コラム:イラクに主権はあるか?
2008年02月27日付 al-Quds al-Arabi 紙

■イラク:占領下の主権

2008年02月27日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

ヌーリー・アル=マーリキー氏率いるイラク新政府は、クルド自治区に対するトルコ軍侵攻を主権侵害であるとして糾弾している。いずれにしても遅きに失したこの非難は、未熟、自嘲、自己欺瞞を含んでいる。なぜなら、そうやって非難した人々は、米兵の侵略以後、イラクの主権は占領という泥とその大罪にまみれている事を知っているからである。

イラク政府とその代表に、トルコの侵攻とアメリカの侵略が一体どう違うのか伺いたい。何故、トルコの局地的かつ一時的侵攻が糾弾される一方で、アメリカの侵略は歓迎され、評価と敬意を得るのか。

我々はイラクの主権並びにその領土の統一を支持し、外国兵の駐留に反対する。この論理により、トルコの侵攻を非難し、それに立ち向かうクルドの兄弟と連帯する。そして、トルコ側の弁解を受入れない。しかし我々はアメリカの占領にも反対である。イラクがトルコ、イランを含む隣国の介入を正面から受入れる場所となった元凶が、それであった故に。

イラク代表がトルコによる主権侵害を語るのは、恥ずべき事だ。イラク全土に駐留する17万の米兵、彼らなくしては、イラク政府はグリーンゾーン内に留まるしかなく、要人の空港への移動にはセキュリティの壁を必要とする。そんな場所は世界の何処にもない。米兵17万に加え、20万の治安維持軍、8万の「覚醒」軍団、同数の民兵らの支援を得てさえ、空港道路の安全すら確保できない。そんな政府には主権などという言葉を発する資格がない。

トルコの侵攻が糾弾された事により、イラクの人々、特にクルドは、自分達が生きている大いなる虚偽に気づいただろう。その点は神に感謝してもよいくらいだ。クルド自治区には政府もあれば、閣僚も警察も治安顧問も、そして肩に星を輝かし胸を勲章で飾った軍将校達もいるのではなかったか。

しかし、より大きな嘘は、米兵は彼らを守り心をつかむためにやって来た、というものである。如何なる外国軍の侵攻に際してもイラクを防衛するはずの米軍は、今回のトルコの侵略には沈黙を守り顔を背け、どころか、ブッシュ政権がこの攻撃、イラク領土の侵害にゴーサインを出したのではなかったか。アメリカの解放軍が来た時、喜び踊って迎えたのは、自治区内外のクルドの兄弟たちだった。長らく偽のアメリカンドリームを生きた彼らが、省みて目覚めん事を祈る。

これは新たな国家間のゲームであり、少数民族が犠牲になるのだ。ブッシュ政権にとってみれば、トルコという戦略的同盟国がクルドというより小さな同盟者に侵攻している構図である。アメリカがその戦略目標達成のためクルドを利用し、それから犠牲にするのは初めてではない。現代史は同様の苦い経験を多数記録している。ブッシュ政権は、イラクの他の宗教コミュニティや宗派を利用したように、時には金銭、時には解放、民主主義、人権といった偽のスローガンをもって全く醜悪なやり方でクルドを利用した。そうする事により、イラク占領、石油資源独占、イスラエル並びに米国の覇権を脅かしていたその軍事的野望の打破という目的を達成した。

どうみてもアメリカのイラク占領は、アメリカのみならずそのイラク側の同盟者にとっても恥ずべき記録を残している。国連の報告によれば、イラクでは400万が飢え、500万の子供が栄養失調で、600万が住む場所を追われた。少なくともその半数は近隣諸国にいるとされる。占領以来100万が命を落とし400万が負傷した。

石油価格の上昇により全産油国が前例のない繁栄を誇る時代に、イラク国民にとってのみ、その富は呪いとなった。米侵攻の時期を通じてFRB(米連邦準備制度理事会)議長を務めたアラン・グリーンスパンによれば、石油こそ侵略占領の最たる理由であった。

イラク石油で利を得た金持ち達、民兵組織指導部、閣僚とその子弟らなどのグループが存在するのは事実である。彼らは石油を横領密輸した。ロンドン、ドバイ、アンマン、ベイルート、パリといった都市を一瞥するだけで、その富がアラブ湾岸諸国の腐敗した首長たちすら恥じ入らせる勢いで浪費されているのがよく分かる。より腐敗した国ほどイラク占領を最優先したがったのは、石油のためである。

解放の英雄の一人、米侵略で最も目立った一人とされるアフマド・アル=チャラビー博士の見解によれば、自身もその一人である政治層は、サッダーム元大統領以降、イラクの統治と国家運営に失敗してきた。現イラク政府のメンバーも多く参加したロンドンでの会合で、チャラビーは、現行の政治は、先の選挙で明らかとなった宗派主義的要素に頼っており正当性を失っていると述べた。その腐敗についても、地域によっては半年間食糧配給票が到達していないなどの詳細に触れた。

マーリキー政府は、この食糧配給票を廃止しようと計画している。これは唯一残っている前政権の名残であり、それ無くしては多数のイラク人が餓死しただろう。駐イラク国連の元代表であり経済封鎖の間、食糧配給を監督したデニス・ハリデー氏は、前政権が毎月一日に各家庭に食料を配給し得た事を指摘している。食料が期日通り到着することを疑う家庭は無かったという。

チャラビー博士のこの言葉で前政権を正当化するわけではない。しかし、救済の名目で占領した外国軍と彼らに協力した政治エリート達の手により、イラクがどれ程まで破壊されたかを理解するよすがとはなろう。イラクにおける主権など大嘘にすぎない。新生イラクそのものがでっちあげである。米政府要人のバグダード空港到着を最後に知らされるのはイラク首相である。米軍残留について一番最後に相談されるのも、覚醒軍などと称されるものの用意ができたのを最後に知るのも彼である。閣僚なき省庁を率いる首相は、もし恥を知るならば、自国の主権だの、その侵害だのをほのめかすべきではない。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:13238 )