検証:エジプト政府の停戦案はイスラエルへの報奨か
2009年01月08日付 al-Quds al-Arabi 紙
■ エジプト停戦案:ガザ問題の国際化、殺される側の者たちへの休憩、それとも殺す側への報奨?
2009年01月08日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面
【ロンドン:ハーリド・アル=シャーミー】
ハマース代表団にカイロ訪問を呼びかけたことは、パレスチナ問題での主導権を取り戻そうとする試みだったようだ。国連安保理で攻撃停止を求める決議が難産に陥っていたことからも、これによってシリアのバッシャール・アル=アサド大統領言うところの「出たい人だけが出る」アラブサミット開催への扉も開かれるだろう。
こうした地域事情の中、足早で不明瞭だと事情通たちの目には映ったニコラ・サルコジ仏大統領の歴訪を受けて公表されたエジプトによる停戦案は、抵抗運動を屈服させるために全面戦争に打って出たこの12日間の失敗によって、イスラエル軍事体制が陥った危機からの出口のように見える。
現実的な観点からして、イスラエル軍は攻撃再開の前に軍事・諜報面でのいわゆる「充電」を必要としている。停戦案の公式文書では、戦闘上の必要に応じた停戦期間の設定をする自由を事実上、イスラエルに与えている。これは昨日、3時間の砲撃停止を公表した際、実際にイスラエルが提案したことでもある。停戦案はこの点について、以下のように記している。
1. イスラエルとパレスチナ諸勢力は一定期間の即時停戦を受け入れ、ガザ市民に救援物資を届けるための安全回廊を確保できるよう、またエジプトが最終的な全面停戦への到達に向けた働きかけを継続できるようすること。
同様に、中立的な監視員の不在は、パレスチナ抵抗運動側に停戦を破ったとの嫌疑をかけてから攻撃を突然再開するという形で、またしてもイスラエルに「奇襲」という優位を与えてしまう可能性がある。しかし最も危険なのは、いち早く停戦案を歓迎したイスラエルが、それを利用してこれまでのところ軍事では達成できていない勝利を得ようとすることだ。このことは以下の第2項に明らかだ。
2. エジプトはイスラエルとパレスチナの双方に緊急会合を呼びかける。その目的は今回のような事態の激化が繰り返されないための十分な措置や保証に到達し、その原因に対処することにある。その一つは国境の保全であり、それが通行所の再開と封鎖解除を保証するものとなる。またエジプトはパレスチナ側とイスラエル側、EUその他の中東和平四者〔=米・国連・EU・露〕との話し合いに参加する用意がある。
ガザ地区での新たな措置に門戸を開くということは、別の言い方をすれば国際的な人員のプレゼンスを認めるということだ。その活動は通行所業務の管理にとどまらず、「国境の保全」にも及ぶというわけであり、これはガザ地区への国際部隊の展開なしには実現不可能だ。そしてこの点こそ、数ヶ月前にエジプト政府がラーマッラーのパレスチナ自治政府と合意した前回の停戦案の核心部分だったのだが、ハマースはこれを拒否し、昨日もあらためてこの立場の確認をハマースは急いだのだった。
国際部隊の手を借りることは、エジプトのことわざを借りればまさに「一石二鳥」だが、それはあくまでもイスラエルにとってのことだと事情通たちは見ている。例を挙げよう。
・ ハマースによるガザ支配が終焉し、国際部隊が真の統治権を得ることで、ラーマッラーの政権をより肩身の狭くない形でガザに帰還させることができる。
・ 停戦案にイスラエル軍の即時撤退を盛り込むことに失敗したことで、ハマースは占領下に置かれた状態で交渉に入ることを余儀なくされると思われる。つまり治安上、政治上のあらゆる圧力に晒され、ハマースに譲歩を迫る空気が用意される。
・ 武器の流入を防ぐために陸・海の国境監視を強化するということは、抵抗運動の泉を涸らし、完全に清算させることを意味する。これはシャロン元首相のかつての目標であり、イスラエルの行動計画の常にトップを占めていたものだ。そして抵抗運動が消滅すれば、実質的にパレスチナ問題は終焉し、分離壁で分断された「いくつものカントン〔=スイスの行政区分。自治州〕からなるミニ国家」の建設に道が拓かれる。
・ ガザ地区は新たなコソボかソマリアのようになり、その戦いの矛先はイスラエルによる占領ではなく、国際社会全体に向けられるようになる。同様にイスラエルは「自衛」の名の下に再びガザを攻撃する権利を実質的に手放さぬまま、ガザ地区への道義的・法的責任から解放されることになる。
注目すべきは、この提案がエジプトからなされたことだろう。隣国に新たなソマリアあるいはコソボが存在することでもっとも損害を被るのは、エジプトの国家安全保障であろうし、〔ガザの国境保全問題を〕国際化すれば、あらゆる国境侵犯への国際的責任をエジプトが負うことになるばかりか、エジプトの自国国境への主権を侵害することにもなる。
こうしたことはイスラエルにとって、今回の攻撃への最大の報奨となるだろう。今回のような攻撃を二度と繰り返さないことを保証するにふさわしい代償を支払わせる代わりに、報奨を与えるということだ。
エジプト政府はあたかもハマースに二者択一を迫っているようだ。そのどちらもが、抵抗運動としてであれ、事実上の政府としてであれ、ハマースの解消を意味している。そしてこのシナリオはイスラエル紙が報じ、エジプト政府が否定に急いだ、「エジプト政府はこの戦争がハマースの勝利で終ることを望んでいない」との報道と合致する。だがエジプトの停戦案は、ハマースには選択をするような贅沢は許されていないという点を見逃している。ハマースには勝利でこの戦争を終えるか、決してこの戦争を終らせないかのどちらかしかないのだ。
一方、停戦案の第3項はこう記されている。
3. エジプトはパレスチナ自治政府とパレスチナの全勢力に対し、パレスチナ内部の和解を実現するためのエジプトの努力に応じるよう、あらためて呼びかける。これこそが現在の危険な状況下および将来において、パレスチナの民とその大義とが直面しているさまざまな挑戦を乗り越えるために最も求められているのである。
この状況下で国民和解のカードをちらつかせるというのは、イスラエルの砲撃から引き出せる利益は出来る限り引き出そうと、立場を利用する試みにほかならない。インフラを破壊されたハマースに、包囲に苦しむハマース以上の存在であることが期待されている。国民和解を阻害しているのはハマースでなければならない。あたかも国民和解は今のような状況下で呼びかけられる必要があるかのようだ。残された祖国と大義と抵抗運動がすべて消滅の危機にさらされているというこの時に。
過去12日間にわたるガザでの抵抗は、ハマースこそを祖国団結のみならず、アラブ民族の団結とイスラームの団結のカアバ神殿にした。こうした団結に加わりたい者は、カアバ神殿に自ら赴くべきであり、その逆ではない。
高い代償を支払い、パレスチナの内外で血の正統性という最大の正統性を勝ち得た以前に拒絶していたことを、ハマースが受け入れるというのは非現実的だ。
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( 翻訳者:山本薫 )
( 記事ID:15531 )