■ 自爆攻撃者の工場
2010年01月11日付アル・ハヤート紙(イギリス)HPコラム面
【ガッサーン・シャルベル】
どこかのアラブの国で自爆攻撃者が実行した作戦は、自分に何のかかわりもないと思っているアラブ人がいたら、それは間違いである。自分の国ではそれが起きない保証があるというのも誤った考えである。自爆攻撃者の波と共存する、あるいは彼らを遠ざけるための魔法はない。
他のアラブ諸国と協力せず、自国のセキュリティの力だけでこの現象を食い止められると考えるアラブ国家も誤っている。遠方の国々とも情報交換を行わなくてはならない。中東地域と世界を襲っているこの恐るべき混沌を一国だけで乗り切れるというのは妄想である。
世界は新たなタイプの戦争に直面しているのだという事実を見据えなくてはならない。9/11攻撃が、これまでとは異なる新たな段階の開始を告げた。新しい脅威は、東西両陣営の時代にあったものとは性質を異にする。あの当時テロと呼ばれていたものとも異なる。
パレスチナ人指揮官ワディーウ・ハッダードがハイジャックを計画した時、作戦中は流血を避けるというのが第一の考え方であった。暴力とその演出という点で度を過ぎたと言われるサブリ・アル=バンナー(アブー・ニダール)でさえ、テレビカメラの前で斬首するようなことはしなかった。カルロスも、やむを得ないとの判断がなければ本気で発砲することはなかった。
今は話が違う。各地を巡る戦闘員らが用いる辞書では、用語も理由付も以前とは異なっている。彼らは国境と名のつくものを認めず、彼らのプランは国境を越える。彼らの法が法律であり、他の法律には注意を払わない。彼らの法廷が唯一であり、そこでの判決は上訴を認められない。彼らのみが真実を完ぺきに把握しており、説明も質疑応答も異なる解釈も受け付けられない。
他のいかなる時にもまして世界は、終結を見越せない、停戦もままならない戦争に捕らわれているかのように見える。敵方は住所を有さない戦争である。どこかの洞窟に籠城する男、都市の一角に潜む若者、あるいは偽造パスポートと偽名を用い、警官が近付いたら自爆する覚悟の旅行者。
凶暴で、血塗られた恐るべき世界である。安全地帯の指標がなくなってしまった。戦場は大陸を越え広がっている。不意の出来事は、陸上で、海上で、上空で起こり得る。ナイジェリア人の若者が唯一の超大国を狼狽させるのは簡単なことではない。にもかかわらず彼は、ホワイトハウスの人間にセキュリティ不備の責任を取らせ、各国が旅客の安全保障に巨額の資金を費やすよう仕向け、不安や疑念に満ちた息苦しい神経質な手続きを取らせる原因を作った。
前例のない状況である。アフガニスタンで自爆攻撃が起きると、パキスタンではまた別の、続いてダゲスタン、イラク、イエメン、ソマリアで次々と自爆攻撃が起きる。旅客が自分の乗った飛行機を爆破しようとし、情報機関はネット上のスターである過激派イマームと彼との関係を捜査する。こういったことが一日で起き得る。自爆攻撃者は警察のパトロールを爆破する。あるいは観光バスを、結婚式を、葬式を、他宗派の礼拝所を標的とする。
新たな果てしない戦争に世界が陥ったことは明らかである。これについて判断したり研究したりするための先例がない。自爆攻撃者の工場は生産を続けている。マドラサで、モスクで、あるいは衛星放送やネットを通じて、過激思想が怒れる若者たちを取り込んでいる。
この嵐が欧米のみを標的としていると考えるのは誤りである。これは、最終的にはアラブ・イスラーム世界の変革を目指している。アラブ世界はこの嵐の中心にいるのである。イエメンでのいくつかの事件が、この事実を思い起こさせる。中央政府の権限が縮小する度、その場に「アル=カーイダ」が進出し訓練所を開く。それはつまり自爆攻撃者を製造し送り出す工場である。
恐らく我々はまだ、この長い戦争の端緒にいる。このためアラブ諸国はよく注意を払うべきである。何よりもまず国内安定を最優先とすることが求められる。安定していれば、その現象についての因果関係を理解することも可能である。経済開発だけではなく、宗教、思想、文化、メディア、治安、全ての面で立ち向かう事が必要とされる。第一の目標は、自爆攻撃者工場の誘惑から若者と社会を守ることである。全方位での対決に遅れをとれば、安定を揺るがす脅威は倍増し、アラブ社会は宗派戦争の中に沈むだろう。そして更なる失敗国家が生み出される。アラブ諸国間の真の協力関係が唯一の選択肢となる。一国家の命運は他と不可分なのである。
安定を最優先とすることは、硬直化を意味しない。安定を擁護することは、参加の場を広げ発展を促し、ひいては過激思想、閉鎖主義、他を敵視する偏見などと戦う原則を作ることとなる。安定なくしては、我々の未来は爆発物と棺桶の間にのみ広がり、我々の土地には自爆攻撃者の工場のみが栄えるという事になるだろう。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:18235 )