コラム:リビアで試し、シリアを標的に
2011年03月18日付 al-Quds al-Arabi 紙
■リビアで試し、シリアを標的に
2011年03月18日『クドゥス・アラビー』
【アブドゥルバーリー・アトワーン】
リビアの革命家たちは、元首ムアンマル・カッザーフィー(カダフィ)とその息子たちの部隊による残虐な殺戮に直面している。革命家たちを守るためとして、安保理が外国軍の介入を認める決議1973号を発したその数時間後、イエメン治安軍は、サナアのモスクで平和的な座り込みを行っていたデモ隊を攻撃し40人以上を殺害、他に数百を負傷させた。
アル=ジャズィーラの映像を通してみたこの虐殺の光景は、銃撃が殺害目的で行われたことを明確に示している。多くが、頭、胸、首に傷を負っており、この種の任務を遂行するべく訓練されたプロの狙撃手の仕業と見られるからだ。
認めたくないことだが、欧米は、革命家たちを守るために軍事介入するといいながら、えり好みする。日産200万バレルに満たないイエメンは主要産油国ではない。そして世界で20カ国の最貧国のひとつである。
アメリカはリビアへの軍事介入をおおいに躊躇し、オバマ政権はアラブ諸国の参加を要請してきた。これは当初はうまくいっており、先週のアラブ諸国緊急外相会議はその介入を支持していた。しかし、その時は5カ国が参加の予定だったのが結局カタールとUAEだけになった。そこにヨルダンが加わるという不確かな可能性もでたが。
オバマ大統領が躊躇した理由のひとつとして、リビアに軍事介入した場合にかかる費用の問題があったと思われる。しかしこれは、カタールとUAEがその出費を一部もつことに同意して解決したようだ。それでカバーしきれない分は、凍結されたリビア資産を運用するという可能性もある。
わたしとしてはリビア危機への介入は純粋にアラブ諸国により行われることを望んでいた。平和的革命により体制変革に成功した二つの隣国エジプトとチュニジアも加わって。特にエジプトは、アメリカから年間13億という軍事援助を得ていたのだから。しかし、この二国は、介入計画に疑念を有しており、また現在の移行期にあっては国内問題に集中する必要もあって躊躇していた。
国際的軍事介入が行われるという決議に、ベンガジ市の革命家たちは中央広場で朝まで踊り明かした。しかし驚くべきことには、この決議、その条項の適用を歓迎する声が、リビア外相ムーサー・クーサーからもあがったのだ。そして、これについてカッザーフィー大佐政権の意図を示すため完全な一時停戦を宣言した。
観測者たちからは頭がおかしいと評されることもあったリビア元首だが、ベンガジを攻撃する強い意志を公に示すことによって国連決議を急がせ、欧米がリビアに軍事的に関わることを余儀なくさせた。これによって、自分の政権は外国の介入という陰謀の犠牲になっているのだと主張できる。革命側に戦場での勝利を得させ各都市解放を許したことにより、当初平和的な運動であったものを軍事抵抗に変容させたのと同じような手順である。
リビア国民の間でのカッザーフィー大佐への信頼は落ちるところまで落ちており、アラブ諸国民の間でもそれは同様である。自分の政権が倒れると中東が不安定化し、それはイスラエル自身の安定に影響を及ぼすなどと同国に囁いてその関心を引こうとした時、大佐への信頼は地に落ちた。しかし、大佐は欧米の偽善をあばく試みとして次のように主張できる。2008年イスラエル機が非武装のガザ市民のうえにリン焼夷弾を投下しても、合衆国はガザに飛行禁止区域を課すことはなかった。あるいは、イスラエルが南レバノンとベイルート南郊外をあらゆる武器を用いて攻撃しても、欧米諸国は34日間沈黙していた。
英国と合衆国がクルドを守るため北部に、1994年にはシーア派を守るため南部イラクに設定した飛行禁止区域は、サッダーム・フサインの政権を倒すことはなかった。それどころか、サッダーム政権は悪意ある国際制裁のもと11年以上も維持された。そして、米英両国はイラク侵攻、占領、国家機関の解体を余儀なくされたのだ。結果は惨憺たるもので、軍は解散させられ、国は宗派闘争の泥沼に沈んだ。少なくとも100万が死亡、400万が負傷したとされるイラク人の犠牲についてはいうまでもない。
エジプト大統領選に突入の準備をしているアラブ連盟事務局長アムル・ムーサー氏は、欧米の軍事介入はリビア人を守るためであって侵略ではないと述べる。キャメロン英国首相も同じことを言う。しかし、今後数カ月あるいは数年で事態がどう推移するかは誰にもわからない。イラクで我々が各章を目の当たりにしたシナリオが、そのままリビアで繰り返されるかもしれない。
飛行禁止区域を支持したアラブ諸国は、その将来における帰結を良く考慮したのだろうか。それは、国民革命を守るものではない。専制政治はある一つの宗派によって行われる。もし、サウジアラビア王国東部のアル=カティーフ、アル=ホフーフ、アッダマーム等のシーア派が、将来、彼らの革命を守るために飛行禁止区域を求めたら、どうなるだろう。これらの人々は大部分、サウジ石油施設のある場所に居住しているのだが。あるいは、マナーマの真珠広場での抗議行動を暴力によって蹴散らされたバハレーンのシーア派が同じことを求めたら?国連事務総長は、バハレーン政府の対応を戦争犯罪に近いと評したものだが。
今回の欧米による介入が期待される結果を出すという保証はない。それどころか、より危険な逆の結果をもたらす可能性の方が大きい。ブラジル、中国、ロシアとならんでドイツが安保理決議に反対票を入れたのは、このためだと思われる。
リビアは内戦の候補国だ。分裂の危機にもさらされている。それも粉々になるかもしれない。カッザーフィー大佐とその一味が簡単に投降するかどうかは不明である。彼らは今や戦争犯罪で糾弾されている。そして、彼らの亡命地への退路は全て断たれている。こうなった以上、降伏するであろうか。
欧米の軍隊が強大な破壊力を有するという点には異論が無い。しかし我々は、この軍隊がアフガニスタンで、軍事面では原始的とさえいえるターリバーンを、あるいはイラクの抵抗諸勢力を倒せていないということを思い出す。軍事介入は言葉にすれば簡単に聞こえるが、それを実地に適用すれば想定外の様々なことに遭遇する。
中東には、アフガニスタン、イラク、イエメンという三つの破綻国家がある。もし軍事介入によっても数週間で決着をつけられず、介入期間が引き延ばされれば、リビアは4番目の破綻国家になるだろう。それらの国々は混乱を育てる土壌となる。リビアの場合はテロと地中海の対岸つまり欧州への不法移民がそれである。
リビアへの軍事介入決議は、基本的にシリアやイランのような国を標的としたものだという感触がある。リビアは、より大規模な軍事介入に備えたテストケースなのだ。リビア革命の経過をみると、その他のアラブ革命の行く末が危ぶまれる。欧米やアラブ諸国政府のいくつかが革命勢力を第二のコントラ化しようとしており、リビア革命の純白のイメージを汚そうとしているからだ。リビア国民は二重の犠牲者となった。ひとつはカッザーフィー大佐の硬直化した独裁政権によって。もう一つは、彼らの富を狙う欧米の貪欲さによって。
この勇気ある国民は、自分たちを死刑執行人から解放する権利がある。自由、尊厳、民主的な現代国家創設という彼らの目標は十分正当なのである。
(本記事は
Asahi中東マガジンでも紹介されています。)
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:21865 )