コラム:アラブ諸国体制による政治パフォーマンスの終焉
2011年03月27日付 al-Hayat 紙
■政治パフォーマンスの終焉
2011年3月27日『アル=ハヤート』
【アブドゥッラー・イスカンダル】
数日前のテレビ番組で、アリー・アブドゥッラー・サーレフ大統領が現在の危機を打開するために提示している公約に野党が反応しない理由について、イエメンの野党議員に質問が及んだ。同議員は、「大統領は以前にも、原子炉を建設し遠隔地を含む全ての居住地への電力供給を保証するとイエメン国民に約束した事がある」と答えた。
この回答には、我々アラブ諸国における野党ならびに反体制派勢力と政権との間にある現実が濃密に凝縮されている。
サーレフ大統領はこの原発計画に関する公約を発表する際、資金的技術的な多くの理由からこれが実現不可能だとよく承知していた。それにもかかわらず公約を打ち出して見せたのは、まず、約束するだけなら何一つ費用がかからないというのが一点。そして、原発という夢を示して見せた大統領の行為に対し、あえてその結果を求める者は国内にはいないとの確信があったからだ。彼はこの政治パフォーマンスにより、費用をかける事なく二つのうまみを得た。快適な国民生活の保証に意欲的であるというポーズ、そして、科学の恩恵の公益化に熱意を抱く現代的指導者というイメージを同時に見せつけたのだ。
公約とはこれを信じる者がいなければ意味を成さないものだが、我々アラブ諸国における公約は「命令」に相当するものであった。これを嘘だと言うのはもちろんの事、これに疑念を呈したり、単なる政治的パフォーマンスではないかと公言する勇気を持つ者は誰もいない。言い換えれば、政府は自らの嘘を自覚しながら嘘をついていた。それでも嘘をつき続けたのは、政府が嘘をついていると発言する勇気を持つ者がおらず、むしろ全ての人がこの嘘を信じているような振る舞いする事を、政府は知っていたからだ。
現在起きている民衆抗議運動の新しい点として、政府に対する恐怖のバリヤーが打ち壊された事や、政府が嘘つきであり、もはや誰もその公約や嘘を信じていないと発言する勇気が見られた事が挙げられる。現体制は自らの望むとおりに公約や改革を宣言する事が出来ても、体制の追随者以外で、それを信じてくれる者を見つける事は出来ないだろう。民衆の持つ勇気と大胆さは改革を求めるに留まらず、政府の虚言を指摘する段階にまで到達したのだ。
政治的パフォーマンスの段階は既に終わった。アラブ諸国の各政府は数十年に亘って危機が訪れるたびに利用してきた道具を失ったのだ。自由と尊厳ある生活を求める国民の声に耳を塞ぐために使用してきた、大切な道具を。
現在危機にあるアラブ各国政権は様々な公約を発表しているが、それらに対する人々の対応は、イエメンの原発公約に向けられた国民の姿勢となんら変わりない。つまり、街頭で抗議運動を行う者は誰もこの公約が信頼性を備えているとは考えていないのだ。というのもこれらの公約は何の結果を伴う事も無く数年ごとに繰り返されてきたからだ。
政治的パフォーマンスの失墜が見せるもう一つの側面として、政府による外交的任務が空虚なものである事が明らかになった。[国外からの脅威を喧伝し、]「闘争の声に勝る声は無い」というよく知られたスローガンを継続するために政府は、それらの外交分野での任務をねつ造してきたのだ。同時に、国内戦力を政権の周囲に動員するための国外勢力陰謀論も崩れ去った。
抗議運動は、政権側の対外的任務 (帝国主義、植民地主義、シオニズム等への抵抗、レジスタンス、パレスチナ解放…等々) に関する発言をもはや信じていない。更に、これらの任務は、政権による現状維持と、国内反体制勢力の牽制を正当化するためだけに機能しているとの認識を持つようになった。これこそが、長年にわたり非常事態法が継続されてきたことの真の意味なのだ。この非常事態法は、少なくとも形式的にはある程度の公正さをもたらす民事裁判を禁止し、国内治安に脅威を与えたという容疑を自由に[あらゆる国民に]かける事を政権に許している。
現在発生している抗議運動により、政治的パフォーマンスが統治の道具として国内外の両面で果たしてきた効果に終止符が打たれた。その証拠に、チュニジアやエジプトの政権が崩壊前に打ち出した公約や譲歩はいずれも抗議運動の勢いを抑える事が出来なかった。イエメン、リビアの両政権は、この道具にあくまで固執する事により、元の状態に戻れる一切の保証もないまま内戦という選択を取ったと言える。抵抗運動はシリアにまで到達しており、エスカレートする暴力やスローガンによってシリアは例外という神話を終結させようとしている。
(本記事は
Asahi中東マガジンでも紹介されています。)
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( 翻訳者:川上誠一 )
( 記事ID:21955 )