社説:シリアのアサド大統領、危機の深刻さを自認
2011年01月31日付 al-Quds al-Arabi 紙
2011年1月31日付『クドゥス・アラビー』紙19面(イギリス)
シリアのバッシャール・アサド大統領は、中東地域は数十年に亘る停滞が原因で「病に冒されている」と認めた。同大統領は、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」のインタビューで、「国の指導者達が自分自身と自国の発展に努め、国民の要請に応えなければならない」と語った。
シリアの大統領がこうした事実を認めることは異例である。もしチュニジアやエジプトで変革を求める民衆革命が盛り上がり、それがイエメン、スーダン、サウジアラビア、ヨルダン、そしてシリアにまで波及するという見方が広がっていなければ、こうした発言はなかったであろう。
同大統領は、「我が国は今年、地方議会選挙や報道分野における新法の制定、非政府系団体が声明を発出する際の条件緩和といった措置を通して政治改革が実行に移されるだろう」と述べた。こうした措置は素晴らしいことである。しかしシリア国民ははるかにそれ以上のことを求めているのだから、改革は限定的なものに留まるだろう。
シリアの体制は過去30年間、言論の自由に対して非常に厳しい制限を課してきた。国は一党支配体制下に置かれ、人権侵害のひどさに関しては世界上位にランクインし、同国の刑務所内での拷問は日常茶飯事であった。
アサド大統領は、10年前に父親の大統領職を引き継いだ際、政治改革や汚職撲滅に取り組むと同じような約束をした。しかし、こうした約束の大半は、治安機関が圧力をかけ、また体制が直面している危機を過度に誇張したために実行に移されなかった。
経済・政治面で改革を実行し、真の国民的利益を実現するために国民のさまざまな方面と対話の回路を開き、国を繁栄させるため方法について意見交換し、政権参加の裾野を広げようとする意志が同大統領にあることを疑っているわけではない。しかし、大統領の取り巻き、あるいは政権内部で要職を担う一部の者達は、体制を脅かしかねないいかなる危険をも避けるという口実の下に、この改革に反対し現状維持を求めている。
同大統領は改めて改革を誓った以上、すでに我々が目にしたように治安機関に依拠した強権体制が、チュニジアの体制崩壊を食い止めることはなかったことを肝に銘じるべきである。エジプトにおいても、百万人以上の治安要員は現在同国を席巻する嵐のような革命に対して抗することもできずに立ち尽くすのみであった。この革命は本日[31日]、百万人規模の抗議集会とともに二週目に突入している。
シリアではかつて、体制の「お抱え顧問」らがアサド大統領に対し、「政治改革に取り組むことなく、経済改革を実行することは可能である」と吹き込んだことは注目に値する。つまり中国のやり方に見習え、ということである。実際に大統領は、使節団を北京に派遣して中国の取り組みから学び、その学んだことの一部を自国に適用しようと試みた。
同大統領にこうした方向性をとるよう説得した者達には、「中国はシリアではない」、つまり両国の状況は全く異なるという認識が欠けていた。中国では経済成長率が10%(現在は7%)を超えた年もあったのは確かである。また中国では腐敗はほとんど蔓延していないし、中国語の辞書には「縁故主義」に関する項目はない。
我々は、アサド大統領が中国の経験をしっかり学ぶとともに、民主主義や人権の尊重、公正で独立した司法を求める自国民の正当な要求を理解し、意見を異にする者や多様な政治勢力に対して機会を拡大するよう望んでいる。というのも、これこそが国の安定を揺るがすいかなる試みをも回避する真っ当な方法だからである。
同大統領がアラブ諸国を「病気」と診断したことは重要であり、安寧を享受する時代に向かう上で大きな歩みである。しかしながら、真に問われているのは実行力である。もはやのんびり構え、先延ばしにしている余裕はない。
(本記事は
Asahi中東マガジンでも紹介されています。)
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( 翻訳者:岡崎弘樹 )
( 記事ID:21324 )