コラム:トルコの北イラク介入、レバノン情勢と米政策の関係
2007年10月17日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ アメリカがトルコをイラクへ、シリアをレバノンへ招くのか?

2007年10月17日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP論説面

【イサーム・ナアマーン博士】

合衆国には分権というものが存在し、大統領には立法権がなく連邦議会には執行権がない。しかし、大統領が弱体化する、もしくは任務執行に失敗した場合、議会が、間接的に限られた形で執行権を行使し、その結果更なる混乱や情勢の悪化を招く事がある。

二期目のジョージ・W・ブッシュは特にイラク問題のため非常に力が衰え、度々議会と執行権を共有することとなった。このため、上下両院を含めた連邦議会が、レバノン、シリア、イラク他の国々への実質的対応に関わる決議や勧告を行ってきた。最新のものが、下院外交委員会による、オスマン時代のアルメニア人虐殺に関するものである。これはいずれ上下両院で、決議として採択するかどうかの投票が行われる。

政権がそのような決議に従う必要がないのは事実であり、ブッシュとその周辺は、それが採択される事のないようあからさまに働きかけている。しかしこれは、虐殺と認められればその被害者への賠償が将来的に問題となるため、トルコ側にとっては、既に甚大な名誉毀損であり利益の侵害である。

エルドアン政府は、ブッシュ政権がイラクで分割政策を実施するのを見てきている。それによって合衆国は、クルドがトルクメンを支配するよう仕向け、クルド自治政府に、イラクから独立し、トルコ、イラン、シリアのクルド少数派を集めた大国家の核を成すよう奨励してきた。

なお悪い事に、トルコのクルド労働党の戦闘員が、イラクのクルド自治政府承認のうえでイラク北部を、隣接するトルコのディヤルバクル地方での戦闘の出撃基地としている。トルコは繰り返しこの越境活動を糾弾し、バグダード政府はアンカラとの治安協定に署名せざるを得なくなった。これにより、トルコはイラク領内まで労働党戦闘員を追撃する権利を保持している。

また、バグダード政府は、トルコ国籍のクルド人戦闘員がイラク・クルディスタン地区を隠れ蓑にしてトルコの治安部隊を攻撃していると認めた事になる。従って、エルドアン政府は、国会承認を得れば、必要に応じて北イラクへ入ってでもクルド戦闘員を追撃し、問題に対処する決定を下した。

世俗派のトルコ軍部が後押しするエルドアン・イスラム政府の決定は、ブッシュ政権を慌てさせ、戦争に等しい決定を撤回させるべくアンカラに激しい圧力をかけさせる事になった。比較的平穏だったイラク・クルディスタンにトルコ軍が入れば治安の混乱は避けられない。更に、北イラクの混乱は、米軍がトルコ基地で得ている多大な兵站関係の便宜に支障をきたすおそれがある。これら全てがブッシュ政権に影響し、占領に反発するイラク、あるいは米議会内の反対派の前で、その力を弱めている。

ここで重要なのは、ブッシュ政権のイラク・クルド寄りの偏った政策が、実は間接的にトルコの介入を招き寄せたという事である。トルコが、イラクに関してアメリカとは異なる独自の利益や目的を有しているのは自明の理であり、結果としてブッシュ政権は更なる悪影響を被り、中東におけるアメリカの将来をも左右するだろう。

その最初の兆候は、大統領選を控え深刻な政治危機に陥っているレバノンに見られる。ブッシュ政権は与党である3月14日勢力を引続き支持しており、その勢力内の過激派は、(ヒズブッラーをはじめとする)抵抗勢力の武装解除やイスラエルとの関係正常化を呼びかけている。これらは大勢の市民を動員し得る問題であり、もし暴動等になれば、その沈静化や治安を口実に再びシリアが介入するだろう。70年代に西側寄りのレバノン政治勢力が、増え続けるパレスチナ人や彼らの対イスラエル活動に対応した際に起きたように。今日では、抵抗勢力と敵対する側(3月14日勢力)が、当時の西側寄り派閥とほぼ同じ役割を果たしている。

このまま事態が進めば、アメリカは、国が分裂するまで3月14日勢力を支持せざるを得ず、そうなると(野党側の)アラブ・イスラム勢力が、シリアの政治的軍事的介入を呼びかける、もしくはシリアの介入を黙認することになる。

イラクに介入するトルコであれ、レバノンに介入するシリアであれ、アメリカは多大な政治的責任を負っている。アラブの民族的団結とその自由、利益、尊厳に対してなされたこのような犯罪行為につき、アラブ・イスラム抵抗勢力は、アメリカにその代価の一端なりとも支払わせる義務があると言っても過言ではない。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:12183 )