コラム:エジプト情勢が米イスラエル等に与える影響
2011年02月04日付 al-Quds al-Arabi 紙

■ アメリカはこのように手下たちに報いる

2011年02月04日付『クドゥス・アラビー』紙(イギリス)HPコラム面

【アブドゥルバーリー・アトワーン】

我々は現在、文字通り中東いや世界が変わる歴史的瞬間を経験している。チュニジアとエジプトで中央広場に赴き、アラブ的情熱と信条をもって圧政と専制者にノーを突きつけた人々の勇気によって。

タハリール広場で11日間続いている巨大な国民投票、そしてチュニジアのブルギバ通りでは受理されたそれから学ばれることは、合衆国がいかに簡単にその手下たちを見捨てるかということだ。彼らが国民に排斥されたというので庇護を拒否し、背を向けた。米政権は、まるでムバーラク大統領など存在しなかったかのようにエジプトの現状に対応している。ダメージを軽減し自国の利益を守ろうとする米国にとって、大統領は今や可及的速やかに振り捨てるべき重荷であるとみなされた。

独裁者たちを背後で操っていた人々をも恐怖と戦慄でなぎ倒し、民衆の怒りを避けるべく膝をつかせた勇気ある人々に感謝を。ふさわしい退場口、司法免責が与えられれば、つまり近い将来新たな革命者たちにより戦争責任や汚職の罪に問われなければ、ムバーラク大統領は国民の要請を容れ退去するという。アルジェリア大統領は、非常事態宣言を解除し改革を約束した。イエメン大統領は、終生大統領とはならず世襲もしないと公言した。日夜エジプト情勢をフォローしているアラブ国民は、それがすみやかに勝利し周辺国へ波及することを望んでいる。また別の独裁者を倒し新たな時代を始めるために。

ムバーラク大統領は近く去るだろう。エジプト国民が道半ばで諦めず犠牲をものともせずに、タハリール広場へエジプト各都市の広場へ出て行くからには、それは確実だ。腐敗の象徴を民の怒りから守ろうとして権力にしがみつく政権と、国の輝かしい将来を目指す人々とのせめぎ合いを我々は目にしている。政権は事態鎮圧のため時間をかせごうとし、人々は変革へ至る時間を短縮したい。

高みの見物を決め込んでいたネタニヤフでさえ、止まり木から降りてきて、ずっと渋っていた諸案件に取り組む素振りを見せた。ガザのインフラに対するイスラエル当局の締め付け、下水施設、電気、水にかんする国際プロジェクトや西岸のパレスチナ人の経済状態向上などについて彼は初めて言及している。これらの譲歩を示したネタニヤフは、パレスチナの人々の苦境に同情するどころか不本意と苦々しさをにじませている。この進展はパレスチナ側交渉担当者たちの手柄ではない。中東を席巻している変革が原因である。

中東で唯一の民主国家イスラエルが近隣諸国の独裁者側につき、かれらと和平協定を結んできた事情を世界はよく知っている。イスラエルは、それら独裁政権を維持すべくあらゆる国際コネクションを用いてきた。ムバーラク政権の失墜によりイスラエルとアメリカが30年間築いてきたものが崩壊することをネタニヤフは理解している。国交正常化とめいうって、抑圧的政権を支援することによりアラブの人々の高潔な抵抗精神を踏みにじってきたのだ。

ムバーラク失墜はキャンプデービッド合意の撤回であり、つまりエジプトが中東の盟主に返り咲くということだ。イスラエルの立場は振り出しに戻る。つまり近隣諸国から恐れられ憎悪される国になってしまう。イスラエルは恐怖に震えている。ムバーラクのエジプトは、30年間アラブ諸国との間の防護壁だったのだ。イスラエルがガザのアラブ・ムスリムたちを封鎖し締め上げるのに、エジプトは協調してくれた。それは史上もっとも卑劣な行為とされるのだが。

キャンプデービッド調印の1979年以前、イスラエル国防省の予算はGNPの約30%を占めていた。それが調印後は8%に落ち着いた。年間約200億ドル相当を節約でき、それを軍事産業開発、レバノンに対する諸戦争、パレスチナ民衆蜂起への対応に充てることができた。内外でのイスラエル諜報機関を強化し、マフムード・アル=マブフーフ、イマード・ムグニヤらをはじめとする暗殺作戦を進めることもできた。

ムバーラク後の空白を誰が埋めるのかについて様々な予測が飛び交っている。大事なのは、決定権はエジプト国民にあり、欧米他の外国ではないということだ。まずエジプトは蛇の頭から脱却し、次いで沢山あるその尾も切らねばならない。全員まとめて法の裁きを受けさせるのがよい。ふさわしい刑罰を与え、略奪した資産をエジプト国民に返還させるのだ。

仲介者たちに気をつけよう。第3者を称しこのところ活動している「司法」委員会なるものは、中途半端な解決策を提案する。彼らはエジプトではなく現政権を救済しようとしている。彼らの多くはそれまでの政権に仕えてきたのと同様、現政権にも仕えている。いつの時代にも存在する人々だ。

革命に中途半端な解決策は要らない。専制に改革は不要である。腐敗政権を根こそぎにしなくては、新たな民主主義的体制はつくれない。真の法の番人たちは、国民の側につき正義を求めるはずだ。エジプト維持とのお題目で独裁者に脱出口を用意したりしない。っ国民こそがエジプトを防衛している。彼らは変革を主張し、政権が栄華を極めた頃は考えられなかった譲歩を次々と迫っている。

アメリカは中東を失い、その抑圧的同盟者たちは慄き眠れぬまま失墜の時を待つのである。数十億の富も、国民弾圧をそそのかした腹心たちも役にはたたないだろう。

(本記事はAsahi中東マガジンでも紹介されています。)

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:21360 )