コラム:イラクの国民運動
2015年08月05日付 al-Quds al-Arabi 紙


■「千人のサッダームのイラク」オバマとアバーディーの告白の狭間で

オバマ米大統領は、その歴史的な告白の中で次のように述べた。「2003年のイラク戦争においてアメリカ合衆国は賢明ではなかった。イラクにおけるアル=カーイダの出現もイランの勢力とその核プログラムの強化も、われわれが3兆ドルも費やしたその戦争の結果に他ならない。これが歴史の現実だ。」

合衆国大統領の良心がこの遅すぎた覚醒を果たす一方で、イラクでは大衆デモが、蔓延する汚職と失業、公共サービスの機能不全に対する抗議の声をますます高めている。それらのデモは、政治、宗教分野の要人たちから公の支持を得た。アバーディ首相もデモによる要請の正当性を認め、それらは、政府機関が受け入れるべき「警鐘」の役割を果たしていると評した。

注目されるのは、バスラで電気問題の改善を求めて始まったこのデモが、たちまち、地理的には南部および中部の各県に拡大し、その要請の面では、イラクの人々の日常生活を苦しいものにしている数々の原因を網羅するようになったことである。

この国民的動きに対するアバーディーの懸念の深さは明白である。バグダードでのデモ隊のシュプレヒコール「スンニー派もシーア派もない、盗人の集団を追い落とせ!」が示すように、この動きは宗派を超えている。

オバマとアバーディーの告白が交差するところで、この国の現状に目を向けなくてはならないだろう。世界で最も豊かな石油資源をもちながら、アメリカの侵攻から今日まで電気の問題を解決できずにいる国、メソポタミアの恵みに満ちているはずなのに、政府や治安部隊で働く人々に給与を払えず、百万を超える国内避難民には支援さえ提供できない国の現状に。

第一に、アメリカはイラクに何をしたのだろうか。現在のイラクで人々が言うところによれば「アメリカは、一人のサッダームから我々を解放し、千人のサッダームを連れてきた」。この言葉は、民兵組織を有する諸政党が支配する国の状況を端的に表わしている。軍のように見えるが、それら民兵は法の枠組みの外にいる。それどころか、彼ら自身が法となった。イラクの三分の一以上を占領し、各都市に「総督」をおくテロ組織「イスラーム国」もその一つである。彼らは、人々の宗教や宗派がなんであろうと構わず、暴虐の限りを尽くしている。

サッダームの時代には、国民に対し多くの犯罪、侵害が侵されたことは確かであるが、そこには国家があった。大統領、中央の権力、国軍、堅固に結びついた社会がそれである。ところが現在は、ほころびた政治プロセスは存在しても、実情として国は「クーデター」状態にある。軍事的権限は国軍ではなく民兵組織に、政治的権力は宗教権威に掌握され、彼らのみが、政府を辞任させたり任命したりできるようになった。

次に、オバマ大統領はイラクの破壊に3兆ドル費やしたことに言及し、ブッシュ前大統領の愚かしさと罪から、いまだにイランが益を得ていることを指摘した。しかし、米侵攻軍の手により命を奪われた百万人以上の、そして拷問や負傷により障害を負った数十万の罪なきイラクの人々にかんしては「忘れたか、あるいは忘れたふりをした」。つまりワシントンは、人権について他者に説教しながら、政治目的実現のためにはそれを侵害してもよしとの態度を貫いている。

最後に、アメリカ侵攻後のイラクはアフガニスタン他からのテロ集団をひきつける「磁場」、そしてそこから中東の他国へ入れる「橋頭堡」となった。他国へ侵入した彼らはその国を引き裂き、大部分を支配するようになる。結果として、合衆国は「アル=カーイダ」の面前で臆面もなく逃げることにした。カーイダはじきに「イスラーム国」となり、米国高官らによればこれを壊滅させるには「20年」が必要だという。アメリカは対テロ戦争連合を形成したが、そこには馴れ合いに近い怠慢さがみられた。そして、二日前に出された研究機関のレポートによれば、イラクでは昨年500人が連合軍の爆撃で死亡している。

これは、ワシントンがイラクのみならず中東全域に対して犯した大罪のほんの一部である。結論として、イラクの人々は最低限の尊厳ある暮らしも保障されず、戦闘、爆発により毎月3000人近くが死傷するという対価を支払い続けている。主権なきイラクでは多くの国々が争い、それらを押しとどめることは難しい。宗派やコミュニティで分裂したイラクは、多くが観測するように、かつての形には戻らないだろう。

この現状において、暗闇のトンネルに差す一点の明かりのような最近の国民運動の意義は際立ってくる。イラク、またはその残骸に群がる政治家たちがこれを攻撃しなければの話だが。

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( 翻訳者:メディア翻訳アラビア語班 )
( 記事ID:38372 )