コラム:ガッサーン・カナファーニー他パレスチナ文人の遺産
2007年07月04日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ 男達と銃について

2007年07月04日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP論説面

【リシャード・アブーシャーウィル】

彼のことを書こう。思い出すためではない。思い出は信奉者の助けとなるが、この暗澹たる日々にも関わらず、彼が忘れられることはない。

彼女のために書こう。導く星。朝露にぬれながら私達は彼女を目指す。先人の手から受け継いだ忠誠と共に、互いに競うようにして。長い苦難の道のりを、倦まず弛まず。ためらうことなく、希望を捨てず。

彼は、「男達と銃について」(英訳「パレスチナの子供たち」)を書き、「ウンム・サアド」を書いた。ウンム・サアドは小さな植木鉢にブドウ畑を育て、生い茂らせて激動に耐えた。その息子は、素朴で高潔で勇気あるフェダーイー(大義のために献身する戦士)だった。

灼熱の日のひと時、悲しみに包まれながら私は、ダマスカスのサーリヒーヤ地区へ出て、地元紙とハヤート(ロンドン発行アラブ紙)を買った。紙面の間から本が出てきたので、間違って紛れ込んだのだと思ったら、親切な店員が言った。

「その本は新聞の付録なんです」

本が、「男達と銃について」だったのには驚いた。しかし当を得ているのだろう。7月の初めといえば、敵が犯した最も醜悪な犯罪のひとつ、1972年7月8日のガッサーン・カナファーニー暗殺を私達が回顧する時期であるから。

まるで初めて読むかのように、その素晴しく洗練され含蓄の多い前書きにひきつけられた。ガッサーンが、1968年ではなく、今これを書いたかのようだ。

(中略)

この数ヶ月私は、今月ヤルムーク・キャンプで行われる「言葉と証言の日」の企画準備に携わってきた。それは、カナファーニーとアブドッラヒーム・マフムード(1913年生れ、パレスチナ詩人、軍人、パレスチナ戦争により48年7月没)を結びつける日となるだろう。彼らに加え、サミーラ・アッザーム(1925-67、48年以降難民としてレバノンで生活、ジャーナリスト、作家)など、文人芸術家の写真や文章をパレスチナの旗と共に飾る予定である。サミーラは、ベイルートからヨルダンへ向かう旅の途上で、新たな悲劇(1967年戦争)に遭遇しその悲しみと痛みで心臓を止めてしまった。

その年、あるいはそれ以前も、戦いに明け暮れる者達は、これらの芸術家を回顧したり、その作品を読もうとはしなかった。盗み、不正を働き、殺し合うことに忙殺される彼らにはそんな時間はないのだ。

ナージー・アル=アリー(1938年生まれ、パレスチナ人イラストレーター、87年ロンドンで銃撃され5週間後に没)とパレスチナを主題にしたカリカチュアの国際コンペティションも、7月25日締め切りで行われる予定である。ナージーも7月に凶弾に襲われ、命が尽きるまでひと月もの間戦った。

ガッサーンやナージーは、パレスチナにのみ属すのではなく、アラブ人であり、その言葉や絵画の中にパレスチナのアラブ性を体現してきた。先駆けて問題の性格付けを行い、警告してきた。ナージーの絵の中には人間性に満ちたフェダーイーがいる。クーフィーヤ(頭衣)は、彼のアイデンティティを明らかにしているが、その顔を隠してはいない。ガッサーンの文学の登場人物も、仮面を被る事なく、人間としてのアイデンティティ、高潔な精神性を示している。その物語の中で、パレスチナ人の前には常に困難と危機がある。それは、泥沼の時代からの脱出であったり、難民となること、戦争に負けること、あるいは、「太陽の男達」でのように、ごみの上に打ち捨てられて終わる事であったりする。

ベイルートに居た時、憤りと悲しみの中で、「アブー・ハイズラーン」は戻って来る、気をつけろ、と書いたことがある。「太陽の男達」の登場人物アブー・ハイズラーンは運転手で、密入国しようとするパレスチナ人達をタンクローリーの中に隠して移送するが、途中で彼らが窒息死してしまうと、その遺体をクウェイトの砂漠に捨て去る。さて、私達は、再びタンクローリーに自分達を閉じ込め、顔を覆って表情も理知も消し去った愚か者たちにそれを運転させるのだろうか?

無知と窃盗の時代に直面し、私達は、これらの芸術家達の言葉や作品を思い出す。男達と銃を、戦う者達の武器を守るために。暗殺や殺し合いのためではなく、ウンム・サアドと犠牲に耐える全ての母達を守るために。

私たちは、これらの芸術家を生んだ民だ。アブドッラヒーム・マフムード、ガッサーン・カナファーニー、ジャブラ・イブラヒーム・ジャブラ、イブラヒーム・トゥーカーン、アブー・サルマー、イフサーン・アッバース、ムハンマド・アリー・アッターヒル、エミール・ラーマー……。溢れる記憶に紙面は足りない。パレスチナの民が彼らを育んだ。顔を覆ってフェダーイーを気取り不正を働く馬鹿者達ではなく、彼らが私達の民族としての顔である。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:11316 )