コラム:イラクにおける女性自爆攻撃の増加について
2008年03月18日付 al-Sabah al-Jadid 紙
■ 女性による自殺攻撃:アル=カーイダの手詰まりか、女性の立場の変化か?
2008年03月18日付サバーフ・ジャディード紙(イラク)HP社説面
【イラクの声通信】
カルバラで自殺攻撃を行った女性は、爆発物のベルトを黒の外套に隠し、巡礼者で賑わうアル=ムハイヤム地区(イマーム・フサイン廟から300メートル)に潜入、雑踏の真ん中で自爆した。民間人の死者47名、負傷者75名。現在まで名前も身元も公表されていない彼女が、今年に入って6人目の女性の自殺攻撃者であった。これは、女性をリクルートし自殺攻撃に使うという現象がピークに達している事を示す。米軍の統計によれば、2003年4月から今日まで、自殺攻撃を行った女性の数は19に上る。何がアル=カーイダを女性のリクルートに走らせるのか?そして、恐らくは母であったろう女性が、無関係な人びとを圧倒的な暴力をもって殺害し、自らも死のうとするのは何故か?
アル=カーイダ、特にアル=ザルカーウィーの発言には、(女性による自殺攻撃に関して)誇りに思う気持と恥じる気持が共に見られる。アル=カーイダは、女性を自殺攻撃に使う事について、ネット上にザルカーウィーのものと見られる声明を出す事によりファトワを発している。それによれば、シリア・イラク国境のアル=カーイム地区でイラク国軍志願兵の一群を攻撃した女性について、「神は、我々の姉妹を殉教者として受入れた」、彼女は「その信仰と尊厳」により守られた、等の表現を使っている。また、ベルギー人女性ムリエル・ドゥゴクの自殺攻撃(2005年11月米軍を狙った)につき、末尾にザルカーウィーの署名が付された書簡がネット上で公開されたが、それは、「男性がもはやいないから、我々は女性をリクルートするようになったのか?姉妹たちが自殺攻撃を実行する一方男性達は生に汲々としている。アラブ共同体の子弟はこれを恥としないのか?」と述べている。その女性を褒め称えつつ、男性の立場を恥とする、そのような反応の狭間で、女性による自殺攻撃は、「新たな現象」となっていった。
社会学者ファーリス・アル=ウバイディは、「公共の場への女性の参加に対し保守的である」事を特徴とするイラク社会で起きているその現象については、「単に嫌悪するだけではなく問題として捉えつつ研究する」必要性があると説く。ウバイディは、女性を利用する理由は、「より疑われにくく身体検査等を逃れやすいため、男性より使いやすい」としつつも、「彼女達の参画の背景にある隠された動機」を研究する重要性を強調する。例えば、「女性の自殺攻撃者の多くが、アル=アンバールとディヤーラ出身であるが、両県は、アル=カーイダ系組織の活動が活発であると共に(政府側の)軍事作戦により組織人員の多くが殺害された場所であり、つまり、夫や家族の一員の死に対する報復」という動機も見られる。また、ウバイディは、この現象を宗教的強硬派出現と結び付けている。国際戦略研究所の2008年版ミリタリー・バランス・レポートは、(宗教的)強硬グループの存在する国のトップにイラクをあげており、それによれば30の組織が国内で活動中である。また同レポートは、測地や輸送といった兵站分野で女性の起用がある事を明らかにしているが、ジハードにおいては女性も男性と同じ権利を有すというファトワが発せられた事が、イラクで起きた(注目すべき)変化であったとしている。
女性の権利問題についての活動家サバー・ハーリドは、「死にあって女性が同じ権利を得る、つまり生きている内はそうではないという事か?」と疑念を呈する。アル=カーイダは、「女性に対し厳格であり、就職や教育を認めず、幼い内に結婚を決める」ような組織であるとしてハーリドは、「自殺攻撃に女性の参加を認めるというファトワは、イラクで人権問題に関心を有するあらゆる人から疑問視された。初めて同組織が男女同権を認めたが、それは否定的な形であった。彼らの理解によれば、女性が関わるべきではない特定の禁忌、特定の状況があったのが、自殺攻撃という一点については、その障壁は越えられたようだ」と述べた。また彼女は、「刑事事件捜査や刑務所の活動に女性要員を導入する」必要性も訴えた。
防衛省顧問ムハンマド・アル=アスカリーは、女性の自殺攻撃という現象を「アル=カーイダがイラク街頭で影響力を失いつつあるため、より宣伝的価値のある女性を起用したがっている」と分析する。アスカリーの発言によれば、「女性が戦い、男性は戦争をサボタージュする」という事につき男性に羞恥を抱かせる狙いもある。
3月1日付米軍発表によれば、アル=カーイダに従う1グループの指揮官を拘束したが、彼は、自身の妻を含む女性達を自殺攻撃用に訓練していた。米軍はこれを、「アル=カーイダが自殺攻撃に引続き女性を使うつもりである事を示す」とみなしている。
女性をリクルート、訓練し、自殺攻撃を実行させるのは男性であるが、カーシム・アター少佐によれば、イラク国軍がそのような男性の責任者数名を拘束したところ、「尋問により、女性の自殺攻撃者のほとんどがアル=カーイダ協力者の親族であった事が判明した」。
また、アター少佐は、「初期の捜査では、女性達は自らが人間爆弾として使われると知らなかったケースもあった事が明らかになっている」として、知的障害者による犯行であった今年初めのスーク・アル=ガザルとバグダード・アル=ジャディーダでの事件を指摘した。しかし、やはり本人の意思による場合が大多数であり、「彼女達は、アッラーのためのジハードを行っているという誤った宗教心、あるいは夫や家族を失ったためかもしれないが、自分がする事を完全に意識している」。
現在まで、男性に比べると女性の自殺攻撃者の割合はまだ低い。2005年以来677件の攻撃があった中で15件、約2%である。アター少佐によれば、「これらは全てアル=カーイダの犯行である」。
この現象は、政府に警察治安組織への女性の登用を迫る結果となり、市場やバス発着所等で女性の身体検査も徹底すべきという動きがあるとして、アター少佐は、「「法の執行」作戦同様、必要性にかられ、女性スタッフの増員を提案している」、「作戦参加人員は、防衛省に属す一部隊の志願兵、あるいは内務省警察部隊に限られるが、これだけの要員では、事前のチェックでテロ活動を阻止するには不十分である」等述べた。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
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