■中東で燃えたぎる火山
【ランダ・タキーッディーン】
現在、ガザからシリア、イラク、リビア、イエメンに渡って中東全域を覆う炎は、燃えたぎる火山の様相を呈している。世界はこの炎を鎮めることができなかった。罪深き指導者と政治によって紛争へと突入してしまったアラブ地域、そこで起きている諸々の戦争により、何百万もの民間人が犠牲となった。ガザに関して言えば、イスラエルの占領政策は、他に類のない世界的な助けを得て過激主義を助長し、暴力、抑圧を行うことで、その反発として(ガザ地区の)過激主義、暴力を生み、かつそれを助長してきた。新たな米大統領が選出されるたび、イスラエル・パレスチナの和平実現への取り組みが誓われる。しかし、その誓約は早急に放棄される。イスラエルの同盟勢力が、パレスチナ国家建設を、そしてパレスチナ人民とのあらゆる和平を拒否しているからだ。結果、パレスチナ人民はイスラエルの占領下に甘んじ、レイシズムに寄って立つ占領者に敵対する過激主義は勢いを増し、彼らに対する拒否・嫌悪の感情は助長されることになるだろう。彼ら占領者はキリスト教徒を追放し、アラブの土地を収奪し、そこに入植地を建設してきた。そしてこれらの所業は西側の支持の下で行われてきたのだ。イスラエルがガザを攻撃し始めた際に、仏大統領が発した最近の声明は、アラブ・イスラエル紛争に関して仏のオランド政権が対米従属の立場をとっていることを顕著に示すものだった。ニコラ・サルコジ元大統領の時代まで、この紛争に関する仏の立場はより公平であった。ゆえに、オランド大統領が声明で、イスラエルの自衛権を認める一方、パレスチナ人の人権を侵害するユダヤ人国家の政策が暴力と過激派の源泉になっていることへの認識を示したことは、驚きであった。また、シリアやイラクで起きている他の戦争に関して言えば、これらの戦争は、国家の頂点に居座り続けることに執着し、国土を荒らし、人民を殺戮(さつりく)・放逐した抑圧的かつ腐敗した国の指導部の産物であると言える。リビアに広がる戦乱と混沌(こんとん)は、故カッザフィー大佐が40年にわたって行い続けてきたことの結果であり、国家の原型を砕き、支配体制に混沌をもたらした。西側はリビアを見放し、リビア国民の命運が殺しと盗みによる支配を試みる民兵組織の支配下に置かれることを許したのだ。これらの民兵組織に逆らえる者は誰一人いない。
アラブの情勢は恐ろしくおぞましい様相を呈している。大統領の不在と脆弱(ぜいじゃく)な治安体制に苦しむレバノンもまた、シリア、ガザ、イラクの火山地帯に囲まれており、血に染まる危険にさらされている。湾岸諸国も、情勢が乱れる隣国同様、この噴火の余波から免れない。イランの体制やイエメンの不安定な情勢は、国家・地域を揺らがせている。しかし、世界情勢において経済的・政治的重要性を有する湾岸諸国であれば、その力を駆使して、アラブ諸国および世界全体を脅かす火山噴火の鎮静化に大国を動員することができるのではないか。今日のアラブ世界の情勢は、われわれを中世の世界に、そして国土を荒廃させ人民を殺戮する血まみれの戦争へと引き戻した。一人の男がシリアという国家の頂点に居座り続け、それが17万人以上の犠牲をもたらした上に、混沌と無秩序の中で選挙を実施し、自身の勝利を宣言する、現代の世において、果たしてこのようなことが許されるというのか?また、誰がリビアの民兵を制御し、至る所に散らばる兵器を除去して、安全な暮らしを切に望むリビア国民が平和を取り戻せるようサポートしてくれるのか?アラブ世界を取り巻く危機的状況は悪化する一方だが、これは中東地域に住む人々だけにとっての危機ではない、世界を取り巻く危機なのだ。そしてその解決は、仏のオランド大統領とマニュエル・ヴァルス首相の「われわれはアラブ・イスラエル紛争がわれわれの国土にまで飛び火することを許さない」といった言葉に見出されるものではない。そうではなく、実効性と強制力を伴った、紛争解決への働きかけによってのみ、実現可能なのだ。また、他のアラブ諸国の紛争について言えば、アラブ諸国と西側諸国は、戦火を鎮め、自国を荒廃させている国家の指導層を取り除くべく、互いに協調して取り組むべきだ。
しかし、悲観的になる要素はこれに留まらない、西側の指導者層は停滞する経済状況に苛まれており、消極的な決定しか下せない、または決定自体誤ってしまうといった状況に頭を抱えている。アラブの情勢は痛ましいものであり、現状においては、これらの紛争を解決するかすかな希望さえもない。とはいえ、このまま中東で燃え広がる炎を放置しておくことは、世界にとっての危機を生み出すことになるだろう。
本記事は
Asahi 中東マガジンでも紹介されています。
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( 翻訳者:辰巳新 )
( 記事ID:34716 )