コラム:中東和平におけるアラブ側の姿勢批判
2009年05月25日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ イスラエル人とイランの恐怖

2009年05月25日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HPコラム面

【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】

イスラエルの世論調査が示すところによれば、イランが核兵器を所有した場合、イスラエル人口の三分の一は国外へ避難するという。アラブの考える「戦略的和平」が逆の結果をもたらしているという一つの指標ではないだろうか。「和平」が、安定と安全、経済繁栄を実現すればするほど、パレスチナへ到来し入植地を拡大するユダヤ移民が増える。彼らは、占領エルサレムにおけるシオニズム計画を支持するユダヤ団体の呼び掛けに応じてやって来る。一方、イランは軍事力を増強し核兵器所有に野心を燃やしている。この状況が、イスラエル人の心中に恐怖を呼び覚まし、カナダ、アメリカ、オーストラリア、欧州などに自分や次世代のための避難所を探そうという気にさせる。もしもイランがパレスチナと国境を接していたら、もしくは、エジプト、ヨルダン、シリア、レバノンのような近隣アラブ諸国が核兵器や長距離高性能ロケット弾を開発したり、パレスチナ抵抗勢力に資金援助や兵力支援をしたとすれば、お先真っ暗だという気分に、イスラエル人はなるのである。

昨日リーバーマン外相は、6月4日停戦ラインには断じて戻らないと表明し、続いてネタニヤフ首相も、統一エルサレムはヘブライ国家の永遠の首都であるゆえに交渉の議題にはならないと断言した。このように挑戦的なイスラエルの立場が、パレスチナを、そしてアラブをして及び腰にさせ、和平を乞う姿勢にさせる。そして残るのは幾つかの選択肢や代替案のみである。「移行期」があるとすれば、まずアラブ和平案を引っ込めるべきだろう。次いで、現イスラエル政府、あるいは、同様の方針であればいかなるイスラエル政府とも、関係を断絶する。欧米の和平使節団には門戸を閉ざす。国際四者委員会に派遣されるトニー・ブレアを門前払いし、アラブ各国の首都においては彼をペルソナ・ノン・グラータとして扱うべきだ。彼は狂信的十字軍であり、ネタニヤフが二国家解決案の代替策として構築している「経済的和平」プランの立案者だ。同プランにおいて彼は、イスラエル入植計画に肩入れしていることを隠そうともしない。また、パレスチナ人には経済的政治的リハビリが必要などという口実で独立国家問題の検討を遅らせようとする。

イスラエルが和平と二国家解決を拒否し入植を続けているというのに、その入植者たちには、安全と安定、気楽な生活が保障されているのはなぜだろうか。権利を侵害されたアラブ人たちが、豊穣な土地、柔らかな風、甘い水、黄金の海辺といった彼らの生活を乱す気づかいはない。すぐ隣でパレスチナ人たち、その土地の歴史的所有者たちが、劣悪な環境で苦難をしのいでいるのだが。

アラブ、特にパレスチナ人が、年間数十億ドルをイスラエル国庫にもたらす観光産業の繁栄を許しているのはなぜか。ガザでは150万が封鎖下で飢え、西岸では300万が、650の検問所の前で屈辱をかみしめているというのに。

不道徳にもイスラエルは、西岸、ガザ、ゴラン高原までもイスラエルの国土とした地図を掲げた観光プロモーションの宣伝をロンドンで行おうとした。シリア大使館の抗議がなかったら、その宣伝は撤去されなかっただろう。

アフマディネジャード氏が、アラブ首脳たちからさしたる抵抗もうけず、パレスチナ問題の「株を奪った」のも然るべき事であった。パレスチナに対するイスラエルの暴虐とパレスチナ人たちの日々の屈辱を白日のもとにさらし、そして、先進的軍事開発にいそしんだ。イスラエル人たちをその政府もろとも、国の内外でおびえさせ、一発の銃弾も放たずに眠れぬ夜をもたらした。懇願する弱者からのオリーブの一枝ではなく、力が、均衡を破り、ネタニヤフ政府とその過激な立場に見られるイスラエルの傲慢をおしとどめ得るということだ。

どこであれイスラム国家における軍事力の成長は、イスラエルの安全、いや彼らの存在そのものに対する脅威となるという事をイスラエルはよく理解している。彼らはイランを恐れている。唯一のイスラム国家であり、援助や借款を求めてワシントンや国際通貨基金とつながっていないイランは、独自の決定で動くことができる。

アラブ諸国は、オバマ大統領がカイロを訪れスピーチを行うのを今や遅しと待っている。そのスピーチでは、イスラム世界との「和解」が提案され、アラブ・イスラエル闘争解決に向けた彼の期待が述べられるという。この和解を喧伝するあまり、占領下にある西岸での入植を凍結するかわりに、全てのイスラム諸国がヘブライ国家と関係を正常化すべきだ、などと先走って言い出す向きもある。なんと見返りの少ない譲歩だろう。この新しい案をメディアで宣伝しているアラブ首脳たちは、イスラム諸国のスポークスパーソンを自任する前に、57カ国のイスラム国家の承認を取り付けたのだろうか。リビア、アルジェリア、スーダン、シリア、レバノン、モーリタニアといったアラブ国家がそれに賛成したのだろうか。イランは、イスラム国ではないというつもりだろうか。

上述のイスラエルの世論調査結果が示すのは、以前のアラブの立場、交渉を拒否し、無償でイスラエルを認めることも拒否するという立場の方が、より有効であった、少なくとも害はなかったという事だ。もしアラブがその立場を固持していれば、特に、国際的孤立を打破しようとするイスラエル政府がアラブと同席することを拒まなかった時ならば、我々はより多くの譲歩を引き出せただろう。独立パレスチナ国家の創設も、公正な和平には譲れない線として保持されただろう。

孤立政策、そして同時に合法的パレスチナ抵抗を支持することは、イスラエルの和平要請運動を強化した。レバノンその他でのイスラエルの戦争に反対する「ピース・ナウ」の呼び掛けに応じた数10万がテルアビブの広場を席巻したのを我々は見ている。一方、イスラエル側の条件の大半を実現する和平が進展するにつれ、米イスラエルの専横な政策への従属的傾向があらわれ、イスラエルの人々を過激な方向へおしやり、二国家解決を拒否し、入植地拡大を公約する政府を選出させた。イスラエルの平和運動は絶滅した。ピース・ナウは、メレツはどこへ行ったのか。労働党の敵はいくつ議席をもっている?

イスラエルがアラブ和平案を拒否するに至り、ムーサ・アラブ連盟事務局長は代替案を検討すると誓約した。彼や他のアラブ首脳たちが、このイスラエルの世論調査結果を見て、和平という白日夢から目を覚ましてくれるとよいのだが。そこには、アラブ・イスラエル闘争という、きわめて単純な事実があるだけだ。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:16527 )