コラム:アレッポ郊外バーブ市における「ダーイシュ」の実態
2014年03月26日付 al-Quds al-Arabi 紙
■「ダーイシュ」は、アレッポ郊外バーブ市の最後の砦に「ターリバーン的国家」を設営
【アレッポ:ワーイル・アーディル(本紙)】
「友よ、バーブにはいいものが沢山ある」。彼は5本目のたばこをうまそうに吸いながら言った。バーブ市では、アレッポに来た時に彼が私に教えてくれたように、喫煙は隠れて行われる。市を占領しているイラク・シャーム・イスラーム国のメンバーが、たばこを吸っていたのかどうかを確かめるために指のにおいを嗅ぐ。彼らが市を占領して最初に行なったことは、ある商人が所有する数トンものたばこを燃やしたことだった。これは数百万ポンド超に相当する額だ。
彼らは数日前にバーブ市で紙を配布していた。その紙にはアッラーの掟を破った時に課される刑罰のリストが書かれており、それは不信仰の言葉を口にした者に対する死刑に始まり、石投げの刑、むち打ち、死刑、そして棄教者に対する死刑に至る。
アリーは40代だが、もう70を越えているかのような印象を与える。彼は話の焦点にたどり着くまで長々と回り道をし、最初の話に戻る。そこで、彼は私の質問に答える。なぜこの組織(イラク・シャーム・イスラーム国=ダーイシュ)がバーブ市から撤退しないのかとの問いだ。バーブ市はアレッポ東部に位置する。アリーはこう答える。「友よ、肉や、野菜、乳製品、バーブにはたくさんのいいものがある。彼らは異常なほど肉が好きなんだ。俺が彼らに私の親戚の様子を尋ねたとき、つまり、親戚は政権の手先だとの容疑をかけられていて、彼らに囚われていたのだが、彼らは口裏をあわせているかのようにこう答えた。『彼は肉を食べてヨーグルトを飲んでいるさ』」。
親戚が牢獄から出てきたとき、彼らは希にしか食べ物を与えてはくれず、もし家族が自分に差し入れしてくれた食べ物がなかったなら、空腹を満たすことは絶対にできなかっただろうと話した。アリーはかっかして言う。「兄弟よ、彼らは嘘をついているんだ」。アリーが新しいたばこに火をつけると、怖がっていたアブー・ザイダーンも話に加わった。「彼らは今ではバーブにとどまることを恐れるようになった。彼らを狙った暗殺事件は増加している。しかし、小麦で満たされた穀物貯蔵サイロはいつまでも残るものではないことを忘れるな。我々は毎日彼らがサイロから出した小麦を10台以上のトラックに載せるのを見ている。どこに運んでいるのかは分からないがね」。
アリーは言った。「友人の店で座ってたばこを吸っていたら、友人がたばこの火を消すように合図したんだ。組織の連中の一人が近づいてきたからだ。だけど俺は拒否した。するとそいつは本当に店の中に入ってきて、俺に向かってフスハー(正則アラビア語)で話し始めた。『それは罪なる行いだ、兄弟よ』。そして彼の仲間も入ってきてたばこを止めるように要求したが、俺は拒否して、もし俺が罪を犯しているならばアッラーがその清算をしなさる。自分たちの過ちを認めてから俺たちのことを罰せよ、と言ってやった」。
「組織の二人は驚き、俺の話の続きを待ったのだが、そのとき、テレビ画面に、組織がフライターン市から撤退した後に、組織の施設の中で集団埋葬のあとが発見されたというニュースが映し出された。俺はニュースに触れたが、二人は嘘をついた。そしてサウジ人は『このニュースは嘘だ。我々は密通者であれば刑罰を下し、殺す。どこに埋めればいいというんだ?』と言った」。
「我々の議論は、遺体を家族に引き渡すこと、戦時においては規則は適用されないのか、そうでないのかということにも及んだ。そして二人のうち一方が感情を打ち明けた。『お前たちバーブの住人は我々のことを好いていない。アレッポの住人たちは我々のことを好いていた』」。
「俺は彼にそのことを強調し、お前たちは虐殺と血と人殺しのためにやって来て、不当に町の青年たちを殺したと言った。お前たちに息子を殺され町を占領された人がどうやってお前たちを好きになれるというのか!アレッポの住人たちの一部がお前たちのことを好きだったのは、たぶんお前たちが武器を使って盗みを働いていた盗賊を捕まえたからだ。しかしお前たちは革命家たちの大半をも殺してしまった」。
バーブ市にはおよそ15万人の人々が住んでいたが、反乱軍と政権の間に衝突が発生、2年前から今日まで爆撃が続き、しまいにはイスラーム国と反乱軍との衝突が起こるに至った。これらの出来事すべてがこの小さな町の人口構成を変えてしまった。最近ではアレッポ市へのたる爆弾攻撃の増加にともない多数の世帯がバーブ市に避難し、そのために家賃が高騰している。組織のメンバーには当然特別価格が準備されているのだが。
アリーは次のように言って話を終えた。「自分の親戚が自分を殺すために覆面を被ることほど悪いことはない。バーブの住民が組織のメンバーやその一味と共に覆面を被り、自由軍の一員に加わったと疑われる者のもとに出向き、容赦なく粛清を行う。彼らの主張によれば、彼が棄教者であり、イスラーム国と戦っているからと言うことで。俺が組織のメンバーについて友人の店で議論していた時でさえ、覆面を被った者はやって来た。シリア人であると分かったが、彼は友人たちを怒鳴りつけ、議論を終わらせ、彼らに『さあ立て…さあ!』と言って俺に向かってしかめ面をした。彼らと議論していたことで殺されるかも知れないと怖くなり、俺は逃げ出した」。
本記事は
Asahi 中東マガジンでも紹介されています。
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( 翻訳者:前田悠作 )
( 記事ID:33337 )