コラム:エジプト・イラン国交正常化
2011年04月05日付 al-Quds al-Arabi 紙
■エジプト・イラン国交正常化
2011年04月05日『クドゥス・アラビー』
【アブドゥルバーリー・アトワーン】
エジプト新時代の動向を追っていると、同国がまず第一に安全保障戦略に集中していることが分かる。そしてそれは、前大統領時代に縮小されたエジプトの役割を中東並びに世界において回復することによって行われている。
目を引くのは、その自主独立の気風ならびに枢軸諸国政策との隔絶である。バハレーン危機から完全に距離を取っていた事が示すように、合衆国、湾岸諸国、サウジのお先棒を担ぐ真似をしないよう留意しており、他方でシリア、イランとの関係正常化に努力している。
新エジプトの外交政策の要となるナビール・アラビー博士は、昨日外務省で駐カイロ・イラン利益代表部長ムジュタビー・アマーニー氏と会見の後、現在カイロ・テヘラン間で行われているコンタクトの目的は国交正常化であると宣言し、関係方面、特に米国と湾岸諸国を驚かせた。同博士によれば、「革命エジプト」は世界各国と正常な国交を結ぶことを欲している。また新外相は、イラン外務省によるテヘランへの招待を受理したと述べた。
エジプト新時代は「エルドアンのトルコ」方式で進行していることが明白である。つまり、「敵意ゼロ」を基本路線としてあらゆる隣国と国交を結び、経済的、戦略的利益を優先させ、これまで両国間で問題となったことについては対話路線で調整を図るということだ。
このエジプト新政策の指標は最新の主要な展開の随所にみられるが、次のように要約できよう。
1.ウマル・スライマーンの後任である新エジプト情報局長ムラード・マワーフィー少将がシリアを極秘訪問し、数々の案件で両国間の安全保障と治安面での協調の余地を検討した。
2.数カ月ぶりに、ガザのハマース幹部多数がカイロ空港経由でダマスカスへ行くことを許可された。前大統領はイスラエルに封鎖されたガザから出る事と引き換えにパレスチナ和解文書への署名をハマースに迫っていたが、その制約が破られたことになる。
3.イスラエルとアメリカの抗議にもかかわらず、シリアのラーザキーヤへ向かいそこから戻るイラン戦艦のスエズ運河通航を許可した。
4.レバノンのヒズブッラーとその同盟者に対する敵対的調子は影をひそめ、友好的な態度を示している。同時に、サアド・ハリーリー元首相率いる3月14日勢力に対しては距離を置いている。
5.イサーム・シャラフ新エジプト首相は、就任後の最初の外国訪問地としてスーダンを選び、新エジプトが、かつて優先されていた湾岸地域の安全等よりも、ナイル流域を第一の関心事項としていることを示した。
エジプトが開放的姿勢をとるのと時期を同じくして、湾岸ではメディアと政治が共にイランに対する緊張を高めている。このところのサウジメディアによる反イランキャンペーンを観測すると、戦争が起こりそうに思われる。アフマディネジャード大統領が、バハレーンにおけるサウジの「傲慢な」プレゼンスにつき謝罪を要請した声明の後は特にそうである。バハレーン問題にあからさまに、受け入れがたい形で介入したのは確かにイランの大きな過ちであった。事は完全にアラブの問題であったのだから。しかしイラン側はこの介入について、湾岸の盾部隊として1500の兵をバハレーンへ派遣したサウジと同様の対応であると弁明する。
カイロとテヘランの間で外交関係が樹立されると、イラン、シリア、ヒズブッラー、ハマースに対抗するアラブ「穏健派」枢軸からエジプトが脱却するだけではない。アラブ世界におけるイランの政策に、これまで欠けていた裏書きを与えることになる。現在の域内情勢に大きな亀裂が入るだろう。湾岸諸国が宗派主義をもって主導する現状では、域内はスンナ派陣営とシーア派陣営に分かれている。レバノンではそれが前提としてあり、最近ではバハレーンで同様のことが見られた。
エジプトは急激に変わっていく。対して湾岸諸国は変革を拒み旧態依然とした政策に固執している。中東、いや世界で加速度をつけて推移する事態を正確に読み、ビジョンをもっていれば、この湾岸諸国の対応が戦略的にきわめて大きな誤りであることが分かる。
合衆国はこれらの変化を認めそれに順応しようとしている。アメリカは昨日リビアでの軍事作戦停止を発表し、クリントン国務長官は、民主的蜂起を支援するためシリアに軍事介入する意図はないと述べ、イエメンのサーリフ大統領には政権を移譲し出国するよう要請した。対「アル=カーイダ」戦争における重要な最も近い同盟国をあきらめると明言しているのである。
オバマ米大統領は、湾岸諸国あるいはイスラエルの「番人」になって体制変更戦争に突入するつもりはない。体制変更戦争では、恐怖に駆られたこれらの国々の支配者たちを納得させられない。前任者ジョージ・W・ブッシュが試みたがイラクとアフガニスタンでの戦争に自国を巻き込んだだけだった。結果は各方面での惨劇である。オバマ大統領は国内を基本戦場とし自国経済改善に勤しんでいる。それのみが二期目へつながる唯一のルートであると正しく信じている。巻き上がる中東の砂塵は敗北を保証する魔法の粉なのだ。
汚職に耽溺した独裁政権に対し蜂起したエジプト国民とタハリール広場によって、エジプトの愛国的アラブ的方向性が花開いた。したがって我々は、中東の新たな戦略政策地図の前にいる。しかし歴史の歯車を止めようとする湾岸諸国は、旧体制没落を阻止すべくあらゆる手段での介入を米政権に請願し、民主主義、正義、透明性、尊厳ある生活といった諸国民の要請に反する方向を支援しようと国庫を開いて見せる。遺憾である。
40年以上待ち望まれたエジプトの覚醒がもたらす展開は、中東の顔を変えるだろう。エジプトは既に戦略的優先順位の組み換えを行い、イスラエルによる辱めに屈しないことをその筆頭にあげた。かつてはイランが第一敵国であり、そうあるべしとアメリカ、イスラエル、湾岸諸国に強く要請されてきた故の屈辱だと思うと苦々しさが残る。
エジプト前政権によるこのような場当たり的政策により、イラクはイラン傀儡の手に渡り、パレスチナにおけるアラブの闘争は頓挫させられた。そしてアラブ指導者たちは元の米国務長官ゴンドリーザ・ライスの前に跪くことになったのだ。アラブ穏健派が譲歩に懸命になっている一方で、イランは我々をさしおいてイラクを支配し、パレスチナ抵抗を擁護してきた。このように積み重なった屈辱のただ中から、新生エジプトが立ち上がり、尊厳と自信を伴った賢明なやり方で、失われていたアラブの役割を取り戻そうとしている。以前の卑屈なスタイルから程遠い民主主義的基盤にたって。他の穏健派諸国には、この変転が見えているだろうか。
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( 翻訳者:十倉桐子 )
( 記事ID:22045 )