「オスマン主義の再興など考えていない」―ギュル大統領ロンドン講演
2010年11月09日付 Milliyet 紙
アブドゥッラー・ギュル大統領は、ロンドンのチャタム・ハウス(王立国際問題研究所)で行った講演において、「オスマン主義を持ち出すことは現実的ではない」と述べた。
ギュル大統領は、ロンドンのチャタム・ハウス(王立国際問題研究所)で講演を行った。ギュル大統領は、講演で「トルコが、現在の外交によってオスマン主義を復活させようとしているのでは」との質問を受け、次のように述べた。
「かつて、これほど広大な地域の責任を背負ったトルコが、現代の地政学上の立場 を利用することはごく普通のことです。しかし、新オスマン主義、或いはオスマ ン主義の再興といったことは、現実的ではありません。この地域は、かつて巨大 な一つの帝国に統合されていましたが、今は、別々ばらばらです。これは、太陽 の沈まない帝国(といわれたイギリス)についてもいえることです。トルコも同じです。」
ギュル大統領は、イギリスの首都ロンドンにある王立国際問題研究所、通称チャタム・ハウスにおいて、「21世紀の最初の25年における国際システムとヨーロッパ、そしてトルコ」というテーマで講演を行った。講演には、ハイリュンニサー・ギュル大統領夫人、ギュル大統領夫妻の息子のエムレ・ギュル氏も出席し、たくさんの聴衆が講演を拝聴した。ギュル大統領は、ここチャタム・ハウスに招かれたことを光栄に思うと述べ、講演を始めた。
この中でギュル大統領は、EU拡大に関する現在の諸議論が、(EU)統合の進展に積極的な貢献をしていないと述べ、トルコが(EUに)参加することによりEUが弱体化することはなく、政治や経済面での強化が図られるだろう、との見方を示した。
■ BBCのインタビュー
これに先立ち、ギュル大統領はBBCのインタビューに応じ、「トルコでは刑務所に新聞記者が収監されているが」との質問に対し次のように答えた。
「おっしゃるように、トルコでは、最近、残念ながら、複数の新聞記者達に関し幾つかの公判が開かれています。このことは、当然私たちを悩ませていますが、このことに関する私自身の見解を、トルコにおいて私は述べていますし、また法務大臣とも、この問題を共有しています。法律は改正される方向に向かうでしょう」と述べた。
ギュル大統領は、トルコ・イスラエル関係の現在の状況は、トルコが決めたことではなく、また望んだことでもないことを述べた。公海上で人道支援物質を積んだ輸送船に、イスラエル軍が攻撃し、9名が死亡したことでこうした事態に至ったと述べたギュル大統領は、以下のように続けた。
「これは、当然国際法(で処理すべき)の問題です。国際法によって処理される必要がある問題です。イスラエル政府は、当然それを考慮されることでしょう。もし、イスラエルがトルコとの今の関係を熟慮し、そしてこれまでトルコがイスラエルを重視してきたことを評価するなら、(イスラエルは)やるべきことをやらなければなりません。なにかせよと言った場合、何か(金銭などの)保障を、といっているのではありません。法に従って行動せよ、といっているのです。 トルコ・イスラエル関係の将来は、実のところ、全てイスラエルの態度次第なのです」と述べた。
■ ギュル大統領の周辺に、鞄を運ぶ大勢の者達
イギリスのテレビ局BBCのステファン・サックル氏は、ギュル大統領にインタビューを行い、その印象を述べた。サックル氏は、学生時代を過ごしたロンドンに戻ってきたギュル大統領に関する印象を次のように述べた。
「ギュル大統領は、私を満面の笑みで迎えてくれました。ロンドンの最高級ホテルのスイートは、大統領顧問や取り巻き、そして鞄を運ぶ者たちでいっぱいでした。ギュル大統領は、その長い政治キャリアを通じて、変革派の政治家として、またイスラム主義者として活動し、そして世俗主義トルコにとっての脅威として非難されてきました。しかしながら、トルコの政治家から受けたこの嫌悪にたいし、いつも穏やかな指導者でありました。この誇りあるムスリムは、ヨーロッパ各国の政府にただよっている、「トルコの 東へのシフト」という亡霊を消したいと望んでいるのです。」
■ イギリスの首相と会談
ロンドンでの日程をこなしているギュル大統領は、イギリスのデビット・キャメロン首相と、ダウニング・ストリートにある首相官邸で会談を行った。ギュル大統領のチャタム・ハウスでの講演には息子のエムレ・ギュル氏も出席した。
■ キプロス問題において「ジェスチャー」などない
ギュル大統領は、EUとのあいだの障害が乗り越えられるために、トルコがキプロス問題でなんらかの譲歩を行うのではと期待すべきではないと述べた。
ロンドンを拠点としたシンクタンクである王立国際問題研究所の2010年度チャタム・ハウス賞の受賞のために、イギリスを訪問中のギュル大統領は、イギリスの放送局であるBBCのインタビューに応じ、EUとの諸交渉が暗礁に乗り上げていることを批判する一方、トルコ側の期待は、統合の約束が守られることであると述べた。ギュル大統領は、現在、加盟交渉の個別の課題項目に関する審査開始とその 完了が、キプロス政府などによって妨害されてはいるが、トルコとしては審査開始のための準備は完了させるつもりだとし、各課題をいつ審査し、いつ終わらせるかは、実際にはトルコが決めるのだと強調した。
(本記事は
Asahi中東マガジンでも紹介されています。)
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( 翻訳者:濱田裕樹 )
( 記事ID:20639 )