エジプト、宗教間の衝突で死傷者、旧政権の残党による“反革命”の試みか
2011年03月09日付 al-Quds al-Arabi 紙
■ムバーラク、シャリーフ、スルールのギャングたちが“反革命”を主導:暴力と混乱と宗教間対立
■「民衆は女どもの打倒と大統領の顕彰を望んでいる」のシュプレヒコール…カイロ近郊の教会放火事件後の死者、13人に
2011年03月09日付『クドゥス・アラビー』紙
【ロンドン:本紙ハーリド・アル=シャーミー記者】
昨日、エジプト政府は初めて「反革命の計画」の存在を認め、フスニー・ムバーラク元大統領の側近の支持者たちが宗教間暴力を企てたと非難した。
カイロの南、アトフィーフ郡の村で教会が放火された事件を受けて引き起こされた宗教間暴力で、死者13人と負傷者150人が出た。革命政府の初閣議が開かれ、その前日にはムバーラク元大統領一家の資産凍結を支持する裁判所決定が出た昨日、革命を破壊し、頓挫させようと闇でうごめく勢力が、何が何でも目的を達しようとしていることが明らかになった。
宗教間の衝突は、複数のならず者がコプト・キリスト教徒の多く暮らすスラム地区で市民を襲い、内乱に火を付けたために起こった。また別のならず者たちはタハリール広場で座り込み行動を行っていた人たちにも襲いかかり、広場から追い出そうとした。
革命を頓挫させるためのならず者の利用に関する真相究明委員会の報告によると、サフワト・シャリーフ[元情報相・国民民主党幹事長]とファトヒー・スルール[元人民議会議長]、それにガマール・ムバーラクに近い国民民主党幹部のイブラーヒーム・カーメルといったムバーラク元大統領の大物側近達が彼らの動員に関与した。またこのレポートによると、軍最高評議会メンバーのサーミー・アナーン参謀総長は空軍クラブでの講演で、市民を脅し、襲うために前政権の残党がならず者を利用していることに対処する強い決意を約束したという。
またならず者とサラフィー主義[イスラーム復古主義]のシンパは、世界女性デーを記念してタハリール広場で行われた女性デモに嫌がらせや攻撃をしかけ、中には「民衆は女どもの打倒を望んでいる」「民衆は大統領の顕彰を望んでいる」などと叫ぶ者もいた。
昨日の政府声明では、「我が国で起きている事態を最大限の関心と懸念をもって見守っている」内閣が、「国の現状、特に通常の生活に戻る事を妨害し、治安の乱れを引き起こし、乱暴狼藉を展開して平和的な市民を脅えさせようとする現象や行為、さらには国民統合を侵害する緊張状態について」水曜日の閣議で検討したと伝えられた。また内閣は刑法の改正案を準備したが、その内容は「死亡者が出たケースについては、暴力を用いて人を恐怖に陥れる犯罪の罰則を死刑にまで引き上げる」というものだった。「怒りの金曜日」と名付けられた[大規模デモが行われた]1月28日に姿を消して以来、初めて警察部隊が今週木曜日から業務に復帰すると発表されたにもかかわらず、治安の乱れと暴力の横行、宗教間の内乱の恐れの影響を懸念する声が街を覆っている。
事情通らはアトフィーフでの教会放火事件と数日前にカイロで発見された国家保安局[秘密警察]の記録書類、ハビーブ・アル=アーディリー元内相が[今年の正月にアレキサンドリアで起きた]二聖人教会の爆破事件の計画に関与していたことの暴露を結びつけて見ており、国家保安局と一部のサラフィー主義者との緊密な関係を指摘する。後者はデモを禁じたり、政権を支持するファトワー[宗教的見解]を出したりする任務を与えられていた。中にはムハンマド・アル=バラーダイー[エルバラダイ]氏を殺害せよとのファトワーすらあった。
一昨日には数十人のサラフィー主義者がデモを行ってカミリヤ・シャハータの消息を解明するよう求め、カイロ市の環状道路を封鎖していたコプト教徒のデモ隊と衝突した。[訳注:カミリヤ・シャハータは昨年夏に失踪したコプト・キリスト教徒女性で司祭の妻。イスラームに改宗したために教会施設に幽閉されているなどの噂がイスラーム系ウェブサイトで広がり、両宗教間の関係悪化の一因となっていた]
数週間後に控えたイースターまでに間に合うよう、出来るだけ早く同じ場所に教会を再建すると軍が約束したにもかかわらず、コプト教徒のデモと騒乱は続けられている。いくつかの報告によると教会放火事件に関する報道には誇張があり、被害を受けたのは教会付属のセレモニー用施設のみで、教会自体は残っているという。
前政権の残党は巨額の資金と治安機関への影響力を利用して革命のイメージを歪め、ムバーラク一家とその側近の一部の資産凍結を受けて明らかになり始めた“汚職の帝国”の実態から目をそらさせるためのキャンペーンを展開しているように見える。
(本記事は
Asahi中東マガジンでも紹介されています。)
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( 翻訳者:山本薫 )
( 記事ID:21772 )