コラム:エルサレム神学校乱射事件
2008年03月08日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ ガザの祝宴、ブッシュの嫌悪

2008年03月08日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

ブッシュ米大統領は、占領西エルサレムのユダヤ神学校襲撃を非難した。何ら不思議はない。アッバース・パレスチナ大統領による非難も、同じく予測されたものであった。しかし、ガザのパレスチナ人の中に、あえてこれを祝し、事件を喜ばしいと表現した人びとがいた事につき、米大統領は嫌悪を感じたという。これは、アラブ、イスラム教徒の犠牲者を明らかに軽んじる人種差別的視点を露呈している。

ブッシュ大統領も、その盟友であるサルコジ仏大統領もメルケル独首相も、無慈悲でファシスト的なイスラエルの空爆で殺されたパレスチナ人犠牲者についてはくやみの言葉ひとつ発したことがない。最新の犠牲者は、ひと月に満たない乳児、アミーラ・アブー・アスルであったが。

自らを優等種とみなすイスラエル人犠牲者に対する不面目な偏重と、それ以外の民族の犠牲者に対する恥ずべき沈黙は、過激派グループの利益となるのみである。

911事件犠牲者のための報復としてブッシュ大統領は、イラク、アフガニスタンでの戦争に突入し、これまで何万という犠牲を出し8千億ドルを費やしてきた。その彼が、自らの盟友であるイスラエルの空襲により、3日間で125名を失った人々(ガザ住民)に何を期待するというのだろうか?

彼らを飢えさせ、燃料、食料、医薬品の補給路を断ち、外界から遮断したイスラエルは、更に戦車、戦闘機、ミサイルでガザ住民を攻撃し、より大きな災厄を示唆した。これについてホワイトハウスからはひと言の非難もない。どころか、このナチス風の集団懲罰が自衛権であると主張するため、一連の弁解を続ける。国連安保理のイスラエル非難決議は、米代表によりうやむやにされる。

暴力と市民の殺戮をよしとするわけではない。しかし、我々の側の犠牲者に対する欧米、特にアメリカによるこのような偽善を苦々しく思う。60年以上もの間、この偽善的態度が、イスラエルによるパレスチナ人の殺戮を許してきたのだ。

欧米の偽善的諸政府は、東ティムールからコソボに至る地域で抑圧された人びとのための国家を打ち立ててきた。ところがパレスチナ人のこととなると、そのような国家の拠り所となるべき倫理観が二の次となる。イスラエルが絶対不可侵の存在だからである。

米政権と全ての西側政府に問う。エルサレムのユダヤ神学校に対する攻撃がテロとされる一方で、パキスタンやアフガニスタンのイスラム原理主義学校に対する攻撃は讃えられるべき英雄的行為とされるのは何故か?

占領エルサレムで攻撃されたのは、バルフ・ゴールドシュタインに代表されるユダヤ過激派の最大の温床とでも言うべき神学校であった。ゴールドシュタインは、1994年へブロンのイブラーヒーミー・モスクに押し入り、礼拝中の信徒を背後から銃撃して20人以上を殺害した。宗教、人種差別的憎悪を発散する、ただそれだけのために。

このような学校が、アラブの土地を力ずくで押収する過激な入植者を生んでいる。彼らはかつてエルサレムのモスクのある地区に放火しようとした。ソロモンの神殿を発掘するとして、その地下基盤を揺るがしたのも彼らなら、ヘブロン、ナブルス、トゥルカレム、クフル・カースィム、ナザレその他の地域で非武装の人びとを脅したのも彼らである。

この戦争が不平等なことを我々はよく知っている。封鎖され飢えさせられたパレスチナの人々は戦闘機も戦車も、近代的なミサイルも持たない。その上更に、欧米の支持を得たイスラエルにより動きを封じられている。それに同調するアラブ諸機関によっても封じられている。しかし、そのような人々には最早抵抗しか選択肢は残されていない。

ガンジーに倣い市民不服従やデモによる平和的抵抗を論じる人びともいる。このように力の差が大きな場合、確かにそれは有効な手段である。その選択に反対ではない。しかし思い出さなくてはならない。パレスチナの土地を占領しその住人を殺戮しているのは、スウェーデンやスイス人ではない。英国人でもない。子供たちを戯れに殺し、住人の頭上でその家屋を破壊するのが我々の敵である。ガザ北部のイスラエル入植地に原始的なミサイルを発射するのを止め、抵抗活動を諦めなければガザを焼き払うと、その防衛副大臣が脅しを掛ける。

和平路線を選び抵抗を諦め、抵抗活動を卑劣と非難するのはアッバース大統領とその周辺である。しかし、彼らがイスラエルとの恥知らずな交渉を行った12年間に得たものは、更なる入植地、検問、道路封鎖、パレスチナ人の殺戮に他ならない。しかもラーマッラーの自らの居室の真下で、イスラエルに軍事行動を起こされる。

イスラエルは安全を欲している。しかし同時に、パレスチナ人を標的にした挑発的な殺戮行為により、その安全を自ら脅かしている。自らの条件に合致しない休戦を拒否し、アラブやパレスチナ側が和平プロセスを固めようとするのを阻む事により、イスラエルの安全は遠ざかっていく。

最近起きたガザでの殺戮は、和平交渉の評価すべき点、入植の停止、検問の廃止、捕虜の解放などからの逃避であった。ロードマップに発するこれらは、ブッシュ大統領主催のアナポリス和平会議で更に後押しされたが、今回のイスラエルの行いにつき、米大統領はひと言も非難していない。

恐らくオルメルトは、報復のため、ガザに再び戦車を派遣するだろう。そしてパレスチナ人の血に飢えたユダヤ過激派を満足させる。ハマース報道官の一人が神学校攻撃を容認するコメントをした後では、一層その可能性が高まっている。しかし我々は、ガザの全員が現代のガス室で滅ぼされようとも、イスラエルが安全を享受することはないと知っている。抵抗は、あらゆる手段で継続されるだろう。

イスラエルは西岸で、人種差別的隔離壁、プレッシャー並びに軍事検問(現在まで620を数える)をもって短期間、殉教的行為を阻止する事に成功した。すると抵抗戦士らは、アシュケロン(ちなみに私の出身地だが)に届くミサイルを使用するようになった。殉教的行為、イスラエルに対する武装闘争はより強力になって復活するのである。ある時はネゲブ砂漠の街ディモナの中央市場で、またある時は西エルサレムの真ん中で。どちらもイスラエルでは堅固に守られた街である。

過ちは、思い上がったイスラエル指導者らの姿勢にある。欧米の盟友を通じて彼らが嘘をつき真実をもみ消し、パレスチナ人を悪者にし続ける以上、双方で殺戮は続くだろう。20人のパレスチナ人に対しイスラエル人一人という恐ろしい割合でだが。

イスラエル人の65%が、ハマースとの休戦交渉を政府に求めている。しかし、中東で唯一の民主政権を自称するこの政府は、それを拒否し、戦争、殺戮、集団懲罰を主張し続ける。子供たちを乳幼児を殺す。イスラエル国会クネセットを支配するユダヤ過激グループにより、その民主主義がいかに容易く牛耳られるかという証拠である。

エルサレム神学校襲撃を祝して花火を打ち上げ、停電のせいで真っ暗な路地で踊るガザの人々は、いつ何時、自分の命を奪うイスラエルの空襲が起きてもおかしくはない事を承知している。つまり彼らは最早死を恐れず、行動の結果を顧みる事もない。ここに、イスラエルの真の悲劇、その指導部の大いなる過ちが潜んでいる。

ガザ虐殺は、イスラエル国家衰退の序章となるだろう。その指導者らは和平に対して戦争を選び、その犠牲者から人間性を奪った。そしてまた残念な事に、欧米に自分達の支持者を見出したのである。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:13315 )