アナトリア南東部の多くの場所と同様、マルディンでも真の争いは、平和民主党(BDP)系の無所属候補たちと公正発展党(AKP)との間で行われている。しかし、共和人民党(CHP)から議員が1人出ることも驚きには値しない。
ある友人は、「マルディンの雰囲気を感じるために、ガビの店に寄れ」という。それで、マルディンで、ピカピカの真新しいマンションがそびえたつ街の近代的な地区を尻目に、歴史的なマルディンの街に向けて歩を進める。ガビは、ひょうきんで、とても元気な若者だ。あごひげをたくわえ、小さなイアリングをつけた姿は、マルディンではなく、ジハンギルっ子(イスタンブルのお洒落で外国人の多く住む街)のようだ。骨董品とポスターで飾られた宝石店は客足が途絶えない。ガビは座るや否や、「シリアコーヒーにしますか?それともワイン?」と尋ねる。もちろんそれに対する答えは自家製のマルディン・ワイン…。
新聞記者からホームレスまで、ガビの店に立ち寄る人々は、マルディンそのもののように多種多様だ。小さな宝石箱に似たこの街で、クルド人、アラブ人、そしてシリア人が一ところに住んでいる。選挙のため、容赦ない争いはある。しかし、すばらしいのは、どのエスニックグループもブロック投票をしないこと。票は完全に散らばっている。
■議会にシリア正教徒議員
皆さんは具体例が必要でしょうか?例えば、平和民主党系の無所属候補、エロル・ドラはシリア正教徒だ。選ばれれば(といっても、当選はどこでも確実だ)、長い議会の歴史の中で初めてのキリスト教徒になる。このことは、辛苦に満ちた過去と新たに向き合い始めたトルコにとって、象徴的な価値を持つ大きな一歩だ。しかし、ドラが立候補するということは、マルディンに数千人いるシリア正教徒が必ずしも彼に票を投じるという意味ではない。
地域のシリア正教徒は、伝統的に平和民主党の支持する政治的ラインから遠い存在だ。四十人教会のガブリエル・アクユズ司祭に「票はどなたに?」と私が問うと、マイノリティーに特有な控えめな様子で、「我々は政治に関心はありません」と言う。一方、その日私が話した幾人かのシリア正教徒の女性たちは、平和民主党系ではない無所属候補、スュレイマン・ボリュンメズに票を投じると言う。また一方で、クズルテペ地域のクルド人の大多数は、エロル・ドラ(に票を投じる)と言う。
つまり、マルディンにおいて簡単に理解できるパターンはない。
(アナトリア)南東部の多くの場所と同様、マルディンでは、真の争いは平和民主党と公正発展党の間で行われている。しかし、タイイプ・エルドアン首相の最近のナショナリスティックな色彩の濃い発言や、公正発展党のマルディン選出議員立候補者リストの上位3人にクルド人ではなく、アラブ系が名を連ねていることが、与党の立場を難しくしている。平和民主党の票は、2007年からかなり増したようにみえる。平和民主党のアフメト・チュルクは、「もし公正発展党がこれほどひどいリストを作成すると知っていたら、もっと候補者を擁立したのだが」と言う。ディヤルバクルにおけるのと同じように、ここでも日に日に公正発展党のリストが「弱く」なっており、平和民主党が「(公正発展党を)一掃するはずだ」との意見を聞く。
■公正発展党:サプライズがある
しかし、公正発展党のギョニュル・ベキン・シャフクルベイ議員は、この意見に賛同しない。我々は、シャフクルベイ議員と、マルディンの素晴らしい眺めが一望できるブティックホテルの一つ、エルドバに滞在している。なつめやしから作られた「ズィンダン」という菓子とともに紅茶をすすっていると、リストでムアムムエル・ギュルレルの後、二番目の列に名を連ねるシャフクルベイは、「この言葉を以前によく聞きました。2007年にマルディンで公正発展党はもう終わったと言われました。しかし、あなたは見ることになるはずです。みなさんにとって大きなサプライズとなるはずです」と言う。
マルディンの人々は、エルドアン首相が外部から連れてきて、マルディンで(リストの)第一候補にした元イスタンブル県知事ムアムムエル・ギュルレル氏を、「知事」と呼んでいる。トルコの全ての場所、全ての政党において、有権者は、外部から候補者を押し付けられることを好まない。しかしながら、マルディンの人々は、熱心に働く「知事」が大好きである。ただ、ギュルレル氏の「イヤホンをした親衛隊」は皆の笑い草だ。もちろん、知事や国内保安政務次官を務めた人物が、南東部でボディーガードと共に歩き回るのは、不自然である。しかし、全員が(街に暮らす)一人一人を知っているこの愛すべき街の小さなビルの一つで、ギュルレル氏のイヤホンを付けた7つのボディーガードを見ると、その景色はマルディンの人々からすれば笑いものであるということが理解できる。
そうであっても、この街で、公正発展党を「終わった」といって消し去るべきではない。この数年での、マルディンでの病院や道路といったサービスや増加した社会福祉政策は、「いろいろ問題はあるが」、一部のマルディンの人々が公正発展党に目を向ける理由となる。
■「あの子(エルドアン首相)は乗り切るよ」
石榴酢と自家製石鹸を買うために訪れた古い粗末な雑貨屋の81歳の店主は、煙草をくわえながら「オレはあの子に一票入れるね」と明かした。「あの子」とはタイイプ・エルドアン首相だ。長い人生で9人の首相を見たというお爺さんは、「オレはクルド人だが、クルド人には投票しない」と言う。「9月12日(1980年クーデタ)に、彼らはオレを連行した。あの子はどうだ、軍人らをやっつけたんだ!軍人をやっつけた、選挙の後、(手でクルド労働者党を意味するサインをし、Vサインをしながら)、こいつらもやっつけるはずだ」と言う。
既に述べたように、マルディンは混交とした場所だ。まとまった論理など、ここにはない。
街では、平和民主党の3人の候補者、アフメト・チュルク、エロル・ドラ、ギュルセル・ユルドゥルム、そして公正発展党の(リストの)上位二人の候補者、ムアムムエル・ギュレルとギョニュル・ベキン・シャフクルベイが選ばれることは確実視されている。無所属候補、スュレイマン・ボリュンメズの知名度も高まっている。6人目の議席争いは、まだわからない、共和人民党のレシト・クルチ、公正発展党のアブドゥッラヒム・アクダーの間で行われている。
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( 翻訳者:能勢美紀 )
( 記事ID:22658 )