コラム:リビアのチャラビーに警戒せよ
2011年03月01日付 al-Quds al-Arabi 紙

■リビアのチャラビーに警戒せよ

2011年03月01日『クドゥス・アラビー』

【アブドゥルバーリー・アトワーン】

<リビアの現在の悪夢は、大勢の予測よりもはるかに長引きそうだ。その大勢の中には、体制に対し蜂起した革命家たちも含まれる。彼らは最小のダメージで可及的速やかに、民主的変革を成し遂げたいと希望しているのだが、ムアンマル・カッザーフィー(カダフィ)大佐とその支援者は当然政権に残ることに執着している。彼らは幾分自信を回復したらしく、手先となる傭兵や、あらゆる種類を揃えた武器庫をもって血みどろの内戦にすると脅しをかけている。

二日前トリポリ市内のレストランで行われた外国記者団との会見記事を読むと、カッザーフィー大佐は落着いて慎重に言葉を選んでいる様に思われる。誓約や脅し文句、以前の興奮したスピーチで用いた不適切な言葉の使用を避けていた。しかし、その息子サイフ・アル=イスラームが従ったものと同じ戦略を用いている。つまり、「アル=カーイダ」の恐怖を持ちだして欧米にすり寄っている。我々は同じ敵と戦う同志ではないかと、オバマ大統領に言っているかのようだ。

しかし欧米がこの口説きに応じるとは考えられない。彼らは、リビアの大佐についてはサッダーム・フサインと同じやり方で対処することにしたのだ。環境も個性も動機も異なるので、相応の修正を加えながらではあるが。

外国記者団に対するカッザーフィー大佐の発言で異様だったのは、欧米が自分を見捨て、革命家に対峙しているのに何も援助をよこさないことにつき彼が不満を述べている点だった。アメリカを中心とする同盟クラブの中で、自分が新規のメンバー、しかも臨時に受け入れられたメンバーに過ぎないということを忘れている。ほんの短期のお試しだったのだ。エジプト大統領のような従順な同盟者をしぶしぶ見捨てた後で、彼らがカッザーフィー大佐の支援に馳せ参じるであろうか?

大佐が欧米の要請に応じた以上、大佐の罪は全て免責されると考えていたその息子サイフ・アル=イスラームや、その他の政府高官たちを通じ、英米は大佐を慎重にトラップの中へ落とし込んだ。

彼らは、初めは「関係正常化」というエサで釣り、国際社会へ復帰できるようリビア体制のリハビリに努めた。見返りとしてリビアは2003年に大量破壊兵器を放棄した。つまり欧米のイラク戦争が実を結び始めた。武器を取り上げておいて、その資産を合衆国の銀行に預け、リビア領土を英米の石油会社に開放するよう以前にもまして強く働きかけた。


現在、地中海には合衆国の軍艦がひしめいており軍事介入の準備は万端である。一方、NATO諸国の閣僚は来週ブリュッセルで会合をもち、リビア問題への対応を協議する。封鎖を強化するか、革命家らを庇護するとの名目で飛行禁止区域を設けるか等の話になる。

カッザーフィー大佐は、その40年以上にわたる治世の中で数々の過ちを犯した。国民革命により動揺するチュニジア、エジプトの元首を支持したこともそうだが、最大の過ちは、欧米の要請には全て応じておきながら、自由、民主主義、尊厳ある生活を求める国民に対し何一つ譲歩を示していないことである。

最近の大佐が、国民は彼を愛しており彼のために死ぬ用意がある旨の発言を繰り返しているのはショッキングなことだ。どうしてリビア国民が彼を愛しそのために死ねるのか?そうするほどの何を彼は国民に差し出したのか?民主主義、人権、透明性、公正な司法、汚職対策、それに関わった者たちの清算、これらの内の何も国民には提供されていない。

サハラ砂漠の真ん中からやって来たリビア元首は、自国をあらゆる現代文明から隔絶した不毛の荒野にした。隣国エジプトとチュニジアでは、少なくとも市民社会がうまれ中産階級が定着する土壌ができた。一方、彼がリビアにもたらしたものは、テントの文化、暗黒時代への回帰であった。

テントや砂漠の遊牧文化が悪いと言っているのではない。それは我々アラブの原点であるし、筆者もテントに生まれ山羊の乳で育った。しかしだからといって、時代に後れをとって善しとする必要はない。文明の利器、新興の精神、教育制度や進んだ行政知識の適用、各々選出された機関を柱とする現代国家を樹立しなくても構わないという話ではなかろう。

BBC特派員のジェレミー・ボーエンが、リビア元首にこう質問してくれないかと期待していた。

「カッザーフィー大佐、貴方を愛しあなたのために死ねるという国民のために、貴方は死ぬ用意がありますか?」

残念ながら英放送局代表もその同僚たちもそれを訊いてはくれなかったが。

欧米は今や、リビアの大いなる愚行に介入する用意ができている。国民を守るという名目で、リビア政権に対し軍事介入を行うだろう。しかしそれは、カッザーフィー大佐の望むところだ。なぜなら、この種の介入については、リビアとアラブ諸国民の大半が反対に回るからだ。イラク軍事介入にまつわるあらゆる醜聞とその結果として起きた惨劇、イラク人100万の犠牲を我々は思い起こすだろう。

このところ欧米紙では、リビア元首がマスタードガス(化学兵器)を何トンも所有しており革命家たちせん滅に使う可能性があるなどという長大なレポートが見られる。やはり私たちの脳裏をよぎるのは、それら同じ新聞で見たイラクの大量破壊兵器についての虚偽のレポートである。


元首を廃したエジプト、チュニジア同様、リビア国民は外国の軍事介入を拒絶している。しかし、リビア沿岸に面する地中海沖の米軍艦は、現在のリビアの革命家たちにとって危険な兆候である。抑圧的で腐敗した独裁政権打倒を目指すどのアラブ革命にとっても、それは良くない前触れだ。

百万回繰り返し述べたことだが、欧米はアラブ人のための民主主義や尊厳ある生活など望んではいない。彼らが欲しいのは石油とアラブの富だけだ。そして、人種差別的占領勢力としての強大なイスラエルを維持するために、軍事的にアラブを弱体化する隙を常にうかがっている。欧米は、自身の利益の見張り番をしてくれ、忠実に仕え、イスラエルの庇護を求めるアラブ政権を欲しているのだ。

ここで指摘しておかなければならないのは、欧米にとってはリビアの石油よりも重要案件がある。それは、約1800キロメートルにわたる地中海に面したリビア国境を閉鎖し、アフリカから来る不法移民をせき止めることである。これらの点をよく考えなくてはならない。欧米政府高官が繰り返すリビア革命への支援という甘言に、我々はごまかされるべきではない。

ごく短く要約すれば、リビア国民、中でも蜂起の前衛にいる人々は、リビアの「チャラビー」に警戒せよ、ということだ。極限までの忍耐をもってチュニジア、エジプト二つのモデルにならうことを彼らに望む。

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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:21680 )