コラム:シリアの原子力疑惑と対イスラエル和平
2008年04月26日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ 標的にされるシリア、戦争か平和か

2008年04月26日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

先週はシリア週間であったと言えよう。まずマナーマで、ライス長官主導により穏健派アラブ枢軸会合があった。穏健派とは、シリアがイラン、ヒズブッラー、ハマースと共に加わっている悪の枢軸側に対する戦争がおきた時には、必ず参戦することになっている国々である。それから、これまたライス臨席によるクウェイトのイラク周辺国会合。こちらにはシリアのワリード・アル=ムアッリム外相も参加していた。そして、レバノン友好国会合に至るまで、シリアは上述出席者らの少なからぬ関心を集めた。

ライスがワシントンへ去った後、重要な進展が二つあった。まずダマスカス側は、トルコのエルドガン首相を通じ、ゴラン高原完全撤退の準備をイスラエルにさせるという成果を得た。次に合衆国であるが、シリアの原子炉とされるもののビデオ映像を公開した。北朝鮮の援助により建設中だったところ、7ヶ月前イスラエルの空爆で破壊されたものである。

バッシャール・アル=アサド大統領自身も含むシリア首脳部は、イスラエルとの和平達成に対する彼らの尽力の程と、和平協定に至るべき諸協議に参加の用意があるという事を熱心に示している。これは、これまで彼らが投影しようとしてきたレジスタンス国家としてのイメージにそぐわない事である。一方アメリカは、シリアがIAEAを欺き秘密裏に核施設を保有しているとの嫌疑をかける事により、シリアの体制はあくどいものだという印象を与えようとしている。

「理解しようとすると、目が回る」というチュニスのことわざがあるが、シリアとその周辺で起きる事を理解しようとするのは至難の業である。シリア人は寡黙で、確かな情報、というのはつまり国家機関がけちけちと漏らしてみせるもの以外、という事だが、それを得るのはジャーナリストにとって困難だ。作為的なプロパガンダだらけの中で、ターゲットに達する事を狙って流布される情報もどきをよくよく吟味しなければならない。アメリカの方は、イラクの大量破壊兵器だのサッダーム・フサインとアル=カーイダの繋がりだので醜聞を振りまき、最早信頼を得られる立場ではない。特に、そういった彼らの嘘のつけを、我々アラブが犠牲をもって、つまり150万のイラクの死者をもって、そしてイラク、いずれは地域全体が、内戦という途方もなく暴力的な血みどろの無秩序へと沈む事をもって支払ってきたからには。


今回のアメリカによるシリア攻撃には、二つの説明が可能である。一つは、北朝鮮に対する圧力を目的としているというもの。同国は、その原子力関連の活動に関しワシントンとの合意にいたるところだったが、そこで、シリアやイランといった国々とより密に協力している事、100キロの濃縮プルトニウムを隠匿していたこと等が明るみに出た。もう一つは、シリア、イラン、レバノンのヒズブッラー、パレスチナのハマースをことごとく叩くべしという方向へアメリカが欧米世論を導こうとしているというもの。ユダヤ国家建国60周年にあたりブッシュ大統領が占領エルサレムを訪問する。その前にイスラエルはガザ掃討作戦を開始すると見られる。その後、彼らは、シリア、イランを挑発し拡大地域戦争に巻き込む事を狙って南レバノンのヒズブッラーを攻撃するかもしれない。もちろんワシントンは同盟国イスラエルを全軍事力をもって支援する。

CIAがイスラエル空爆の詳細を明かしたタイミングは慎重に計算されている。それは、ペトレイヤスの米中央軍司令官任命と時機を同じくしている。中央司令官の管轄は、イラン、湾岸からアラブ全域であり、前任者ウィリアム・ファルン将軍は対イラン戦争に反対していた。そして湾岸で、イランの軍船が米船に仕掛けた小競り合いについてのレポートは益々白熱している。更に他のより本質的理由も考えられる。イスラエルとの和平協定を目指すシリアの努力を挫き、穏健派諸国こそが和平に向け努力しているのだという構図を示す事である。

このように標的にされ、シリアはダメージを受けるだろう。イスラエル戦闘機が陸海の防衛線を破り、何の妨げも無くシリア東北の果てで原子炉とされるものを破壊し写真まで撮っていたとあっては、シリアの面目は立たない。まず自国民の間で、国のイメージがぐらつくだろう。次いで、米イスラエルのプロジェクトに加担する「公式」アラブ諸国体制に立ち向かう最後の砦とシリアをみなしてきた周辺国のアラブ大衆の間で同様の事が起きる。

イスラエルはあの空爆で三つの主目的を達成しようとした。レバノンでの敗北により失った軍の威信を取り戻す事、イランに対し、その核施設を破壊し得るというメッセージを送る事、そして、シリアの周辺を初めとするアラブ諸国と国際社会の反応を試す事である。しかし、これらは全て達成されたわけではない。軍の威信についてはレバノン以来いまだ低迷中で、ガザの抵抗にあい過去三ヶ月間で10名が命を落としている。イランはメッセージを受け取ったかもしれないが、いずれにせよそれは目新しいものではない。唯一成功したのは、シリア近隣のアラブ諸国がどう反応するかを知り得た点であろう。元のシリア同盟国、エジプトとサウジからは何ら反発が無かった。この二ヶ国は、残念ながらイスラエルの立場におもねり、シリアの不幸を喜んでいたとさえ言える。

トルコ方面での成功に楽観的になり、和平協定間近と枕を高くして眠ってしまったところにシリア指導部の過ちがある。ゴランの譲歩と引き換えにイスラエルが要求してくる対価は、シリアには受入れられないものである。もし容れれば、それは毒杯となりシリアの体制を終わらせるだろう。なぜなら、シリア現体制の正当性は、主としてそのレジスタンスの立場により成り立っているからである。このために、イラン、ヒズブッラー、ハマースらと強い同盟を結んでいるのである。イスラエルの要求は、イランとの戦略的同盟を破棄し、ヒズブッラーとの関係は終わらせ、つまりレバノンで有効なカードを全て捨て、パレスチナ問題からは完全に手を引けという事である。

代償が重過ぎる。ゴラン返還については、非武装協定が条件であり、アメリカの監視が入り、イスラエル人はビザなしで往来できるのだという。エジプトとの関係正常化は冷たすぎたとイスラエルは度々苦情を言ってきたが、シリアに対しては熱すぎる関係正常化を求めているらしい。現シリア政権がこれらの条件を飲むだろうか?こういった全てに反対してきたその公式声明を我々はよく承知しているのだが。

問題はそれに留まらない。つまり、アラブ諸国政府は、原子力施設を作る際は、自国の治安を確認し、その施設を防衛し得る能力をもたなくてはならないのだと言われている。さもなければ、非論理的な事に、それらの施設はまだ建設を始めたばかりであっても、イスラエル戦闘機の破壊にさらされるのだそうだ。アラブのイメージは最悪となった。白日の下破壊されたシリアの建造物がある。その前、1981年にはイラクの原子炉、リビアの核及び化学施設はワシントンへすっかり引き渡された。パキスタン原爆の父、アブドゥルカディール・カーンのようにそれに携わった人びとの名簿と共に。北朝鮮、ロシア、中国といった同盟国に対し我々は、信用を保たなくてはならない、このような治安、軍事的侵害に遭い、アメリカの圧力に屈して、同盟国の重荷となるわけにはいかない。

ブッシュ政権は、「公式」レベルでシリアを孤立させるべく、シリアが招聘国となった先のサミットを失敗させようとした。今度は、ディリゾールの原子炉とされるものの攻撃について言い立てることにより、市民レベルでの孤立化を計ろうとしている。戦争の可能性が、和平の可能性を凌駕して余りある。警戒が必要である。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:13671 )