コラム:スーダン大統領に対する国際刑事法廷の逮捕状について
2009年03月05日付 al-Hayat 紙

■ バシール逮捕状に対するスーダンの選択肢

2009年03月05日付アル・ハヤート紙(イギリス)HPコラム面

【ナディーム・ハースバーニー(ブリュッセル国際危機グループ分析員)】

国際刑事裁判所が人道に対する犯罪並びに戦争犯罪容疑でバシール・スーダン大統領の逮捕状を発行する前、アラブ世界では91%が、この起訴を政治的動機によるものとみなしている旨の世論調査の結果が出た。しかし、そのように見る人々は、ダールフールで犯された凄惨な犯罪の性質について、その動機、犯行手段から犯人の身元に至るまで誤解している。国際法廷検察官の役割は、犯罪者が刑罰を逃れようとするのを阻止すること、犯した罪に対する責任をとらせ、その身柄を拘置しダールフールでこれ以上の犯罪が犯されるのを阻止することである。正義が不在では、ダールフールに恒久的平和は実現されないからだ。

国際刑事法廷が現在、スーダン大統領を逮捕するに足る証拠を有しているとすれば、それは国際社会に負うところが大きい。一方でアラブの国々は6年の長きにわたり、ほとんど何もしてこなかった。アラブ世界からダールフールの住民に送られた人道支援など、国際的救援努力の前では無きに等しい。

アラブ外相の中には、スーダン大統領に対する国際法廷の逮捕状が、現職の国家元首に対する逮捕状発行という危険な先例をつくると言う人々もいる。しかしそれなら、国家元首は人道に対する罪をその国民に対して犯したとしても罰せられないとでもいうのだろうか。もしこれが危険な先例だというなら、国家元首ならば政権にある限り国際法を逃れられるという全く危険な原則が確立される。

国際刑事法廷が偏見をもって本件にあたっているとみなすアラブ首脳達は、ダールフールの暴虐行為の犠牲者達を思い出すべきだろう。2003年から08年の間にダールフールで殺害された民間人は30万、その中にはムスリムもいる。6年間テントや難民キャンプで暮らす避難民は150万、殺戮の合間に暴行に遭った女性の数は数え切れず。刑事法廷のみが、このムスリムたちの権利擁護の立場をとっており、それは、いくつかのアラブ国家指導層では失われているものである。

バシール大統領は容疑を否定し刑事法廷の存在やその決定を認めないとしている。有罪が確定するまで当然彼は無実であり、無罪が確定すれば、彼は大手を振って裁判所を出られる、どころか、彼に対する国際的陰謀が行われたという説を確定できる。

国際法、国際的治安のための制度が、未だ多くの欠点を備えているのは間違いない。しかし国際法廷が戦争犯罪者を正義の名の下に引き出す仕事を始めた。この法廷が、かつての国家元首をムスリム殺戮の咎で裁こうとしたのはこれが始めてではない。過去、ハーグにあるもう一つの国際刑事法廷がセルビアの政治指導者ラドヴァン・カラジッチをボスニアのムスリム数千人殺戮の容疑で逮捕した。特に、1995年のシュレブレニッツァの虐殺について。そこでは子供も含め8千のムスリムの男性が殺戮されたとみられている。

アラブ世界が自らをこの国際司法制度の外に置いているのは問題だ。正義が行われる事は彼ら自身のためになることなのに、その手助けをしようとするこの制度が、まるで彼らを敵視しているかのように振舞っている。これは、合衆国と同じ態度である。合衆国はこの国際刑事裁判所に参与することを拒んでいる。自国民が国外で逮捕起訴されるのを恐れているためだ。刑事法廷は、国際的性質を帯びており、欧米の陰謀の道具などではない。まして、スーダンの体制が我々に信じさせようとしている「帝国主義の手段」などではない。裁判官三名の出自は、それぞれガーナ、ブラジル、ラトビアと三つの大陸にまたがっている。

昨今の事例で知られている通り国際裁判には時間がかかる。ダールフール虐殺を前に6年が無為に過ぎ去ったが、今日、スーダン政府並びにいくつかのアラブ政府は、気づけば限られた選択肢しかないという状況におちいった。

多数の支持を得る「国民会議」党は、代わりの党首をたて、ウマル・アル=バシールを法廷へ引き渡すこともできる。しかし、党とバシールは、ダールフールの和平・安定プロセスを盾に現状維持を決め込む事も可能である。しかし、指導者が辿ろうとするこの道は、その国民に正義と平和をもたらすことはないだろう。このためスーダンにおける危機は深まる。地域全体としても同様である。

「国民会議」党が方針を変えない限り、圧政とそれを罰せられない状況は引続き拡大し、その逆の選択肢を制するだろう。非常事態宣言が発せられる可能性が高い。ダールフールの反体制勢力と共に国内反政府派は抑圧される。逮捕状を利用して政局を変えるのは不可能だと示すために。スーダン民主化プロセスを犠牲にして国民会議党が居座ることになる。スーダンで多くの人が持つだろう反体制的感情を考慮すれば、このような対処は国を揺るがす事になる。和平プロセスを脱線させ、南北和平合意を無に帰す、つまりスーダンを再び恒常的な戦闘状態に戻そうとする党内過激派の動きについては、(スーダン国民統一)政府内での「国民会議」党のパートナーである「スーダン人民解放戦線」(南部政権)が激しく反対する可能性がある。

アラブも含めスーダンの同盟国は、同国の安定に深い関心を有している。彼らもまた、スーダン政権に自制するよう圧力を行使すべきだろう。域内の安定、ナイル水源へのアクセス等に鑑みるとエジプト、そしてスーダン農業、不動産部門に多大な投資をしているという点で湾岸諸国が、「国民会議」党に対し現状を改めるよう説得すべきだ。国際法を非難し続けるのではなく、スーダン政権に実質的変化をもたらすために。

最後に、もし「国民会議」党がバシール政権維持を決めた場合、起訴は今から数年経たないと実現しないだろう。しかし、バシールを長とするスーダンは、孤立とボイコットにさらされる偏屈国家になるだろう。逮捕を恐れるバシールは渡航することもできず、、国内で常に戦々恐々と過ごすだろう。スーダン政権の支持者たち、そして彼自身の党がいつ寝返るかと警戒しつつ。一方、彼の支持者並びに「国民会議」党はバシールが厄介者であることを徐々に知るだろうが、その時には彼と手を切る時機を逸しているだろう。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:15923 )