政府が長年にわたって取り組んでいる憲法改正案の詳細が確定しつつある。改正案は26項目あり、うち3項目は暫定案となっている。
憲法改正提案の草案は、施行に関する1項目を除いて22項目からなる。この他、3項目の暫定項目があり、そのため草案は計26項目となった。改正草案では、憲法の10条、20条、23条、41条、53条、69条、74条、84条、94条、125条、128条、129条、144条、145条、146条、147条、148条、149条、156条、159条について改正を予定している。改正草案では、憲法の暫定項目である15条の無効化も規定されており、3つの暫定項目が追加されている。
暫定草案において予定されている改正は以下の通りである。
■ 優遇条項 [訳者注1]
(変更1)「法の下での平等」と題している憲法10条を次のように改正する。
「女性と男性は平等である。国は、この平等の実現について責任を担う」としている第10条第2項に対し、「以下の目的にもとづいて取られる手段は、平等の原理に反するとは言えない。すなわち、こども、年配者、障害者らの、特別な保護を必要な人々に対し取られる手段は、平等の原理に反するとはされない」という規定を加える。
■プライバシーの保護
(2)「プライバシーの保護」と題している憲法20条を次のように改正する。
「何人も、個人に関係する個人的な情報が守られることを望む権利をもつ。この権利は、個人に関係する個人的な情報について知ること、こうした情報を手にをすること、これらの修正あるいは削除を望むこと、その利用目的が意図した通りに用いられているかどうか知ることを含む。個人情報は、唯一、法で定めた状況あるいは個人による明確な承認によってのみ、とり扱われる」という規定を20条に加える。
■海外渡航の禁止には裁判所による決定が必要
(変更3)「旅行の自由」と題している憲法23条を改正する。
これによると、「国民が海外に渡航する自由は、唯一、犯罪の取調べあるいは事情聴取を受け、さらに裁判官による決定による場合にのみ制限される。」
■こどもの保護
(変更4)「家族の保護」と題している憲法41条を次のように改正する。
41条の題目は「家族の保護とこどもの権利」と改正され、41条にはこどもの保護についても規定を加える。41条に加えられる規定は次の通り。「すべてのこどもは、充分な保護を受け、「最善の利益」[訳者注2]に明らかに反しない限り、両親とのあいだで、個別的、かつ直接的に関係を築き、それを継続する権利をもつ。国は、児童虐待、性的虐待、暴力からこどもたちを守る手段を講じる。」
■公務員に団体交渉権
(変更5)「団体交渉権」と題している憲法53条を改正する。これにより、公務員やその他の公的職員に対し、団体交渉権を認める。
■各政党を会計検査院が監査
(変更6)「政党が依拠すべき規定」と題している憲法69条を改正する。これにより、各政党の会計監査は会計検査院によって行われる。
政党に関する解党訴訟は、最高裁判所共和国検事総長の要求に基づき、TBMM(トルコ大国民議会)に議席をもつ全ての政党の各5人の議員によって代表され、国会議長が議長を務める委員会のうち、総議員の3分の2以上の賛成と秘密投票による承認を経て、開始される。訴訟は憲法裁判所によって審議される。(国会における、この)委員会によるこの決定は、司法制度の領域に含まれない。却下となった解党申請において言及された却下理由は、他の解党訴訟で再審の対象とならない。各政党とTBMMにおいて、解党訴訟の承認について審議は行われず、決議もされない。
政党の解党訴訟において、国から政党に行われる財政支援を打ち切るかどうかの決定は、審議される解党裁判やその決定のあり方に依存し、それ自身としては、訴訟の対象とはならない。政党の解党訴訟の結果、政党に課される「政治活動禁止」期間は、5年から3年に短縮される。
(変更7)「請願権」と題している条項を次のように改正する。条項の題目は「請願権、知る権利、公的監査請求の権利」として改めて規定される。条項に加えられた規定により、すべてのひとに知る権利と「公的監査」を請求する権利が認められる。TBMM議長の管轄として設立される予定の「公的監査委員会」は、行政に関する苦情を調査する。公的監査役は、TBMMによる秘密投票によって4年の任期で選出される。
■議席はく奪はなし
第8項目:「国会議員の議席はく奪」と題している憲法84条を改正する。従来、政党の解党に関し、その発言や行動で憲法裁判所の解党決定の原因となった(当該の)国会議員の資格は、決議が官報において報じられる日にはく奪されるとしていた規定は、削除される。これにより、政党の解党訴訟において、国会議員の議席はく奪の決定は言い渡されない。
(変更9)TBMM議長団の体制を規定する憲法94条を改正する。国政選挙の間隔が5年から4年になるのに伴い、議長団の第二期の期間について改正がおこなわれる。これにより、議長団は、第二期目は、議員期間の終了までとなる。現在の規定では、議長理事会は3年ごとの交代となっている。
■高等軍事評議会の決定へ、監査
(変更10)「裁判の判決方法」と題している憲法125条を変更する。高等軍事評議会の決議は、一般裁判所の監督下におかれる。司法当局はこの権限を、行政の活動および業務の遂行に対し、その妥当性の審査について限定的に用い、判例の適切さの審理を行うことはできない。
(変更11)国家公務員に関する規定を含む憲法128条を次のように改正する。同条項に公務員に認められる「団体交渉権」が反映される。
(変更12)公務員の懲戒手続について規定している憲法129条を改定する。厳重注意および訓告についても、司法当局が監督する。
(変更13)「裁判官および検察官に関する監督」と題している憲法144条を改定する。これにより、法務検査官は、検察官と司法関係者を、職務的な業務の面でのみ、調査することができる
■軍人に対する一般司法の適応
(変更14)「軍事法廷」と題している憲法145条を改正する。これにより、軍事裁判所は、軍関係者が軍事に関して犯した罪についての訴訟のみを管轄することになる。国家の保安に対する罪、憲法により規定された秩序に対する罪、そして当該秩序の実施に対する罪に関する訴訟は、いかなる事態においても一般法廷で裁かれる。一般の国民は、戦時以外は、軍事訴訟にかけられることはない。
■上級裁判所における変更
(変更15)憲法裁判所の仕組みを規定する憲法146条を改定する。これにより、現在11人の正規裁判官と4人の予備裁判官を擁する憲法裁判所は、19人の裁判官から成ることになる。
TBMM(トルコ大国民議会)は、会計検査院本委員会が3人ずつ推薦する候補のうちから2人、弁護士会が弁護士の中から擁立する3人の候補者から1人を、秘密選挙によって選出する。さらに、大統領が、最高裁判所から3人、行政裁判所から2人、軍事高等行政裁判所が提示する3人づつの候補から1人、そして高等教育機構(YÖK)により、高等教育機構に属さないが大学に所属する学識経験者から推薦された3人づつの候補の中から1名を選出する。また、大統領は、この他に7人を直接指名する。うちうち5人大は、要職にある官僚、弁護人、あるいは、憲法裁判所調査官の中から、うち2人は、高等教育を受けたトルコ共和国民の中から2人を選出する。憲法裁判所は3つの組織から構成される。
(変更16)憲法裁判所の裁判官の任務を規定する憲法147条を改正する。これにより、憲法裁判所の裁判官の任務に制限が加えられる。裁判官は、12年ごとに選出される。再選はなく、任期である12年以前に定年を迎えた場合は退職する。
(変更17)憲法裁判所の任務と権限について規定する憲法148条を改正し、個人による請求権を認める。これにより、個人に「違憲審査」請求権が認められる。何人も、欧州人権条約の範囲内において、憲法で保障されている権利と自由が公権力により侵害されたという訴えをもち、さらに他の法的手段がない場合にかぎり、憲法裁判所に請求することができる。違憲審査においては、一般的な裁判の範囲内の審査は行われない。最高審議(Yüce Divan)の決議に対して再審査の請求を行うことができが、大法廷が新たに審査した結果が、最終決議となる。
(変更18)憲法裁判所の活動と訴訟の仕組みを規定する憲法149条を改定する。これにより、憲法裁判所は、3つの法廷と大法廷の体制となる。各法廷は、裁判長の下で裁判官4人の出席により召集される。大法廷は憲法裁判所長官の指示の下、14人以上の出席により開会される。政党に関する訴訟および請求は、最高審議(Yüce Divan)の名のものに大法廷で審議される。憲法改正による法律の無効化、政党の解党、あるいは政党に対し、国家予算の支給を打ち切るという決定がなされるためには、全裁判官の3分の2以上の賛成が必要となる。違憲審査は、必要が生じた場合、関係者の出席のもとで行うことができる。
(変更19)軍事最高裁判所に関する規定を含む憲法156条を改正する。これによると、軍事最高裁判所の構成員が従うべき規定および任務は、彼らが軍人としての職務をもっていることを必要としない。彼らには、法律家としての資質が特に要請される。
■裁判官・検察官高等委員会(HSYK)の体制
(変更20)裁判官・検察官高等委員会(HSYK)の体制を規定する憲法159条を改正する。これにより、HSYKの正規裁判官は現在の7人から21人に、予備裁判官は5人から10人に増員される。HSYKは、3つの部門から成る。HSYK委員長は、これまでどおり法務大臣が務める。また、法務省事務次官は引き続き、委員会の委員となる。委員会を構成する正規裁判官4人は、高等教育機構に職を持つ大学の法学、経済学、政治学を専門とする教員、要職にある官僚、弁護士の中から大統領によって選出される。正規裁判官1人と予備裁判官1人は、憲法裁判所調査官の中から憲法裁判所によって選出される。正規裁判官3人と予備裁判官2人は、最高裁判所裁判官から最高裁判所本会議によって選出される。正規裁判官1人と予備裁判官1人、は、行政審査院から行政審査院本会議によって選出される。正規裁判官7人と予備裁判官4人は、第一級の資格を有し、その資格獲得のための条件を失っていない法廷裁判官や検察官の中から、法廷裁判官と検察官によって選出される。正規裁判官3人と予備裁判官2人は、行政法廷裁判官または行政法廷検察官の中から選出される。彼らは4年任期で選出される。再選は可。委員会による免職の罰則の決定に対しては、反論することができる。しかし、委員会による他の決議に対する訴訟は当該機関に請求することはできない。
(変更21)9月12日クーデター関係者への訴訟を禁止した暫定項目である憲法15条は、削除される。
■3つの暫定項目
(変更22)憲法に3つの暫定項目を加える。
1)憲法改正提案に基づき憲法裁判所の任務に関し実施される今回の憲法改正は、現在進行中の訴訟においても適用される。
2)憲法裁判所の現在の予備裁判官は正規裁判官に格上げされる。憲法裁判所のそれ以外の裁判官と裁判官検察官高等委員会のメンバーの選出に関する規定は、実施に移される。
3)効力化のための条項―憲法改正提案は、法律として確定の上、施行される。国民投票にかけられる場合は、(条項単位ではなく)一体として投票に付される。
■(与党の)憲法改正提案が、野党へ提示
共和人民党(CHP)ハック・スュハ・オカイ会派代表 は、依然として憲法改正法案を支持しない考えはかわらないと述べた。ジェミル・チチェッ キ国務大臣兼副首相が公正発展党(AKP)が、アンカラ県選出議員の資格で、サードゥラー・エルギン法務大臣、ベキル・ボズダー会派代表ともに、憲法改正草案を提示するためにCHP会派に対して行った訪問が終了した。訪問は、5分間に及んだ。会合に続き会見を行ったオカイ会派代表は、法案に対し、当初以来態度は保留であり、依然としてこの法案を支持しない方向での考えはかわらないと述べた。
訳者注1:弱者集団の現状是正のための進学や就職や昇進における直接の優遇措置
訳者注2:子供に関わることについて、それに関わる大人が関与する場合、現在や未来において子供によりよい結果をもたらすような関与の仕方をしなければならないとする考え方
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( 翻訳者:萩原絵理香 )
( 記事ID:18751 )