法と秩序を執行し、法の支配を確立することである。これは全員にとって利益になる」と発表した。

■ ホワイトハウス

 ホワイトハウス報道官は、「民兵による暴力」は国連安保理決議に対する受け入れることのできない違反行為であり、終わらせられなければならないと述べた。また同報道官は、「我々にとって最も重要なのは、フアード・アル=セニョーラ政権が効果的に自らの行政を確立する作業を継続し得ることである。セニョーラ政権は現在難民キャンプにおける課題に直面している。これに対して我々および我々の同盟国は支援を行っていく」と語った。

■ ジュンブラート議員がきょう記者会見を開催

 「民主主義会合」代表のワリード・ジュンブラート議員は今日正午に記者会見を開催し、最近の情勢について談話を発表する予定である。

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( 翻訳者:新谷美央 )
( 記事ID:11036 )