イスラエル建国記念日にブッシュ米大統領が祝辞、パレスチナやアラブ諸国ではナクバ60周年の抗議行動
2008年05月16日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ パレスチナ人は難民の帰還権を堅持…イスラエルはブッシュ米大統領のシオニストぶりを賞賛
■ ナクバ60周年記念日にアラブ諸都市ではデモが展開
■ イスラエル外相は「ナクバ」の語を辞書から抹消するよう要求

2008年05月16日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面

【ラーマッラー、ガザ、ナザレ:本紙記者ワリード・アワド、アシュラフ・アル=ハウル、ザヒール・アンドラウス】

 内部分裂と怒りの状況下、昨日パレスチナ人は抗議行動を行いサイレンを鳴らし、黒い風船を放つなどしてナクバ60周年を記念した。〔※訳注:「ナクバ」はアラビア語で「破局、大災厄」の意味。イスラエル建国とそれにともなうパレスチナ人の追放・離散を指して使われる。〕

 いつもであればパレスチナの団結を示すこうしたナクバの記念行事が、〔今年は〕イスラエルとの和平合意締結に向けて交渉を試みるパレスチナ自治政府と、交渉に反対するイスラーム抵抗運動(ハマース)との内部分裂を際立たせた。

 またアラブ人やムスリムたちがこの日を記念してデモや座り込みを行い、パレスチナ人との連帯を表明した。

 ヌワクショットでは木曜日に数百人のモーリタニア人がデモを行い、「全パレスチナの解放とパレスチナ全土におけるパレスチナ国家建設にイエス」と連呼しながら行進した。行進は首都中心部にあるパレスチナ大使館前から出発し、国連開発計画の本部へ向かった。この行進にはモーリタニア・イスラム共和国の与野党の指導者、学生組織や市民団体のメンバーが多数参加した。デモに参加した若者達は、同胞たるパレスチナ人の悲劇に責任を有するシオニスト国家[※イスラエル]とモーリタニアとの即時外交断絶を要求した。

 カイロでは市中心部で数百人がデモを行った。弁護士組合とジャーナリスト組合の前に集合したデモ参加者達は「パレスチナを解放は神聖な義務」と書かれたプラカードを掲げた。デモ参加者達がイスラエルに反対するシュプレヒコールを繰り返す中、カイロ中心部の市街地には大勢の治安部隊が配備された。

 ヨルダンでは、同国のムスリム同胞団の政治部門であるイスラーム行動戦線党がナクバ60周年にあたって組織した座り込みに数百人が参加し、パレスチナ難民の帰還権は不可侵であると主張した。この座り込みにはイスラーム行動戦線党やムスリム同胞団の指導者らに加え、女性や子供も参加した。参加者達はムスリム同胞団の旗やパレスチナ国旗のほか、「闘いの60年」「帰還権は不可侵の権利、売り渡したりしない」「帰化にノー」「代替国家にノー」と書かれたプラカードを手にしていた。

 またトリポリにあるパレスチナ大使館の前にはリビアで働くパレスチナ人、エジプト人、イラク人、スーダン人、その他の国々の人々が集まり、パレスチナ人との連帯を示した。デモ参加者達はパレスチナ国旗やプラカードを掲げ、大使館前を一杯にした集会での演説に耳を傾けた。

 シリアの首都ダマスカスでもシリア人とパレスチナ人、数十人による大衆デモが見られた。デモ参加者達は「パレスチナのために」「イスエラエルに死を」とシュプレヒコールを上げ、どれだけ時間が経とうともパレスチナ難民には帰還の権利があることを確認した。ダマスカスでは昨日、ナクバ60周年を記念するキャンドル行進も行われた。

 レバノン南部スール周辺の複数の難民キャンプに住むパレスチナの子供達もナクバ60周年を記念する行進を行い、バッス、ブルジュ、ラシーディーヤ、カースィミーヤの各難民キャンプの通りでアメリカとイスラエルに反対するシュプレヒコールを繰り返した。また子供達は潘基文国連事務総長宛てに文書を送り、ガザとヨルダン川西岸でイスラエルがパレスチナの子供達に対して行っている虐殺を止めさせるように国連に求めた。

 イスラーム諸国やヨーロッパ諸国の首都でも、活動家達がこの日を記念する数々の行動を行った。

 昨年6月にハマースが掌握したガザ地区では、およそ1000人の子供達が活動家の制服を着て、武器や迫撃砲をかたどった張り子を身につけた。ヨルダン川西岸地区では、アッバース大統領が和解とイスラエルの入植活動の停止を呼びかけた。アッバース大統領はヨルダン川西岸の都市ラーマッラーで、「我らパレスチナ人のナクバから60年が経過した…“パレスチナ人のナクバ”と名づけられたこの人類の汚点が解消されるべき時が来た」と述べた。アメリカの後援のもとアッバース大統領がイスラエルのエフード・オルメルト首相と行っている和平会談はこれといった進展を見ていない様子だ。アッバース大統領が合意に至るまで話し合いを続けるよう求めた一方で、ハマースはナクバ記念日のメッセージでイスラエルに対する抵抗に加わるよう呼びかけ、交渉という妄想をアッバース大統領は捨て去るべきだと述べた。

 ヨルダン川西岸地区の諸都市ではサイレンが鳴らされ、一部の通りでは往来が2分間完全に停止した。ガザ地区ではイスラエルが海に面した同地域に課している封鎖に抗議して大規模なデモが組織された。イスラエル国境へと行進を進めた数百人のパレスチナの若者に対し、イスラエル警察が銃弾や催涙ガスを放ち、救急隊によると1人の少年が足に銃弾を受けた。またハマース系とファタハ系に分かれて競い合うテレビ各局は、1948年に故郷を離れたり追い出されたりしたパレスチナ人達の映像を放送した。ガザ地区でのハマース、ファタハ間の緊張は今尚激しく、ハマースの治安部隊はジャバリヤ難民キャンプでファタハ支持者がナクバ記念日の行進をするのを禁止した。

 こうした抗議活動によって難民やその子孫の苦境に光が当てられた。450万人の難民がヨルダン川西岸地区やガザ地区、海外におり、その多くが粗末なキャンプで暮らしている。

 ラーマッラーでは両側に旗が掲げられた通りを学童達が行進した。学童達が身につけた黒いシャツには、背中に「1948」、胸に「〔パレスチナは〕売り渡さない」と書かれていた。学童達の中には自分の家族が追い出されたり逃げ出したりしてきた家の錆びた古い鍵を手にしている者もいた。そして1948年5月15日のイスラエル建国から経過した日々の数を示す何千個もの黒い風船が、ヨルダン川西岸地区の上空に放たれた。この黒い風船によってクネセト[※イスラエルの国会にあたる]でイスラエルの建国記念日を祝う演説を行ったジョージ・ブッシュ米大統領がいるエルサレムの上空を暗く覆うことが主催者側の狙いだった。

 ブッシュ大統領は木曜日にクネセトで行った初の演説で、テロ・グループに立ち向かっているイスラエルを支援すると誓った。クネセトに熱烈な拍手で迎えられたブッシュ大統領は、「アメリカはあなたがたの味方となってテロのネットワークを根絶し、過激派からあらゆる隠れ家を奪う」と述べた。さらに、「イスラエル国民は700万人をわずかに上回る人口だが、テロと悪に立ち向かうとき、アメリカが味方であるのだから、その数は3億700万人となる」とも述べた。

 ブッシュ大統領は5日間の中東歴訪の最初にイスラエルを訪問した。和平交渉を推進し、パレスチナ人がナクバを記念している最中にヘブライ国家[※イスラエル]の建国60周年の祝典に参加するためである。イスラエルのテレビは、ジョージ・ブッシュ大統領が木曜日にクネセトで演説で行った時ほどにイスラエルを支持し、味方になった世界の指導者はいなかったと伝えた。ブッシュ大統領は演説を「イスラエル独立おめでとう」とのヘブライ語の文句で始め、クネセトに拍手を送られた。ブッシュ大統領に対してクネセトの議員達が送った拍手の回数は19回、立ち上がって喝采を送ったのは4回だった。彼らはアメリカ大統領の言葉に夢中で拍手を送り続けた。イスラエル指導部の表現によれば、アメリカ大統領はクネセトそのもの以上にシオニストに見えたという。

 元イスラエル外相でリクード党のシルヴァン・シャーローム議員は、ブッシュ大統領のクネセトでの演説により、イスラエルの多くの閣僚よりもブッシュ大統領のほうがシオニストであることが実証された、と述べた。ブッシュ米大統領の演説は数多くの様々な反応を引き起こした。クネセトのアラブ人議員達はブッシュ大統領に対しても演説に対しても憤慨しており、ムハンマド・バラカ議員は「この地域の人々に対する宣戦布告に等しい」との見解を述べ、アフマド・アル=ティービー議員は「ブッシュ大統領は危険な指導者だ」と述べた。

 昨日、イスラエルのツィピ・リブニ外相は、パレスチナ人が「ナクバ」という語を彼らの辞書から削除しない限り、イスラエルとパレスチナの2国共存を目指す考え方に基づく解決は生まれ得ない、と述べた。また野党指導者ベンヤミン・ネタニヤフも、イスラエルは過去の教訓から学び、見返りなしに土地を手放してはならないと要求した。 イディオット・アハロノート紙のインターネット版によれば、リブニ外相は昨日午後エルサレムで行われた会議で演説した際、パレスチナ国家の建設に関し、「我々は紛争の終結を見たいと望んでいる。パレスチナ人が『ナクバ』という語を彼らの辞書から抹消すれば、その日に独立記念日を祝うことができる」と述べた。リブニ外相のこの発言は、同日パレスチナ自治政府がナクバ60周年を記念して行った式典に言及したものである。

Tweet
シェア


現地の新聞はこちら

 同じジャンルの記事を見る


( 翻訳者:森本詩子 )
( 記事ID:13857 )