テヘラン検事長「名誉殺人に対する罰則を強化すべき」
2009年10月28日付 Iran 紙
【事件部】テヘラン一般革命検察のアッバース・ジャアファリー=ドウラトアーバーディー検事長は、イスラーム刑法第630条の改正を図り、名誉殺人の加害者に対する罰則を強化するべきとの見解を示した。
イラン国営通信の報道によると、ジャアファリー=ドウラトアーバーディー検事長は昨日、暴力犯罪被害者支援機構で開かれた第5回「暴力犯罪を減らすための法的措置を考える会」の席上でこのように述べ、さらに次のように語った。
我が国で起きる名誉殺人をなくす、ないしはその件数を減らすための対策は、本質的に法的なものではない。この問題の根元には、むしろ文化・教育上の問題があるからだ。とはいえ、司法機関には法律の改正という仕事を行うことも可能だ。司法機関にはこの問題についてなんら打つべき手はない、などと開き直ることはできない。
ウラマーたちには、問題解決に向けた議論に参加してもらうことが必要だ。プレスやメディアにも世論を煽ることなく、議論に関わっていただくことが重要だろう。社会学者や心理学者にも、この問題で重要な役割を果たしてもらいたいと考えている。
同検事長は、名誉殺人を撲滅するための文化・教育分野での投資が必要だと強調した上で、この種の殺人を犯した加害者に対する厳罰化の必要性を訴え、次のように述べた。
〔犯罪加害者にキサース刑を求めない〕遺族の同意があっても、もし判事に非常な勇気があれば、加害者に対して最大で禁固10年の刑罰を科すことが可能だ。もちろん忘れてはならないのは、名誉殺人はイラン特有の現象ではなく、インドやドイツ、トルコでも見られる問題だということである。
同検事長はさらに、次のように続ける。
ときに、「名誉に関わる動機」についてのイスラーム刑法第630条の規定が、犯罪を正当化する要素の一つとして使われており、〔名誉殺人をなくすためには〕この条項の削除ないしは改正が必要だ。故意による殺人に対する基本的な刑罰であるキサース刑〔同害報復刑〕が、何らかの理由で行われない場合には、それとは別にタアズィール刑〔矯正を目的とした裁判官による裁量刑〕が言い渡されることになるが、その際、性的問題が原因の殺人には〔タアズィール刑による〕刑罰を厳しくすることも視野に入れるべきだろう。
〔訳注:イスラーム刑法第630条は次のように規定している。「自らの妻が他人の男と姦通しているところを目撃し、妻が〔不義密通を積極的に〕受け容れていたことが分かった場合には、夫はその時点で彼らを殺害することができる。妻が〔姦通を〕強制されていた場合は、夫は男の方だけを殺害することができる。〔‥‥〕」。名誉殺人を是認するこのような条項が適用された具体例としては、
こちらの記事を参照のこと。ただし、このような条項が適用されないことも多い。そうした例については、
こちらの記事を参照のこと〕
ジャアファリー=ドウラトアーバーディー検事長は、名誉殺人、精神錯乱が原因の殺人、配偶者殺人などの各種殺人事件について、「殺人は最も重大な暴力犯罪にカテゴライズされる。それは憎むべき犯罪であると同時に、社会と家族制度を傷つけるものでもある」と述べた。
テヘラン検事長に就任する前はフーゼスターン州司法総局長を3年間務めていたジャアファリー=ドウラトアーバーディー氏は、その上で次のように付け加えた。
名誉殺人はいくつかの州で問題となっている。この種の殺人は、これといった証拠もないままに〔不義を〕疑うことが原因で起こる。こうした社会では、男の側が姉妹、妻、娘、その他の近親者に対して疑いを抱くと、そのことだけで殺人の十分な動機となってしまい、証拠や証明が必要だとは思わない傾向にある。
同検事長はさらに、次のように続ける。
名誉殺人では、その他の殺人とは異なり、加害者は誇らしげに殺人を認める傾向にある。遺族の側も、加害者の訴追を求めないことが多い。通常、遺族は数ヶ月も経たずに、〔キサース刑を求めないことに〕同意してしまう。
テヘラン検事長は、名誉殺人では加害者は自らの行為が正当だと考えていることが多いと強調した上で、次のように語った。
残念なことに、名誉殺人についてはわれわれ司法の側も取り扱いがバラバラで、ときに裁判官の考え方次第で矛盾した判決が下されてしまう。〔裁判での〕審理ですったもんだがあった末に、加害者が釈放されてしまうケースや、恩赦委員会で恩赦が決定されるケースも多い。
同検事長はさらに、次のように回想する。
私がフーゼスターンで勤務していたときには、名誉殺人の加害者に対して恩赦を認めたことは一度もなかった。しかし残念なことに、〔名誉殺人を是認する〕文化や考え方が存在していたことも事実だ。判事自ら電話をかけてきて、加害者の恩赦を求めたことも一度ならずあった。
ジャアファリー=ドウラトアーバーディー検事長は、その上で「この種の殺人は、〔社会の〕考え方にその根っこがある。加害者は自らの行動によって、社会から罪を滅ぼしたと考えている。〔女性を自らの所有物であるかのように考える〕女性に対するこうした文化が変わらない限り、名誉殺人はなくならない」と明言した。
同検事長は、名誉殺人への対策において警察や司法機関は無力であることを認め、「われわれが無力なのは、名誉殺人の原因が文化の問題に帰着するからである」と指摘、さらに名誉殺人撲滅のための文化・教育分野への投資が必要だと強調して、「〔悪しき〕伝統が跋扈するところでは、この種の犯罪も多い」と語った。
テヘラン一般革命検察検事長は、「われわれは、宗教統治体制において性的問題に起因する殺人が起こらぬよう、その減少に取り組んでいる」とも述べた。
同検事長はまた、過去3年間にテヘランで発生した殺人件数について、次のように語った。
1385年〔西暦2006/7年〕には202件の殺人が発生し、そのうち女性の被害者は56人だった。1386年〔西暦2007/8年〕には149件の殺人が発生し、女性の被害者は35人、1387年〔西暦2007/8年〕には103件の殺人が発生し、女性の被害者は46人だった。また1388年上半期〔西暦2009年3月下旬〜9月下旬〕では、103件の殺人が発生し、女性の被害者は28人だった。合計すると、過去3年間で627件の殺人が発生し、男性の被害者は462人(74%)、女性の被害者は165人(26%)だったことになる。
〔訳注:1385年から1387年の3年間を合計すると、454件の殺人が発生し、1388年上半期を足しても557件であることから、上記の数字には何らかの誤りがあるものと思われる(1387年の件数が特に低いことから、103件ではなく173件の誤りである可能性が高い)。なお、女性の被害者数は1385年から1388年上半期までの3.5年分の合計と一致する。なお、平成10年から14年までの東京都で発生した殺人事件の平均認知件数は140.4件〕
性的問題に起因する殺人事件について語ってきたテヘラン検事長は、次に夫による配偶者殺人について、次のように述べた。
被害女性たちに、この種の殺人発生に責任がなかったわけではない。というのも通常、この種の殺人は、平和的に不和を解消する方法を〔積極的に〕探る努力をしてこなかった家庭で起きているからだ。この種の殺人では、男の側に極端な男性中心主義が見られ、不義が殺人の原因となっている。また、名誉殺人と異なるのは、加害者は妻の不義に対して不審を抱いているのではなく、それを確信しているところである。
同検事長は、麻薬中毒やアルコール中毒も配偶者殺しの原因となっているとし、「この種の殺人では、男性が妻に、『自分は麻薬中毒・アルコール中毒になっているので、お前も不道徳な行為に身を落とせ』という具合に運命の共有を求め、妻がこれに抵抗すると殺してしまう、というパターンが見られる」と述べた。
ジャアファリー=ドウラトアーバーディー検事長は、男の側の瞬間的・突発的な怒りも配偶者殺しの原因となっているとし、さらに経済的な問題も影響していることを指摘した上で、「この問題は正当化できるものではない」と語った。
〔※経済問題によって殺人を「正当化することはできない」という意味か、それとも現在の経済状況が国にとって「申し開きのできない状況だ」という意味か、どちらであるかは不明〕
同検事長は精神的錯乱が原因で起きる殺人についても、「こうしたケースでは、加害者は女性への嫌悪といった精神的錯乱が原因で、殺人を犯してしまう」と述べた。
同検事長は、一部の法律の改正の必要性を強調しつつも、同時に性的問題に起因する殺人を減らすためには文化・教育への投資が重要だと訴えた。
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( 翻訳者:斉藤正道 )
( 記事ID:17761 )