難民となったシリア人男性
■シリア人は、近隣諸国での居住より欧州への地獄の道を選ぶ
【ベイルート:ラーミズ・アンターキー】
シリア人の若者ハサン・ムキームは、友人でドイツにいる難民のザーヒルと連絡を取り合いながら、レバノンで毎日多くの時間を過ごしている。彼は、インターネットを通してテキストメッセージや通話をすることで、レバノンからトルコ、ギリシャへ行きドイツに至る旅程を詳細に渡り全て把握しようとしている。
加えて彼は、定期的に「行き場のない者のステーション」というFacebook上のシリアのページを追っている。このページは、避難先の国に至るための「密出入国」による不法な移動に特化した情報を載せている。
ハサンは、小さな家族の責任を背負っているが、次のように述べた。「レバノンを去り他の国へ行くという考えが芽生えたのは、レバノンの治安当局が今年初頭に、同国でのシリア人の滞在や入国を制限するという決議を定めてからだ。彼は、この決議を「難民の首を絞めるものだ」と看做している。シリア人が居住許可を更新するのは難しくなったのである。ハサンは、友人のザーヒルと連絡をとり、いかなるステップをも踏み出す前に、リスクや予測しうることを計算に入れようとしている。彼によれば「この旅に誤りは許されないから」だ。
ハサンは大学での教育を続けることが出来ず、冷蔵庫や洗濯機の修理などをして働いている。またこれ以外の就業機会には恵まれず、彼は、レバノンに3年間滞在して、財政的な安定を手に入れることは難しく、シリアが平和で安全な状態に行き着くことは夢であったが、それさえ時が過ぎる中で消え失せてしまった、と言う。そして、ついに難民の波がヨーロッパに押しよせた時、ハサンは完全にある考えに至らしめられることになる。それは彼の友人や同国人を真似て、この今では周知の旅に出て、彼の国やその周辺国では手に入らなかったものが手に入る国に向かうというものだ。
その旅はレバノンから、空路トルコへ向かい、トルコから海路でギリシャへ不法な方法で向かう。そしてギリシャから、難民はヨーロッパの一国へ移動する。その国とは、運送手段を利用するか、もしくは場合によっては徒歩で行くかで選ぶ。大抵シリア人はドイツやスウェーデン、オランダ、デンマークを目指す。
レバノン-トルコ間という旅の始めの部分は安全で合法である。しかし、ギリシャへ向かう次の部分はより一層の危険が伴う。つまり多くの難民は、海の予測不可能な状況に対応しきれない小さなボートで海を越えるのだ。また、その後の旅にも不安定な側面がある。つまりこれらの国々を通過した者らの複数の証言によれば、時として治安部隊による厳しい対応があり、不当な暴力的措置がなされることもあるという。
ある匿名希望のシリア人青年が語ったところによれば、彼は先週ドイツに到着したが、レバノンから同地までの旅は3500ドル弱かかるという。これはヨーロッパに避難を望むシリア人が、貯金や借金によりなんとか確保できる額であると彼は考えている。
この若者はこれをギャンブルに例えたが、ここでのリスクは金銭ではなく人生そのものの賭けであることだ。そして旅の費用を下げれば下げるほど、危険性や困難さは増加するのだ。
シリア人女子大生でレバノンに在在しているモナ・ファーディルはこう述べる。シリアの周辺国々は多くの難民を受け入れているが、これらの国々では難民やその家族に尊厳のある生活を保障する仕事を長期間提供することが出来ない。元々自身でビジネスが出来るだけの財力を持った難民は例外であるが。彼女はこれらの国々が、シリア人の就労の機会を確保し、シリア人が安定することも望まないように理解しているという。これは最終的に、今のような形でシリア人に彼らの国で落ち着こうという気持ちを起こさせないためである。
(後略)
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( 翻訳者:増田まい )
( 記事ID:39020 )