コラム:イスラエルのガザ侵攻及び米国の対中東戦略について
2008年03月01日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ ガザを焼き尽くし、シリアには戦艦を

2008年03月01日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

イスラエル防衛副大臣が示唆した大惨事は、ガザの子供たちの元だけではなく、全アラブ地域に及ぶだろう。米戦艦USSコールがレバノン沿岸に到着すると同時にイスラエル陸軍がガザ国境に集結したのは、偶然ではない。USSコールは、戦闘機と数千の海兵隊を乗せた船舶の一団を従えている。

これは、米イスラエルが穏健派アラブ諸国と協力して計画した最終戦争である。イスラエルを最も優位に押し上げ、これを最後にアラブに膝を折らせ、そしてワシントンが決定する価格で地域の石油をコントロールし続ける事が目的だ。

ひと月前のワリード・ジュンブラートが、「混乱よ、戦争よ、ようこそ!」と口走ったのは、彼の気まぐれではなかった。リヤドを経由してワシントンから戻ったばかりの彼は、途上で何か、納得のいく事を耳にしたのだろう。その預言は、来る数週間中に現実のものとなりそうだ。

米軍司令部は、レバノンの安定を支援するために、これらの戦艦を派遣したと言う。明らかな軍事介入をもって、如何にしてその目的が達せられるのかは不明である。戦艦とは、参戦のため交戦地に派遣されるものではないか。対ミサイル砲を擁する米駆逐艦が、観光や日光浴のためにレバノンへ来たとは誰も思わないだろう。

先のイスラエルによる対レバノン戦争は、アメリカの指令により行われた。来る戦争も同様だろう。ウィノグラード報告(イスラエルによる同戦争の調査報告2008年1月30日公表)がオルメルト首相を非難していないのは、それが元々首相の決定ではなかったからだ。エフード・バラクが防衛相に返り咲いたのも同じように説明される。

レバノンとパレスチナにおける抵抗勢力を根絶やしにする事は、アメリカ、アラブ双方から求められており、戦争以外ではそれを達成できない。ガザからのミサイル発射を食い止めるためという口実で、イスラエルは既に抵抗勢力に戦争を仕掛けており、子供たちがナチスよりも悪辣な炎の犠牲になるのを我々は目撃している。一方、アラブ諸国政府をはじめとする世界は沈黙を守っている。

ガザにはハマースの活動を支援するアル=カーイダ組織が存在すると述べ、イスラエルの空襲にゴーサインを出したマフムード・アッバースもこのプランに関っている。「アル=カーイダ」は、世界中を「テロと闘う」側の味方につけることのできるパスワードである。

パレスチナ首相サラーム・ファイヤードが言うように、パレスチナのミサイルは花火に過ぎず、アッバース大統領が観察するようにそれは役に立たない。しかしラーマッラーの両者は、ミサイルに代わるものを何も提起し得ない。イスラエルとの和平交渉に進展はなく、アナポリス和平会議は入植再開によりぶち壊されたというのに。このような事態であれば、彼らの辞任を要請してもよいのではないだろうか。パレスチナ人の名で交渉する権利を撤回すべきである。

アッバース大統領のPAは挫折した。要員の給料を外部に請い、イスラエルに攻撃の口実を与える事のみがその任務となった。会社が倒産、もしくは政府が失敗した場合、解散するのが論理的な帰結であるが、アッバース大統領の理論は我々の理解を超えている。

イスラエルは、南レバノンでアントワーン・ラハドの軍勢(内戦中イスラエルに支援されたレバノン民兵組織)を必要としたように、PAを必要としている。彼らの任務はイスラエルの治安を守り、フェダーイーの作戦を阻止する事である。現在に至るまで、PAはこれらの目的を実現する能力も意志も示していない。従って、イスラエル側は如何なる譲歩も示さず、またPAとの和平合意を結ぶ見通しも無い。入植が再開され、入植地が拡大される一方、交渉において何ら実質的進展が実現されないのは、このためである。

先のイスラエルによるナブルス侵攻は、アッバースPA政権を叩く事を目的としたイスラエルの治安計画の第一段階であった。バラータ難民キャンプでアル=アクサー殉教軍団の二名が殺害された。イスラエルがPAを尊重せず、それとの合意も重視していない事の表れである。

既にガザで始まった抵抗勢力殲滅のための戦争は、レバノンでは、より強力な抵抗勢力、すなわちヒズブッラーを標的とするだろう。イラン、シリアを引き込む事も目的である。ブッシュ政権の時間は限られており、特にイランの核プログラムに関しては不利である。米戦艦コールは、シリアもしくはイランからイスラエル目掛けてミサイルが飛ぶのを阻止するために派遣された。アメリカは戦争に突入する用意がある。もしその戦闘機、戦艦、あるいはミサイルが火を噴けば、アラブ地域は本格的な戦場となるだろう。レバノンが内戦になれば、シリア・イランと米国の対立はより険しくなる。レバノン国民につけが回ってくる。そして湾岸諸国はイランの敵愾心から逃れ得ない。

先鋒となるイスラエルだが、その内部により大きな敗北を抱え込むだろう。1967年戦争におけるアラブの敗北、シナイ、西岸、ガザ、ゴラン高原の占領は、イスラエルに安全をもたらしたわけではなかった。1982年、イスラエルのレバノン侵攻はパレスチナ抵抗勢力を遠ざけたが、それと同じくらい強力でやっかいなイスラム抵抗勢力をもたらした。イラク、アフガニスタンの占領は、地域を支配し覇権を掌握するというワシントンの野望を実現しなかった。カルザイ政権がアフガニスタンの三分の一にしか及ばない一方でタリバンがカーブール制圧に備えていると、欧米でも報道されている。

イスラエルのガザ制圧は、抵抗勢力と彼らのミサイルを阻止しないだろう。ガザを焼き尽くすという脅しは、同じ強さでイスラエル自身に跳ね返ってくる。イスラエルによるレバノン攻撃もまた然り。ハッサン・ナスラッラーがイスラエルを破壊する新兵器を使用すると示唆する時、その言葉は文字通りに受け取られるべきである。

指針を失いブッシュ大統領とライス長官にびくびくしている我々のカルザイが、我々アラブの問題である。しかし、ガザ、レバノン、イラク、そしてアフガニスタンで、途方も無い代償を払いつつ抵抗を続ける民は、歴史に栄誉を残すだろう。

巨大な武器庫を有するアメリカは、最初の数日、数週間、あるいは数ヶ月で、自国に有利なよう戦争を終結させられる。しかし問題は、その後、いわゆる「酔い覚め」の時期に何が起きるかである。現在までに8千億ドルを投じているアフガニスタンとイラクでの戦争のため米国は破産状態であり、欧米経済全体が停滞している。石油価格は1バレル100ドルを越え、サウジと中国が米国債を買わなければ、国全体が破綻する。

イスラエルの新たな犠牲となったガザの子供たちは、アラブ共同体の殉教者達の中でも一際輝く一点である。その血は無駄にならないだろう。今日でなければ明日、さもなくば明後日、彼らのために復讐がなされるであろう。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:13268 )