シリアの短編作家にカイロの新文学賞
2009年11月05日付 al-Hayat 紙

■ カイロ、シリア人作家ザカリヤ・ターミルにパイオニア賞

2009年11月05日付アル・ハヤート紙(イギリス)HP1面

【カイロ:アブド・ワージン】

昨日、シリアの短編作家ザカリヤ・ターミルに授与された「第1回アラブ短編小説のためのカイロ会合」賞は、78になるこの作家にとり非常に重要なものであった。既に数々の賞を得ているターミルであるが、今回は、ユースフ・イドリース以降、アラブ短編小説に新境地を切り開いた功績を讃えられての受賞である。カイロで会合が行われていた間にこの授賞が公表されたことにより、全アラブがその功績を認めたことになる。会合には、多数のアラブ文芸評論家、作家らが参加し、新たなアラブ短編小説とは何か、その問題設定、そこに起こった危機や変転について議論したうえで定義を与えていたからである。

ザカリヤ・ターミルの受賞は予測されていおり、批評家ジャービル・ウスフールが率いた委員会による投票は全票一致でそれに賛成した。この先駆的作家は、他の文学形式に逸れることなく短編を書き続けてきた。その大胆さや技巧をもって彼が突入するただ一つの戦場が、短編小説という形式だった。濃密さと詩情にあふれた言葉により先例のない作品世界を創り出し、斬新かつ親しみ深いキャラクターを登場させた。そして、自身がその犠牲者でもあった過酷な現実と、登場人物やストーリーに魔術的印象を与えるファンタジーの世界を統合してみせた。

彼は、ダマスカスの貧しい地区の子供たちの多くと同様、学校へ行けず、13の時から数年間鋳物職人の仕事をした。作家という「職業」へ転職するとたちまち短編や社説の書き手として評価され、数々の雑誌に寄稿し、シリア文化省発行の著名誌「文学的立場」では編集長を務めた。

最初の短編集『白馬のいななき』が1960年に発行されると、批評家、作家そして読者の注目を集め、それ以来、アラブ短編小説において名が知られるようになった。同ジャンルの先駆者としては、ユースフ・イドリース、ナギーブ・マフフーズ、タウフィーク・ユースフ・アウワード、ユースフ・アッシャールーニーらが数えられる。簡潔でありながら深く、象徴性をもちつつ平明な彼の言葉は、現代詩のもつ特質に近いものがある。実際彼は、ジャーナル『詩』が門戸を開いた数少ない作家のひとりである。彼の語り部としての特質が、独特の基準を有するこのジャンルで新たな地平を切り開くとみなされたのである。ザカリヤ・ターミルは、短編分野での最新の革命ともいえる。長年支配的であったリアリズムの潮流を超えて、言語、スタイル、ナレーション、ナラティブいずれの面でも短編小説を物語としての試みに満ちたものにした。そして、生まれ育ったダマスカスの一地区に発する短編で彼は完全な成功をおさめた。登場人物、その物語、時には哀調を帯びた奇譚、それらは全てその地区から得られたものである。それらの物語が地元の人々を離れ、読者に語りかけるようにするため彼は、ちょっとした魔術的色彩を加えている。癒えない傷に発するペーソス、苦々しい諧謔、幻想的な雰囲気を巧みに描き、現実はしばしば物語、不思議譚となりそのストーリーは幻想の影絵芝居のようになる。「一撃」というストーリーでは、誕生前の胎児と母親が対話する。この胎児は、どのような人生が待っているのかも知らぬうちから誕生を拒否している。「警官たち」では、「主人公」はコートかけになったかと思うとカラスに、そしてナイフ、壁へと変転する。その妻は、玉座になり次に木となる。有名な「10番目の日の豹たち」では、檻が街に豹はそこの市民となる。

奇異と幻想、諧謔に満ちたターミルの作品は、暗い世界観、絶望を隠さない。登場人物は常に犠牲者である。彼らは、悪運の犠牲者、仮面で顔を隠した「処刑者たち」の犠牲となるのである。

開拓者ターミルのスタイルは、黒い記憶と白い夢想、幻想と現実のはざまで揺れる「不可能の領域」に属する。ターミルの作品集は、子供向けの3編を加えても10に満たない。にもかかわらず、アラブ短編小説というジャンルで新境地を築いたのである。鋳物職人としてのそれも含めた豊かな経験、精緻な感覚、世界文学の教養などがその礎となっている。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:17814 )