論説:パレスチナ情勢、アッバース大統領批判
2007年07月21日付 al-Quds al-Arabi 紙
■ 大統領が痺れを切らす時
2007年07月21日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面
【アブドゥルバーリー・アトワーン編集長】
マフムード・アッバース大統領と、ハマース幹部の1人、マフムード・アル=ザッハール元外相の間の虚言と互いに対する猜疑心は、今日のパレスチナがどれほど酷い状態に陥っているのかを反映している。
彼の立場という点から見ても、アッバース大統領の方がより大きな責任を負っている。この罵詈雑言キャンペーンを始めたのは彼の方だ。水曜、ラーマッラーでのパレスチナ中央議会始動に際し行われたスピーチで、彼が用いた語彙、愚か者、卑しき者、嘘吐き、等々を耳にした人は、それが一国を代表する大統領、冷静や忍耐において模範となるべき人物の口から出たものとは信じられなかっただろう。彼は自制せず、危機的状況において従うべき範例や習慣、そしてスピーチの儀礼というものから全く逸脱していた。
大統領側としては次のように反論するかもしれない。ハマースの方が、先に法を破りクーデターを起こしてガザの治安拠点を制圧したのだ。これは恥ずべき越権行為であり、大統領が彼らに対しそのような扱いをするに足る充分な理由である。
一理あるかもしれない。しかし、アッバース大統領は、社会の父親的存在として、長期的視野で政情を洞察する力を持っていなくてはならない。彼に反対する者にも、常に扉を少しは開けておかなくてはならない。なぜなら、彼はいつの日かこの反対派と同席し対話する羽目になるであろうから。そして彼が、飽くことなくイスラエル、つまりオルメルト首相と会見し、熱く抱擁を交わしているから。相手は、土地を占領し入植地を造り、占領エルサレムを窒息させ、日々冷血にパレスチナ人を殺戮し傷つけ何千人も捕囚にしているというのに。
アッバース大統領は、危険な賭けに乗り出そうとしている。あるいは、彼が苦々しく語るハマースのクーデターより一層危険な政治的クーデターに。命題は、ハマースを政治運動から完全に遠ざける事、彼らを有罪として宣戦布告する事、テロ容疑で告発し全世界をハマースの敵とする事である。ハマースがアル=カーイダに庇護を求め守られていると言うことによって、それは成される。大統領は、アイマン・アル=ザワーヒリー博士のビデオテープを通じ、アル=カーイダがハマースとその指導部に対して抱いている憎悪をよく承知しているはずであるが。
中央議会を立法機関とし、選挙を経たわけではないそれに権限を与えることは、明らかな法の逸脱であり、アッバース氏自身が起草したオスロ合意文書にも、それを承認するよう故アラファト大統領に多大な圧力を行使した基本的政治体制にも反している。そして、この中央議会は、パレスチナの人々の四分の一を代表していない。付け加えるならば、その合法的権限は少なくとも10年前に失効している。
アッバース氏のスピーチに拍手した中央議会のメンバーのほとんどは、東西冷戦終了と共にその任務を終えたパレスチナ各派を代表する人々であり、これらの派閥は、書記長というポストだけで残っている事も多い。かつては先陣を切ったその書記長達も、今は既に定年を過ぎている。
合法的な大統領選挙を、という議会の呼びかけは、それ自体非合法である。つまりそれは、根拠の無い結果しかもたらさないだろう。それに加え、現在の地理的政治的、心理的分裂状況を更に深刻にするだろう。
アッバース大統領は、歴史あるファタハ指導部を対外的に救済しようと試み、ファタハ中央委員会メンバーの、ファールーク・カッドゥーミー、アブー・マーヒル・ガニーム、ムハンマド・ジハードらに加え、DFLP(パレスチナ民主戦線)書記長ナーイフ・ハワートメにも声明を出す事を求めて、彼の対ハマース路線強化に努めた。しかしこれは既に失敗している。彼らのうち誰も、大統領の呼びかけ、つまりパレスチナの人々と全世界の前では不適切に見える事に、応じようとしなかったので。
実りある選挙とは、その結果が全ての政治派閥に例外なく共有され合意されるものでなくてはならない。しかし、アッバース大統領は明らかにそれを望んでいない。ブッシュ大統領の承認にのみ頼ろうとしている。実施前に結果が確定されるような事にはならないだろう。そのために、最新の立法議会選挙を基盤とする選挙体制を変更し、種々の部署で構成される既存のシステムを一つに統括したのだ。これにより、イスラエルのような比例代表選挙が行われることになる。
しかし、パレスチナの少なくとも半分を代表する派閥や組織、つまりハマースとイスラーム聖戦の参加なしで、そして、国内パレスチナ人の三分の一、つまりガザ人口なくして、どうやって選挙をするつもりか?既に屍と化したパレスチナ国民議会、これは10年前ビル・クリントンに拍手を送り、パレスチナ国民合意を破棄するために招集をかけられたのが最後であるが、それの再招集の呼びかけも、非合法である。それは、ハマース、ジハード、民族抵抗、アクサー殉教者部隊の4派閥を含まない。それから派生した機関、執行委員会や中央委員会も全て非合法と言える。
執行委員会は、どうやってこの議会を召集しようというのか。その半数が既に故人となり、生存者は病を得ているか、あるいは、先の選挙で勝利せず代表権を失って消えかけている派閥を代表している者のみだというのに。
アッバース大統領は、オスロ合意と彼が有する機関を有利にするため、国民議会と執行委員会の活動を凍結した張本人である。そして、多数派がファタハに属する立法議会をそれと置き換えた。しかし、皆がクリーンで自由だと評した先の選挙の結果、情勢が変わりハマースが多数を占めるようになると、国民議会、中央議会、中央委員会といった組織の腐りかけた骨を蘇生しようとするようになった。
アッバース大統領は、二つの選択肢の前にいる。
一つは、政治合意の上に民主体制を確立する事。つまり、抵抗運動を支柱とし、自由でクリーンな選挙を通じて人々の意志により政治決定を行う体制である。
もう一つは、国家体制を解体し、イスラエル人と抱き合ったりキスしたりのジェスチャーを交えながらの交渉に全て失敗した後には、武装抵抗の独裁を宣言する事。これらのジェスチャーは、ヤーセル・アラファトが決して受入れなかったことだが。
最近の一連の動きに見られる独裁者風のスタイルからすれば、アッバース大統領は既に選択したように思われる。普通の独裁との基本的違いは、アラブ人であれ他の民族であれ、独裁者とは国全体を抑圧する自身の権力を持っているものだが、アッバース大統領の新たな独裁主義は、占領とそれがもたらす力に頼っているという点である。彼は、祖国の同胞を裏切ってオルメルトと連合した。そして、ガザが解放され、再び、腐敗の象徴たる大統領事務局にそれが引き渡されるのを待っている。
パレスチナ民族には、救済革命が必要である。政治的均衡を取り戻し、民族をこの四面楚歌の危険な状況から脱出させ、真の安定を得させるために。既に不和は取り返しがつかず、耐え難い事態になっている。この結果は壊滅的である。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:11445 )