コラム:ガザ戦争に関する国連報告書の行方
2009年09月18日付 al-Quds al-Arabi 紙
■ ガザ虐殺報告書は葬られるだろう
2009年09月18日付クドゥス・アラビー紙(イギリス)HP1面
【アブドゥルバーリー・アトワーン(本紙編集長)】
イスラエル政府は、ガザでの戦争犯罪に関する国連のゴールドシュタイン報告書が安保理やハーグ国際法廷へ到達するのを妨げるため、欧州ならびに合衆国に狂ったような外交攻勢をかけ始めた。イスラエルの政治家、軍人の上層部が法的に糾弾されては困るのだ。我々の考えを裏切らないアラブ政府は、政治的にも外交的にも完全な死に体であり、外交努力をしている節もなく、法律委員会を組織しようともしない。報告書を安保理や国際法廷に到達させようという意思がない。
ラーマッラーのPAでさえ、アッバース大統領は完全な沈黙を守り、この重要な報告書について、組織としても個人としても何らの立場を示そうとしない。報告書は、この種のものとしては珍しく、過去60年間我々が待望していた貴重な成果を上げてくれる可能性があるというのに。「言葉の断食」は、ネタニヤフとリーバーマンを怒らせたくないというPAの意思表示なのか?それとも、ガザ市民の犠牲を出したイスラエルの攻撃に、自分たちも直接間接にかかわり、未だその関係が続いているせいか?
あらゆるニュース、外電をチェックすれば、国連パレスチナ代表が、この報告書についてコメントしているかと思い探したが、期待は裏切られた。安保理に、ガザの抵抗勢力は法の埒外にあるとの決議案を提出するような人物であってみれば、それも不思議はないが。
イスラエルによる虐殺に終止符を打ち、ガザ、カーナー(南レバノンの国連避難施設)、サブラ・シャティーラ(ベイルート郊外の難民キャンプ)の犠牲者たちに正当に報いる、そして将来二度と同じことを繰り返させないようにするために運動することは、全世界で基本的人権を守ろうとしている人々にとって最良の機会である。
イスラエルは、国際調査委員会に対し協力を拒み門戸を閉ざした。国際的に禁じられた白リン爆弾を用い、陸海空から三週間も砲撃を加える以前に、彼らはガザ市民を封鎖により餓死に至らしめた。この孤立した人々に対して犯した罪の大きさをよく承知しているから、そのようなことをするのだ。
報告書は、イスラエル政府と欧米のその同盟者を怒らせた。それは、イスラエルの軍事、政治機関の醜聞を暴いているからだ。彼らはガザの罪なき人々の血に飢え、イスラエル国民は大部分が、この攻撃と、そこで子供や女性に対し情け容赦なく用いられた殺傷兵器を支持した。
イスラエル政府は、調査委員長のゴールドシュタイン判事に対し、偏向している、あるいは主題から外れているといった言いがかりをつけることはできない。また、テロリズムに対しては、彼らがイスラエルの人種主義、流血を好むナチズムを批判する度に、伝家の宝刀「反セム主義(ユダヤ人差別)」を抜く事ができるのだが、同判事に対してそれは不可能である。この人物は、シオニストのユダヤ人、イスラエルの親しい友人である。その娘はテルアビブ在住と言われる。そのため彼は、報告書を最大限婉曲にまとめたはずだ。
報告書の意義については語るまい。我々皆が、ガザ虐殺の醜聞を承知している。戦車砲や爆撃で数家族がけし飛び、子供の遺体が炭化しているのをテレビ画面で見ているのだ。しかし我々は知りたい。文明的欧米は、これをどうするのか。国際法廷オカンボ判事は、バシール・スーダン大統領、ミロソビッチ、カラディッチ等のボスニアの戦争犯罪者に対するのと同様の態度で、オルメルト、バラク、リブニ、ペレス、アシュケナジ将軍に対峙するだろうか?
より重要な問いとして、欧米が歩調を合わせることが予測されるイスラエルの外交攻勢に、アラブ各国政府はどう対応するのか?攻勢は、メディアで、各国際機関で、そしてハーグ法廷でも行われるのだが。
この報告書に対する米国の冷淡さを遺憾に思う。より残念なのは、仏報道官が報告書の有効性に疑問を呈していること、そして恥ずべき英国の沈黙である。
ガザの国連事務局が砲撃された時、事務総長は調査委員会を組織し報告書を作成した。2年前、イスラエル軍がベイト・ハーヌーンでひと家族全員を殺害した事件について、デズモンド・ツツ大司教の委員会が報告書を提出した。我々は、今回の報告書も、それらと同様の運命に陥るのではないかと懸念している。
アラブ政府は沈黙し、PAは、入植凍結ばかりを訴え、ガザで未だ封鎖されている150万については何らの動きも見せない。となれば、過去イスラエルが、あらゆる報告書、全ての国際報告書に対してしてきたように、今回の報告書も葬り去ろうとする、それが成功しないはずはないだろう。
トロント映画祭で、イスラエルとテルアビブ市の宣伝がボイコットされた。英国労働組合は、イスラエル商品ボイコットを計画している。英国の大学教員たちは、人種主義的政府に協力したとしてイスラエルの同僚と付き合おうとしない。一方、ネタニヤフは偉大なるカイロで要人としての待遇を受け、カイロのイスラエル大使は、文化とメディアの殿堂「アル=アハラーム」社で華美なレセプションに呼ばれている。
パキスタンのムシャラフ大統領は、イスラエルと国交を正常化し大使交換をするよう、アラブ諸国と米国から強い圧力を受けた。しかし彼はこの圧力に抗した。イスラエルとの国交に自分が反対だったわけではなく、自国民を恐れていたからである。とあるアラブ首脳がムシャラフ大統領にこの件を促した際、彼は、そうすればパキスタン国民に殺される、と述べたという。
パキスタンの人々がアラブ諸国民より一層愛国的だと言いたいわけではない。しかし、活力ある人々の方が、イスラーム的価値観とその倫理の最低ラインを守っているとは言える。彼らは、信仰上同胞たる人々を殺戮し、神聖な場所を占領している国家の代表者を見ることをきっぱり拒んでいる。
貧困と飢餓、識字率の低さにも関わらず、米占領に抵抗し、その場を第二のベトナムとしているのは、アフガンの人々である。イラク国民も同様に抵抗を続けている。ところがわがラーマッラーのPAときたら、イスラエル占領の忠実な番兵と化している。侮辱の他は何も、対価として受け取ることなく。
ゴールドシュタイン報告書を葬り去ろうとするイスラエルの攻勢は、ほぼ成功するだろう。報告書に対する反証が強力だからというわけではない。アラブ諸国政府が、その攻勢に同調し、ガザとそこでの殉教者たちには何らの注意を払わないから、成功するのだ。ガザを訪れたカーター元米大統領は、そこの住民が封鎖下で動物同様に扱われていると発言した。それと同じことを言うアラブ首脳が一人でもいるだろうか。ためらいなく、口ごもることもなく、この言葉を述べるアラブ元首が現れれば、その時はイスラエル攻勢が敗れると確信できるのだが。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:17477 )