■対シリア開戦を告げる太鼓は打ち鳴らされたか?
【フサイン・アブドゥルアズィーズ】
ここ数日中に、シリアは、シリア国内ばかりか中東全域にわたるゲームのルールの変更およびシリアが占めているバランスの変化につながるような重大な局面を迎えようとしている。重大な局面とは、米国及び多くの欧州同盟国の声明によって確実視されている軍事攻撃の開始を意味している。
軍事攻撃が切迫していることは、シリアでのあらゆる軍事行動に警鐘を鳴らすに止まらず、露政府はシリア内戦を理由に軍事抗争に介入する意図はないと明言したセルゲイ・ラブロフ露外相の声明が、何よりも如実に示している。
しかしながら、明確な答えを欠いた疑問もいまだに多く存在する。軍事作戦はいかに遂行されるのか?軍事作戦への参加国はどこか?トルコやヨルダンなどの近隣国は参加するのか?この作戦が最終的に目ざす軍事的到達点はどこにあるのか?戦争が政治の延長である事を考慮すると、軍事行動により望まれる政治的達成とは何か?そして最後に、シリア政府及び中東の同盟諸国はこの重大局面にいかに対処するのか、等々…。
これらの疑問に対して、確固たるかつ正確な回答を用意するのはむずかしい。というのは、過去2年半にわたりシリアが経験したことや国際社会のさまざまな反応は、信頼の欠如が信頼に足る状態を上回っていることを示しており、往々にして歴史は過ちを繰り返すということをわれわれは教訓にしてきたからである。
それでも、米国の政策決定者がシリアの事態をいかに読み解いているかを理解することで、先の疑問に答える事は可能である。米国政府は、政治的選択こそがシリア危機解決への唯一の選択であり、いかなる軍事行動もこの目標に資する以外の何物でもないとの確信を、今も抱き続けている。この確信は、シリア政府を崩壊させようとなにか企てれば、シリア政府をして確実に米国、特にイスラエルの利益に打撃を与える方向へ追いやり、その結果中東全体が激しい戦争に包まれることになり、そうした事態を国際秩序における大実業家たちは望まぬことをわきまえた米国の自制心に由来している。
また米国は、内戦(それは宗派戦争へと様変わりする)によりシリアの社会基盤が崩壊すればそれだけでなく、しばらくすると国家や社会の基盤の脆弱(ぜいじゃく)なイラクやレバノンへも内戦が飛び火するであろう事を恐れており、ポスト・アサド段階で軍事的・政治的統制能力のある代替者が不在となる事態を危惧する米国は、シリアの国家的まとまりが維持される事を望んでいる。米国のマーティン・デンプシー統合参謀本部議長は、仮に反体制派の武装勢力が政権を掌握しても米国の国益を推進するとは考えられず、シリアへの軍事介入は米国の国益に資する状況へと導くものではないと述べたが、この声明は恐らく、米政府が踏み止まる境界線はどのあたりかを理解するための重要なメルクマールとなりうるであろう。米政権は、ロシアとの協調の下で行われるシリアに関する国際会議(「ジュネーブ2」)がシリアでの抗争をシリア国内に抑制するのに効果があると考えている。この米露間の合意は、この数カ月間における、米政府がシリアでの抗争のバランスの変化をもたらすような特別の武器をシリア反体制派へ供給するのを拒否し、一方ロシアもシリア政府軍へ最新鋭のS300ミサイルの引き渡しを拒否する事を通じて示されてきた。
以上に基づくと、いかなる軍事行動もその目的はアサド政権の崩壊やシリア国家を崩壊させることではなく、攻撃の主眼は以下の2つの目的達成のために、化学兵器をターゲットにした強烈な軍事攻撃をシリアに加えることにあると言うことが出来る。目的の1つ目は、イスラエルにとって直接の脅威となる兵器をシリアから取り除くことであり、2つ目は、アサド政権にむけて、政治的解決の道を選択するとともに政治交渉での要求条件を引き下げるよう促すメッセージを送ることである。
上記の観点からすれば、地上での軍事作戦も、近隣諸国からの軍事介入もありえないことになり(トルコはあらゆる軍事行動に参加する準備があると表明しているが)それは、米政府がこの段階で中東カードを切る事を望んでいないためである。だがその一方で、シリアに対する攻撃が地中海沖の遠方から軍艦によって行われるであろうと、おおかたの観測筋は見ている。この場合、シリア政府やその同盟諸国は攻撃元に対して直接反撃することができない。そうすることは、シリア政府も、イラン政府も、露政府さえもが、コスト算定が出来ない程負担の大きな戦争を始めることを意味しているからだ。さらにこれらの国々は、戦争によって中東地域における西洋諸国の利益を傷つける事もできない。もしそうなった場合には、シリア政府との戦いはシリアを政治的に飼い慣らす段階から、同国を政治的・軍事的に完全に廃絶する段階へと移行するであろうからである。そしてこれこそが、シリアの戦いに関わる中東および国際諸勢力の全てが一様に意図している狙いなのである。
本記事は
Asahi 中東マガジンでも紹介されています。
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( 翻訳者:川上誠一 )
( 記事ID:31319 )