■4人の観察者
2010年03月08日付アル・ハヤート紙(イギリス)HPコラム面
【ガッサーン・シャルビル】
何という醜聞。恐るべき、恥ずべき光景。暗殺作戦の新段階。今回はイラク自身の手によって。この混乱はどうしたことか?行列にスローガンに公約。世界が中継を楽しむ。微笑と沈思黙考。解説者たちはしゃべりまくる。リストとターバン、宗教主義者と世俗主義者、そして共産主義者との競争について。地域的、部族的、政党的な同盟関係について、自治区との関係について。
このスキャンダルは何だ?彼らはどこからこんな歪曲辞典を持ってきたのか。複数政党制、清潔な選挙、外国人の監視委員、州制度の終了、平和的政権移譲に憲法遵守、市民社会の役割。奇妙な習慣、奇妙な言葉。これは私の愛するイラクではない。私とその国には何ら似通ったところもない。
投票箱は普通人しか生み出さないだろう。例外的指導者というのはそんな所からではなく、歴史から直接、自分の権力をもぎ取るものだ。このメディアのカオスは何だ?新聞をジャーナリストの妄想に明け渡すわけにはいかない。何が信頼すべき国民新聞の活動なのかはっきりしない。情報機関の中央厨房で、または情報省にあるその支局で書かれるような新聞もあれば、一本のペンだけで一人の読者を満足させるためだけに書かれるような新聞もある。
イラクの新指導者たちか。彼は嘲笑し、その目に悪意を燃やすだろう。亡命地にすっかり落ち着いていた奴らだ。テレビを見ればイラク人たちがにこにこと投票している。以前はボイコットした州の住民たちが、今度は民主主義を好きになったのか。ゲームは終り、新段階というわけだ。「ケミカル・アリー」を呼んでみる。応えはない。目を閉じると思いだした。そうだ、奴らは彼を殺したんじゃなかったか。忘れていた。奴らは私を殺したのだ。サッダーム・フサインは再び眠りに着く。
遠く離れた農場で、彼はテレビを見て歩きまわる。彼らは投票しているぞ。誰も連絡してこない。ファックスもメールも来ない。もしあの決議を採択しなかったなら、事は違っていただろう。それはアメリカに数千の死傷者と8千億ドルを費やさせた。それがなければジャラール・タラバーニーは反体制派にとどまり大統領ではなかった。マスウード・バルザーニーは不安のあまり常に山へ登る構えのまま。ヌーリ・アル=マーリキーはダマスカスに、アル=ハキーム一族はテヘランに、イヤード・アッラーウィーはロンドンにいただろう。アフマド・チャラビーは金勘定に没頭していた。チャラビーといえば思いだす。ワシントンの路上に数年いた。それから舞台裏に忍び込み、アドバイスしてみたり扇動してみたり取りまとめてみたり。サッダーム・フサイン体制を倒した時、彼の数々の過ちが始まった。簡単な料理に不満だった彼をペルシャの厨房が魅了し、そして彼は虐殺にいそしむようになった。イラクへの旅はジョージ・ブッシュを追い落とした。彼はもう一度テレビ画面を見てつぶやく。歴史は細部を忘れるかもしれない。だが、私がイラクへ民主主義をもたらしたことだけは忘れないだろう。
遠く離れた洞窟の中で、彼は報告を受け取り、怒りと苦々しさを味わう。イラクのスンニー派は「アル=カーイダ」を裏切った。一度は覚醒部隊サフワを通じて、次は投票箱経由で。昨日あのファッルージャで人々が投票した。不信仰者たちと自殺攻撃者たちに対抗するため投票するのだと彼らは言った。彼らが言うところの、抑圧的思想、爆弾ベルトに対抗するためだと。彼らは他人の辞書を採用した。平和的政権移譲、立法者たちがつくった憲法。そういう言葉に投票箱で意味を与えた。ブッシュの軍隊がカーイダに勝利することを許した。彼らの現在の振る舞いでは、オバマは軍を引くだろう。とんでもないことだ。我々はイラクの地でアメリカ人と交戦するチャンスを失う。十字軍とシーア派に対抗する戦場としてイラクを残しておくために、新たな自爆攻撃者の群れが必要だ。イラクよ、何と難儀なことか。遠い彼の洞窟で、ウサーマ・ビン・ラーディンはつぶやいた。
オフィスでイラク選挙をフォローしつつ彼は笑う。イラクの方が余程深刻ではないか。軍が国境から溢れた。泥下に沈んだ。喜んだ。悲しんだ。選挙をした。イラクのいちいちに大騒ぎだ。様々な宗派と民族に彩られたこの民主主義というやつは、[ウラン]濃縮より重大事だ。イラクのクルドに何かする権利があるなら、イランの彼らにないはずはない。スンニー派に権利があるなら、イランの彼らにはどうか。そして、イラク南部州では宗教関係者らの政治への関わりに不満が持たれているとあっては、イラン革命の権威はどうなる?イラクでなければ何処へ我々の革命を輸出すればよい?指導部監視下にあるのではない民主主義を国内反体制派が要請してきた日には、我々は何と言えばよい?投票箱が宗教関係者の指導的役割に反対する指導者を生み出したら?この派手な選挙はイランと地域のためにはならない。マフムード・アフマディ・ネジャードはくりかえした。イラクはウラン濃縮より重大事なのだ。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:18638 )