【事件部】復讐から好意を寄せていた若い女性の顔に酸をかけ、その女性を失明させた元求婚者をめぐる裁判が、昨日テヘラン州刑事裁判所第71法廷で行われ、被告人に対し両目へのキサース刑〔同害報復刑〕ならびに被害女性に対するディーヤ〔賠償金〕の支払いを命ずる判決が下された。
ジャーメ・ジャム紙の報告によると、83年アーバーン月12日〔2004年11月2日〕午後、「セイエド・ハンダーン」地区の住民から110番警察緊急センターに、顔に酸をかけられた若い女性がいるとの通報が寄せられた。
通報を受け現場に急行したテヘラン治安捜査官らは、若い女性が酸をかけられ、地元住民によって付近の病院に搬送されたことを知った。捜査官らが病院関係者に聞き取りを行ったところ、被害を受けた若い女性はアーマネという名前で、復讐に燃える求婚者から酸をかけられたことが判明した。
酸をかけた男がマジードという名前であることが分かると、テヘラン州捜査警察は捜索を開始、事件から数日後ついに男は逮捕された。テヘラン捜査局に連行された男は取り調べを受け、酸をかけたことを自供、次のように供述した。「アーマネに好意を寄せていた。彼女と結婚することを決意した。ところがしばらくすると、彼女は私の求婚を断ってきた。私は復讐したいとの気持ちを抑えられなくなり、彼女の目に酸をかけて逃走した」。
復讐に燃える元求婚者の供述を受け、男はテヘラン州刑事検察庁第6課長のゲイサリー予審判事によって、拘置所に収監された。そして被害女性アーマネが両目を失明する中、起訴状の発行とともに、男をめぐる裁判はテヘラン州刑事裁判所に委ねられ、昨日テヘラン州刑事裁判所第71法廷にて被告人出席のもと裁判が行われた。
検察側代表、被告に極刑を求刑
裁判の冒頭、テヘラン州刑事裁判所検察側代表のシャーダービー検事は起訴状を朗読し、マジード被告に対して極刑を求刑した。
アーマネ「被告人の失明が裁判所に対する私の唯一の願い」
その後、テヘラン州刑事裁判所第71法廷のアズィーズ・モハンマディー裁判長は、被害女性アーマネに対して告訴人席に着き、訴えを申し立てるよう求めた。
アーマネは手に白い杖を持ちながら告訴人席に現れ、次のように述べた。
私は検察庁や警察署での取り調べで19回も、事件を起こした男(マジード)に対する酸による両目へのキサース刑〔=同害報復刑、すなわちここでは失明の刑〕を求めてきました。裁判長殿、これで20回目になりますが、事件を起こした犯人を両目へのキサース刑に処して下さいますよう、判事団の皆様にお願いします。
この男は非情にも、私の人生を奪い、私を永遠に家に縛り付け、私の家族を深い悲しみに陥れました。被告人には人間としての感情など一切ありません。もしあったとしたら、私の人生をこのように破滅させるようなことはなかったはずです。
アーマネはさらに次のように続けた。
私はマジード(被告人)と同じ大学に通っていました。私はこの男と結婚するつもりなどありませんでした。信じて下さい、自分に何の興味もない若い女性に、この男がなぜこれほどまでに執着したのか、今でも分からないのです。
ある日、ある女性から私たちの家に電話がありました。マジードの母親と名乗るこの女性は、私に息子の嫁になって欲しいと求婚してきました。私はマジードのことは何も知らないと言って、この母親にお断りしました。
その数日後、大学でマジードに初めて会いました。私は彼に結婚をお断りしました。ところが彼はそれに納得せず、私を脅迫し始めました。そしてついに事件の日、私に酸をかけ、両目を失明させたのです。
この男は私の恋人などではありませんでした。もし恋人だったら、私の人生をめちゃくちゃにするようなことはしなかったはずです。私はこの数年間というもの、多くの辛苦を味わいました。それは、被告人の男が一瞬たりとも耐えることのできないような苦しみです。
私は自分の苦しみを誰かに背負わせたことなどありませんでした。もしそうだったとしたら、私は罰せられるべきでしょう。人生に対する私の権利は、こんなものではなかったはずです。
私はただ、被告人の目が失明することだけを望んでいます。私がこの数年間耐えてきた苦しみと悲しみ全てを、この男も感じて欲しいのです。彼にディーヤ〔賠償金〕は求めません。こんな男と結婚するつもりもありません。ただ彼が罰せられ、今後簡単に若い女性の人生を弄び、その将来を破滅させるような人物が現れることのないよう、他への教訓となることを望んでいるだけです。
私は焼けただれてしまいました。しかし彼が罰せられれば、私の痛みも少しは癒されることでしょう。
彼女は続けて、「私の存在は完璧な暗闇に包まれてしまいました。しかしまだ希望は失っていません。神のことを思いながら、息をしております。もし私がこの被告人を許してしまえば、彼は自由の身になった後、私の命を奪うことでしょう」と訴えた。
告訴人の訴えを聞いた後、判事は被告人のマジードに対して、弁論席にくるよう促した。
酸ふりかけ男の告白
被告人が弁論席に姿を現すと、彼はアーマネの焼けただれた顔を一瞥した上で、次のように述べた。
彼女の顔に酸をかけ、両目の視力を奪ったことは認める。アーマネが悪いんだ。彼女は私の愛、私の将来に目を向けてはくれなかった。だから私は彼女に復讐しようと決意したんだ。
私はエスラームシャフルにある、とあるラジオ・テレビ修理屋で働いていた。アーマネが学んでいた大学で、私は彼女と同じ学科になった。何度か彼女を大学で見かけ、彼女のことが好きなってしまった。彼女と結婚しようと決意した。しかし彼女は私に好意を示してはくれなかった。そして彼女に結婚を断られてしまった。私は電話で彼女を脅迫し、そして彼女を傷つけることを決心した。
私は今でも彼女のことが好きだ。もし彼女にその気があるのなら、彼女と結婚したいと思っている。
アーマネは、「これ以上つきまとわないで。〔他の人と〕結婚するつもりよ」などと私に言ってきた。私の復讐心に火が付いた。彼女の顔に酸をかけてやると決心した。
被告人はさらに続けた。
事件の二日前、実験用具を売っている店に行き、店員に硫酸を注文した。事件当日、硫酸を取りに行くと、店員は硫酸の値段は〔1リットル〕7500トマーン〔約750円〕だと言ってきた。仕方なく400ccだけ買うことにし、3000トマーン〔約300円〕を支払った。そして硫酸を手にアーマネの職場に行き、彼女が出てくるのを待ち伏せした。彼女が職場から出てくると、彼女の後を追い、頃合いを見計らって彼女に声をかけた。彼女が振り返りこちらに来たところを、硫酸の入った容器を彼女の顔に振りかけ、逃走した。
私は自分のやったことを後悔してはいない。
テヘラン州刑事裁判所第71法廷のアズィーズ・モハンマディー裁判長は被告人による最終弁論を聞き終えると、他の2人の裁判官(ラヒーミー判事、ブーミー判事)と協議に入り、昨日被告人に対し、告訴人の希望通り、酸による両目失明、ならびに顔が焼けただれたことによる損害を考慮してディーヤ〔賠償金〕の支払いを命ずる判決を下した。
その他
昨日10時50分、酸ふりかけ事件の裁判がテヘラン州刑事裁判所第71法廷で開かれ、2時間半にわたる審理の結果、被告人に対して両目失明とディーヤの支払いを命ずる判決を下した。
マジード被告が法廷入りすると、カメラマンによるフラッシュが次々とたかれた。被告人はこれに腹を立て、「4年間も俺の写真を撮ってんだ。もう十分だろう?これ以上俺の写真を撮るな。もううんざりだ」と悪態をついた。
アーマネは告訴人席に着き事件を語り始めると、号泣し、裁判に居合わせた人々の涙を誘った。司法関係者らもこれに強く心を動かされた様子だった。
アズィーズ・モハンマディー裁判長はアーマネの訴えを聞き終えると、「37年間司法関係の仕事をしていますが、こんな若い女性が復讐の犠牲になるのを目の当たりにして、これほど心痛み動かされたのは初めてです」と語った。
記者やカメラマンらも、時に頭を垂れて、若い女性の境遇に涙した。
被告人に対して両目失明の判決が下されたとき、被告人はひどく動揺した様子で、陳述用紙にサインをする際、「陳述について読み直したい。サインはその後だ」と繰り返し述べた。また記者は判決について被告人に質問したが、被告人はただ沈黙し、時折アーマネの方をじっと見ていた。
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( 翻訳者:斎藤正道 )
( 記事ID:15222 )