各政党は、トルコ大国民議会の協議委員会にそれぞれの新憲法提案を提出した。公正発展党は3つの条項に修正を加え、共和人民党は「トルコの人々Türkiye Ahalisi」と「トルコ国家Türk Ulusu」という言葉を使った。民族主義者行動党は、「兄弟愛」を主張し、平和民主党は「地域議会」を盛り込んだ。
■公正発展党:序文に、「トルコ人Türk Milleti」の語
公正発展党は、新憲法用に1パラグラフからなる短い「序」を起草した。現行憲法にある「トルコ共和国の創設者、不滅のリーダー、類なき英雄たるアタテュルクの定義した民族主義理解と、彼の主導した革命と原則に基づき」、「トルコ人の存在が、その政府と国家とともに、分割されることがないことを原則とし」、「世俗主義の原則laiklik ilkesiに基づき」といった、共和国の創設以使われてきた概念規定を序に盛り込まなかった。ただし、国民の定義では、「トルコの国民Türkiye vatandaşlığı」を提案する一方、「序」のなかでは、「トルコ人Türk Milleti」という語を使っているいることは注目される。公正発展党の序の文章は次のとおり。
「すべての人が人としての普遍的権利と自由を有するとの確信に基づき、あらゆる種類の差別を否定し、我々の文化の豊かさの源たる民族・宗教の差異に敬意を払い、共通の歴史と価値観の支えのものとともに生きることを希求する我々トルコ人Türk Milletiは、民主主義、人権、法の優越に基づくこの憲法を、主権の表現として認め、これを宣言するものである。」
■「公用語」での一歩
公正発展党は、現行憲法の改変不可の3条項にも手をつけた。国家の形態が共和国であることに関する、現行憲法の第1条は変えなかったものの、第2条を「トルコ共和国は、人権にも基づく、民主的、世俗的、社会的な法治国家である」と、比較的シンプルな表現に変えた。公正発展党案では、現行憲法の第3条「国家の言語はトルコ語である」との表現のかわりに、「公用言語はトルコ語である」との表現を使った。第3条にある「国家、国歌、首都」については、現行のままとした。公正発展党は、現行憲法にある、「最初の3条は変更されない」とする第4条項を「序」案をからら除いた。
■「トルコ民族の名のもとに Türk milleti adına」の表現
公正発展党は、「立法、司法」権限を定める条項において「「トルコ民族の名のもとに」という概念を使った。公正発展党は、新憲法に盛り込んだ「大統領制」提案に沿う形で、行政権に関する条項において「行政権は大統領によって行使される」との表現を使った。公正発展党は、改憲手続きに関する条項にも変更を加えた。公正発展党案によると、憲法変更には国会議員全数の5分の3、すなわち330票が必要となる。大統領は拒否権をもつものの、議会で367票で承認された場合は、大統領はこれを認めざるをえないものとされている。
■民族主義者行動党:国民的一体性と兄弟愛Milli birlik ve kardeşlik
(民族主義右派の)民族主義者行動党では、コンヤ県選出で憲法協議委員会メンバーのファールク・バル議員が新憲法の「序」と、「結び」についての提案を行い、最初の3条の「変更不可」の考え方をそのまま維持させた。民族主義者行動党は、「序」に、「トルコ民族」の概念を使い、「国民的一体性と兄弟愛、友情で」という表現を用いている。民族主義者行動党の「序」案は次の通り。
■民族主義者行動党の「序」案
「ガーズィ・ムフタファ・ケマル・アタテュルクの先導により敢行された解放戦争によって建国されたトルコ国家、古来より自由な存在であったトルコ民族、そして愛するトルコ人の祖国の、永続、独立、不分離、そして、主権が無条件かつ無制限に民族に帰属するという原則の上に起草されたこの憲法は、トルコ国民Türk vatandaşlarıが、人としての名誉と尊厳に基づく基本的人権と自由、すべての人の法の前での平等、誰に対してもいかなる理由によっても差別を行わないことを、法治国家・民主的社会秩序にふさわしいものとして、保障する。この憲法は、その精神、文言により解釈され、実施される。この憲法は、それが作り出した文化、文明的価値により、人類の普遍的価値に寄与してきたトルコ民族が、次の世代へ、国民的一体性と兄弟愛の感情と友情を持ち続けることを保障する。」
■平和民主党:母語の使用の権利を強調
平和民主党はというと、序には、「トルコの人々Türkiye Halkı」という表現を使った。憲法で、「性的な統治」の概念にも触れた平和民主党は、その案に同性愛者に対する憲法上の保障を盛り込んだ。平和民主党の提案で注目される表現は、「政府の行政構造は、地方分権制度ademi merkezi sistemにより整えられる」という部分である。平和民主党は国家の公用言語はトルコ語であるとしつつも、「「トルコの人々が用いるその他の母語が、地方議会の決定に基づき第二公用語として使われうる」ことを提案している。平和民主党は、すべての人が、私生活のみならず、公的な組織との諸手続きにおいて、公用語と並んで、自分の母語を使う権利を有することを強調している。
■平和民主党:平等と、「積極的差別是正pozitif ayrımcılık」原則
平和民主党は、「財政、経済関連条項」において、国防に充てられる予算が個々に審査され、(その合計が)教育、保健、社会保障に割り当てられる予算を上回ることがないようにし、課税においては、宗教、宗派の間の平等と、「積極的差別是正措置」の原則lが検討されることを提案した。平和民主党の憲法案では、「エネルギー資源の開発・利用を目的としたエネルギー政策が実施される。エネルギー資源計画が行われるにあたっては自然・歴史遺産の保護が必要とされる]との表現がもりこまれた。
戦争被害の特定と補償に関する提案は「特別条項」部分にもりこまれ、戦争被害の特定、戦争のために立ち退きを余儀なくされた人々の帰還、被害をうけた住環境の回復、被害の弁償・補償のために国会に委員会の設立を提案している。
■共和人民党:「Hem ahali hem de ulus
共和人民党は、現行憲法の「変更不可」3条をそのままとし、「序」に大きな変更を提案している。共和人民党の協議委員会メンバーが作成した最初の案では、第二条は(「言語はトルコ語である」にかわって)「公用語はトルコ語である」とされていたが、共和人民党クルチダルオール党首の「現時点では、変更不可3条についての議論を現時点で我々が始めるのはやめよう」という意見をうけ、この変更案は放棄されたという。
(共和人民党の)カルト議員は、第3条の「人権に配慮し」という表現の代わりに「人権に基づき」という表現を使うのは容認されうると述べた。この結果、共和人民党の提案では現行憲法の「変更不可」3条と、その「変更不可」を定めた第4条は、そのままとされた。共和人民党は、序文に次の文章を提案している。
■共和人民党:「トルコの人々Türkiye Ahalisi」の表現
「チャタルヒュユク以来この土地に耕し、文明を建設し、1000年にわたり友愛のもとに生き、バルカン、カフカス、中央アジア、メソポタミアからこの地に移り、アナトリアで出会った諸文明の遺産継承者であるトルコ共和国の人々Türkiye Cumhuriyeti Ahalisiは、(解放戦争の戦地)チャナッカレで、サラリヤで、アフィヨンで、「独立の伝説」を世界に知らしめ、他のしいたげられた諸民族への先導者となった。(トルコ共和国の人々Türkiye Cumhuriyeti Ahalisiは)ムフタファ・ケマル・アタテュルクの主導のもと、あらゆる種類の差別を否定し、国民的一体性の理解のもとで差異と文化的多様性を豊かさの源とする平等の考え方により、また、「トルコ民族Türk Ulusu」の名のもとに、人間の名誉、人権、法の優位、社会的正義、継続的・多元主義的民主主義の理解に基づく、世俗的な(laik)共和国の諸機構と諸規則を定め、歴史的・文化的遺産と自然環境の保護と存続を意図するこの憲法を、共通の意思として作り上げた。(我々は)出自、言語、性、信仰の違いに関わらず我々の記憶の源となっている「トルコTürkiye」の名で我々が呼ぶこの美しい国土を故郷とする住民として、また、「月と星」の旗のもと、我々の主権と我々の共和国の建設者ムスタファ・ケマル・アタテュルクの「近代文明の目標」と「恒久的平和の理想」への我々の従属の表現とし、我々の代表とともに、この憲法を承認する。科学の進歩に照らし、また絶えず変わりつつある世界からの要請にこたえ、国民yurttaşlarの間の協調と精神的一体性に基づく理解により、次の世代の自由・平安・安寧・幸福のために、(次の世代が)この憲法をわがものとし、合法性を失ったものに対し抵抗する権利を行使するであろうことを信じ、次の世代へと、(この憲法を)引き渡し、委ねるものである。」
■憲法改正時の「無記名」撤廃
公正発展党の提案によると、国会での憲法改正の承認のためには、議員全定数の5分の3、すなわち330票が必要となる。公正発展党は、憲法改正にあたっての、無記名条件を撤廃することも提案している。
(本記事は
Asahi 中東マガジンでも紹介されています。)
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( 翻訳者:トルコ語メディア翻訳班 )
( 記事ID:29619 )