「信じて、これは私の本当の顔ではないの」:女性の顔に酸をかけた男をめぐる予審、始まる
2008年07月29日付 Jam-e Jam 紙
〔写真左:容疑者 写真右上:被害者の現在の様子 写真右下:被害に遭う前の被害者 出典:7月29日付エッテマーデ・メッリー紙14面〕
〔写真左:容疑者 写真右上:被害者の現在の様子 写真右下:被害に遭う前の被害者 出典:7月29日付エッテマーデ・メッリー紙14面〕

【事件部】大学の同級生の男からのプロポーズを断ったがために、無情にも男によって酸をかけられ、両目の視力を失った若い女性が昨日、刑事検察庁で犯人に対するキサース刑(同害報復刑)を求めた。

 ジャーメ・ジャム紙の報道によると、1383年アーバーン月13日〔2004年11月2日〕16時、「セイエド・ハンダーン」地区周辺の通行人は、若者一名に襲撃されて酸をかけられた、若い女性の助けを求める叫び声を耳にした。通行人らは女性のもとに駆け寄り、彼女を病院に搬送した。

 通報を受けた警察官らは病院に急行した。女性は自らをアーマネ・バフラーミーと名乗り、初動捜査で「職場から出たところでした。以前私に求婚し、お断りしていた大学のクラスメートに襲われ、酸をかけられました」と語った。

司法、特別指令を出す

 事件発生後、本件はテヘラン刑事検察庁予審第6課に送致され、これを受けてゲイサリー予審判事は特別指令を出し、テヘラン刑事警察での捜査が始まった。

 大規模な捜査の結果、ついに逃亡中の容疑者は隠れ家にいるところを発見された。容疑者は警察に連行後、女性に酸をかけたことを素直に認め、次のように供述した。「大学でアーマネのことを知り、結婚を申し込みました。しかし彼女に断られ、復讐を決意しました。酸を入手し、事件当日、アーマネの職場付近で彼女を待ち伏せしました。16時、彼女が会社から出たところを、酸の入った容器を手に襲いかかりました‥‥」。

仮拘束

 供述を受け、予審判事は容疑者の仮拘束を命じ、同容疑者を収監した。

 報道によると、アーマネの肉体的・精神的状態は日を追うごとに悪化し、医師は負傷の程度があまりに大きいため、スペインでの治療が必要だとの判断を下した。そしてこの恐ろしい犯罪から4年、ついにアーマネはスペインから帰国し、両目の視力を失いつつも、昨日刑事検察庁予審第6課に出廷し、容疑者の告訴を申し立てた。

 「私の人生は台無しになりました」

 アーマネは激しい怒りに震えながら、ゲイサリー予審判事に次のように語った。
私は、容疑者の男のことなどまったく知りませんでした。彼に対して好意を持ち、結婚したいなどと思ったことは、まったくありません。一度だけ、彼の母親から連絡を受けたことがありました。彼女の息子は、大学の私のクラスメートだとのことでした。しかし私は当時、その男の名前すら知りませんでした。大学の友人に聞いたところ、男の名前はマジード・Mであることが分かりました。彼と会った時、私は「あなたにはまったく興味がない」とはっきりと言いました。すでに結婚している、と嘘も言いました。ところが男は、「亭主とは別れろ、俺と結婚しろ」などと言ってきました。

数十回もの手術

 アーマネは泣きながら、次のように付け加えた。
事件の日、彼は卑怯にも私を襲い、私の人生を台無しにしました。私は両目の視力を失いました。

ここ数年、私の人生は悪夢でした。国内の医師たちが、治癒の見込みはないとさじを投げたので、私はスペインに行くことにしました。その国で、私はひとりぽっちでした。数十回も、顔や手の手術を受けました。まぶたの治療のために、17回もの手術を受けたのです。両親は私の治療の費用を捻出するために、人生を棄てました。確かに9ヶ月の間、大統領の援助を受けました。しかしその後は、何の支援も受けられませんでした。

キサース

 アーマネは次のように続けた。
私に酸をかけた男は、私から何もかも奪い取りました。私が望むのは、彼がキサース刑(同害報復刑)に処せられることだけです。ここ数年、私は彼を赦そうと努力しました。でも、できませんでした。なぜなら、彼が罰せられることで、人の人生をめちゃくちゃにしても許されるなどと勝手に考えている犯罪者たちへの教訓となると考えるからです。

今、私は過去の記憶とともに生きています。いつも悪夢を見ています。このような状態で、今後どのような運命が私を待ち受けているのか、私にもまだ分かりません。

「私を死刑にしてほしい」

 酸をかけられた被害者の弁論が終わると、次に予審判事は容疑者の男に対して、自らの犯罪行為について弁明するよう促した。

 容疑者マジード・Mは、事件を残念に思うと述べた上で、次のように語った。「特に話すことはありません。後悔しています。私を死刑にしてほしい」。

 弁明後、予審判事は本件に関して有罪認定が行われ、テヘラン州刑事裁判所に起訴状が提出されるまでの間、容疑者の男を再度収監するよう命じた。

予審判事「残念というほかない」

 予審判事は容疑者の男に対してキサース刑を求刑した後〔?〕、ジャーメ・ジャム紙記者の質疑に応じた。

Q:本件の捜査が長引いたのはなぜか?
A:アーマネがスペインの病院に入院しており、医師らによる治療に専念していたからだ。

Q:容疑者に対しては、どのような判断が下されたのか?
A:今日まで仮拘束ということになっていたが、本日最終弁論が行われた後、保釈金5億トマーン〔約5800万円〕での保釈ということになった。

Q:なぜこのような事件が起きてしまったのか?
A:この事件は、近年起きた事件の中でも最も心痛むものの一つだ。残念なことに、容疑者の犯罪行為は、若い女性に極めて過酷な状況を強いている。彼女は両目の視力を失い、顔は完全に焼けただれてしまった。

Q:被害者が求めるキサース刑は、法的観点から見て執行可能か?
A:法は〔イスラーム刑法の〕第283、284、及び285の各条において、酸をかける行為に対する刑罰を定めている。もし容疑者が告訴人の同意を得られないならば、容疑者も〔被害者と同様に〕両目についてキサース刑を受けることになるだろう。
〔訳注:キサース刑は同害報復刑なので、容疑者がキサース刑を受けると、被害者と同様に失明という刑罰を受けることになる〕

Q:事件発生の背景は?
A:私見では、罪を犯した容疑者はプロポーズを断られたことで、悪魔的な思考から復讐だけを考えるようになったのだろう。実際、容疑者は6時間もの間、酸の入った容器を手に、通りでアーマネを待ちかまえていたのである。もし少しでも理性があったならば、このような恐ろしい事件は起きなかっただろう。

Q:何かアドバイスはあるか?
A:私見では、プロポーズを断られたからといって、人生が終わるわけではない。プロポーズの相手が結婚に興味がなければ、たとえムリに結婚したとしても、結婚生活は長続きしない。つまり、われわれは行おうとしている行動がどのような結末をもたらすのか、少しでもいいから考えてみる必要があるのだ‥‥。

その他

 予審には大勢の記者が詰めかけた。被害者のアーマネが自らのつらい体験を話し始めると、記者をはじめとする出席者らは彼女と一緒になってすすり泣きを始めた。その一方で、容疑者は数回にわたり、写真を公表する権利はないと記者らに抗議・脅迫を繰り返した。

 被害者の若い女性が自らのつらい体験を話し始めると、毅然とした態度で事件の審理を行っていた予審判事も、時折目頭を押さえ、記者らに涙を見せまいと懸命に努力する姿が見られた。

 予審を傍聴したアーマネの父親も、娘の口から発せられることばに、驚きを隠せない様子だった。

 また、容疑者の男はアーマネの顔を直視できずに、速やかな退廷を求めていた。

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( 翻訳者:斉藤正道 )
( 記事ID:14538 )