論説:ガザ・エジプト国境問題
2008年01月26日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ 国境閉鎖ではなく、国境の規律化を

2008年01月26日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン:本紙(編集長)】

予測どおりエジプト当局は、金曜(25日)ガザとの国境を再封鎖しようとした。ガザ地区を無期限に、これまでの状態、電気、ガス、医薬品無しで150万人を捕えておく巨大な収容所にしておくためである。

多くが失念しているかもしれないが注目すべき事がある。困難な生活環境、激しい欲求不満にも関らず、封鎖され飢えたこれらの人々は、収容所の扉を壊して国境の向こうに押し寄せた時に、そちら側の商店に対し盗みや強奪などの行為に走らなかった。ガザ地区の人々は、自身が非文明的かつ激しく侮蔑的なやり方で扱われているにもかかわらず、責任ある文明的態度で臨んだのだ。彼らは、エジプトの商店へ行き対価を支払って品物を購入した。需要が激しく上がったため3倍4倍の値をつけられても。

アラブ、そして文明的欧米の首都も含む世界の都市は、絵に描いたような反乱と治安ミスを目撃したつもりだった。しかし、このデモ参加者たちに法は不要であった。ロサンジェルスではテレビカメラの前で商店に対する襲撃が行われ、パリ郊外では放火が起きた。これらの人々は封鎖され飢えているわけではなく、ガザ西岸の人々に比べればはるかに恵まれた環境で暮らしているはずなのだが。

この出来事を理論的に説明すれば、パレスチナの人々はエジプトに対して大いなる愛を抱いており、事ある毎にアラブ共同体への真情の発露としてそれを示したいと思っているという事があげられる。パレスチナの人々は、エジプトを年長の兄弟として頼っている。大量の石油が時代を変えてしまう前、その国は他の多くのアラブに支援の手を差し伸べ犠牲を払ってきた故に。責任感と自制心を備えたエジプト国境治安部隊の対応にも、もちろん注目すべきである。我々がテレビで見たように、彼らはガザからの気高い亡命者達に文明的なやり方で対処した。

この曇りの無い光景が維持され、パレスチナ・エジプト国境発のニュースが緊迫した現状にインスピレーションを与える事を期待する。特に、越境を求める人々とそれを阻止しようとする治安部隊の間で残念な事件が幾つか起き、分断壁に穴が開けられたためエジプト当局が国境閉鎖を示して緊張が高まりつつある中では。

国境通行の再規制、侵害が起きた場合の混乱に終止符を打つ必要性については議論の余地が無い。しかしエジプト当局が、完全に国境を閉鎖し以前の状況へ戻すと示唆したのは誤りであった。これは、ガザの人々を改めて檻の中へ戻し、餓死、病死、激しいイスラエルの攻撃による殺害に晒すと言ったも同然である。我々は、エジプト政府が益々大きくなる米イスラエルの圧力に抵抗しているのをよく理解している。米イスラエルは、速やかに国境を閉鎖し、ガザ地区住民に許された自由を奪う事を求めている。この圧力に無償あるいは無条件で応じるわけにいかない。

別な見方をすれば、エジプト政府の前には、ラファハ国境に関する誤った現状を正す歴史的機会が存在する。それは、パレスチナ人の通行に関する特別合意を修正し、イスラエルの拒否権を無効にするようワシントンを説得する事により実現する。イスラエルの拒否こそが、純然たるアラブ人同士の事にも最終的な力を持っているのだ。

米政権は、イスラエルがガザ並びに西岸のパレスチナ人に課した集団懲罰を支持した事により大きなミスを犯した。それから、この国際的に禁じられている懲罰により、パレスチナ人を唆してイスラム抵抗運動ハマースによるガザ政権を片付けられるとみなす事により、更に大きなミスを犯した。

過去3日の進展を見れば、ハマースがより大きな利を得ている。彼らは、ラーマッラーのスポークスマンが言うようにガザの運営に失敗したわけではない事を証明して見せた。失敗したといえるのはイスラエルのプランの方だろう。エジプト国境の分断壁に押し寄せ自由の香をかごうとしたのは、ハマース要員だけではなかった。ファタハのメンバーもいたのである。

イスラエルは、ハマースの人気を衰えさせるどころか倍増した。ガザだけではなく西岸でもそうである。そして彼らの人気は、米イスラエル及び穏健派アラブ諸国諸機関に支持されたアッバース大統領の権力を明らかに削っている。ガザで、抵抗各派に従う武装メンバーが国境の壁に穴を開け、勇猛果敢にフェンスを破壊していた時、アッバース氏の占領エルサレムへ向かう車列は、イスラエル軍のいやらしい検問所の前で停止していた。忍耐強く息を潜めた西岸の人々が何百と列を成している場所である。アッバース氏は、オルメルト、バラクと会見し、如何にしてガザにおける抵抗の勝利に枷を嵌め、内実を無にできるかを話し合いに行くところだった。

ガザ住民を再び檻に戻し、人間の尊厳という最も単純な抵抗すら奪う事は、イスラエルのみならずアラブ体制にも決定的に危険な結果をもたらすだろう。世界各地のデモにより、パレスチナ人の苦難に対するアラブの共感は、かつてないほど高まっている事が伺われる。これが続けば、彼らの苦難は、膨れ上がったアラブの欲求不満という火山になって噴火するだろう。

ガザ住民を飢えさせる事を許さないと言ったムバーラク大統領には、その言葉を可及的速やかに実践することが求められている。ワシントンと信頼関係を築き、その要請に従って全ての戦争に参加し、またその経済危機を救うため石油価格を下げているアラブ諸国首脳連にも動く事が求められている。ガザの封鎖解除だけではなく、ガザ和平構想をイスラエル側に強く要請するのである。

アラブ世論は再び力を持ち始め、国民覚醒の段階に入っている。各都市の数々の街頭でガザの最新ニュースに対する反応を伝えるテレビ画面を通じ、我々の見解ははっきりと表明されている。この事実を無視し続ければ、イスラエル合衆国そしてアラブ諸国体制は、近視眼的な愚行を犯す事となるだろう。

ガザの人々は、イスラエルの抑圧が課した闇を照らす火を灯すことによりメディア戦争に勝った。そして、文明的な世界中の都市の気高く自由なカメラとペンを自分達の側にひきつける事により、世論を見方にし得た。失敗したのはイスラエルである。これまで被害を誇張していたミサイルから国民を守るという彼らの権利は、いくつかの国では受入れられなくなった。ガザでは無効な手段を用いたためである。以前レバノンでも効果のなかった手段、つまり政治的孤立、経済封鎖、侵攻、空爆等である。そしてイスラエルの評判はかつて無いほどまで落ちる事となった。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:12979 )