■ ネタニヤフとのダンス
2009年11月23日付アル・ハヤート紙(イギリス)HPコラム面
【ガッサーン・シャルビル】
ネタニヤフはバラク・オバマとの消耗戦に突入した。和平構想について同意し合う前に、彼をねじ伏せようとしている。そのゲームは非常に危険であり、十億のムスリムの感情を逆なでする。ムバーラク大統領はシモン・ペレスにこのように言った。それはつまり、和平を壊滅させることであり、同盟国との軋轢からイスラエルを孤立状態に落とすことであると、こちらは、クリントン元米大統領からの警告である。ネタニヤフは盲目の戦士のように振る舞い、地域情勢も国際情勢も読もうとしない。
イスラエルに対し弱い所を見せれば、オバマは中東で強者足り得ない。パレスチナ人の人権に対する彼の立場が納得いくものでなければ、アラブ・イスラム世界を納得させることはできない。ネタニヤフと取引している様子を見せれば、アフマディネジャードに対し分別ある対応をしているとは言えない。この地域では、年を経た闘争にあえて挑戦することなくして、クーデターの芽を摘むことはできない。ヘブライ国家に対する言葉づかいを変えることなしに、中東における米国のイメージを修正することはできない。
国際舞台へのオバマの登場は、確かに効果的であった。ホワイトハウス史上最多得票での当選、その肌の色、出自、親族内で様々な文化や宗教が交錯していることなども異色である。人々に対応する際の彼の優れた能力、信頼を得る力を忘れてはならない。しかし、猶予期間は終了し実現の時が来た。成果があがらなければ、ベルリン、イスタンブール、カイロでの大演説で得られた貯金が失われていく。
彼を幸運な人間だと考えるのは難しい。ジョージ・ブッシュによる政策が残した壊滅的損害は、復旧に数年を要する。同時にそれは、困難で痛みを伴う決定も要する。イスラエル戦線において、彼の悪運は明らかであった。ネタニヤフ・リーバーマン政府は、域内に絶望を広めるのには理想的な組合せである。軋轢、対立、タカ派的理論の横行などが絶望を意味し、安定を脅かす政策に絶好の機会を与える。
中東でオバマが実現すべき事は主に三つある。宣言通りイラクから撤退すること、イランの核問題に対応すること、そして、ネタニヤフ政府の入植熱のため停止しているパレスチナ・イスラエル交渉に対処することである。
数ヶ月前から、ネタニヤフは、二国家解決を後押ししようとするオバマの力に対する消耗戦を挑んできた。イスラエル首相を焦らせているのは、二国家構想のみではなく、パレスチナ・イスラエルの和平がイラン核問題解決には不可欠であるとの感覚が、欧米で高まっていることである。イランの手からパレスチナ・カードを取り上げ、シリアへはゴラン返還に向け門戸を開放する、この二点が、域内でのイラン攻撃を阻止する手立てであると、これら欧米諸国は考えている。しかし、ネタニヤフは全く逆のことをしている。「イランの脅威」に対抗することが域内における最優先事項であると見せかけ、同時に、「ハマース」と「ヒズブッラー」は単にイランの手先であるという考え方を植え付けようとしている。
また、ネタニヤフの最優先事項には、パレスチナ国家が樹立される前にそれを葬り去るための入植闘争がある。これによって、マフムード・アッバースを絶望に追いやり撤退させる。そうすればイスラエルは、和平を共に追求すべきパレスチナというパートナーがいなくなったとの口実を得られる。並行して、シリアと間接交渉を行うためのトルコ・チャンネルをネタニヤフはオフにする。これらの措置の総計により、オバマは、中東で自国のイメージを改善することができなくなり、各種抱負の実現も不可能となる。そして、イラン核問題への対処という任務だけが残される。
ネタニヤフは、盲目の戦士のように振る舞っている。和平の精神から程遠い場所へパレスチナ人を追いやり、極限にまで緊張した対立状態へと戻す。元から緊張している域内情勢という炎に、あえて油を注いでいる。入植規模拡大によりパレスチナ人の感情を害することの危険性を、オバマが声を大にして呼び掛けたのはこのためである。
ネタニヤフとダンスを続ける難しさをオバマは理解している。彼のプランは、前者による壊滅的措置とは全く相いれない。ネタニヤフの政策は地域にとって危険であり、それがイスラエルに安全をもたらすことはないだろう。これが、オバマ発言の真意である。
ネタニヤフは、パキスタン、アフガニスタンで悪化する情勢に沈みゆくオバマの腕をひねり上げるようなことをしようとしている。試みはたやすいものではない。盲人による選択の危険性を理解するユダヤ諸派を頼みとして、また、援助カードをちらつかせて、ネタニヤフ・リーバーマンの同盟ラインを断つ以外に、オバマに選択肢はない。
ネタニヤフが無理強いしようとするダンスの続行は、オバマ登場時の希望を打ち砕くものであり、それは狼たちとのダンスにも似た危険をはらんでいる。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:17930 )